6-3
看板には『オティリー』と書いてある。店づくりは大きく、繁盛しているようだ。酒を出す店だろうか。
中に入ると、熱気を感じた。思ったよりも人が多く、窮屈そうだ。机を囲み、みな熱心に話し込んでいる。入が先導して空いている席を探していると、人々は句朗たちを、首を伸ばして見てきたり、指を差したりした。
「おおい、ここに座りな」
知らない男たちが声をかけてきた。自分たちの荷物を抱きかかえ、二人のために席を空けてくれた。
「ありがとうございます」
入がそう言ってそこに座ったので、句朗もその向かいに座った。
「あんたさん方、煙羅の蒼羽隊かい?」
隣の男が尋ね、句朗が答える。
「ええ、そうです」
「若いんだねえ、いくつ?」
「えっと、僕、自分の歳を知らないんです」
「句朗、なんにする」
メニューを見ている入が、上目遣いで句朗に尋ねる。
「歳を知らない?」
「じゃあ、記憶を消すってのは本当なのかい」
はす向かいに座る男が身を乗り出す。
「ええ、えっと……」
「私と同じのでいい?」
「ウン」
隣の二人は、どうやら布雲から来た旅行者のようだった。蒼羽隊のことを珍しがって、根掘り葉掘り聞いてくる。他の何人かの客も、珍しそうに二人の話を聞きに来たり、別の珍しい客を見つけて去って行ったりした。
木偶を見られたら、騒ぎになるような気がして、句朗はそっとポケットの奥に押しやった。
派手な桃色の、刺激的な飲み物が運ばれてきた。入は美味そうにそれを飲む。恐る恐る口をつけてみると、非常に甘く、砕かれた氷の粒が入っているのが冷たくて美味しかった。
隣の男たちのところへステーキが運ばれてくると、彼らは待ちきれなかったという様子でそれにがっついた。しばらく静かになりそうだ。
「ここは、いろんな場所から来た人が集まる店なんだ。楽しいでしょ」
「うん、面白い」
「布雲のことは、知ってる?」
「たしか、赤えいを渡って行くんだよね」
油隠と布雲を分ける海には、凶悪な生き物が住み着いており、船では渡れない。そこで、赤えいという生き物に橋渡しをしてもらうのだ。
赤えいは巨大な平たい魚で、決まった時期になると、海面に浮かび上がってくる。油隠と布雲を行き来する場合は、何日もかけて赤えいの上を歩くのだ。決まった時期に海面でじっとしておいてもらう代わりに、赤えいの背中の植物を燃やしたり、苔を剥がしたり、掃除するしきたりになっている。
「赤えいも、透という呪師が話をつけてくれたのかな」
「そう言われてるけどね」
「透の話は、……こっちでも聞くよ、……」
隣の男が肉を頬張りながらそう言い、口から食べこぼしを落とした。
「じゃあ、透って実在するのかも」
入はそう言って、隣の男たちの食べっぷりを盗み見た。
「布雲の掟だと、たしか肉を食べられないんだよね」
「食うために、……産むべからず、……」
はす向かいの男が、咀嚼しながらそう言った。
「食べるのを目的に、産ませちゃだめってこと。つまり油隠でやっているワイラの牧畜なんかが、できないんだって」
入が説明する。
「野生の、……動物を、……狩るしかない、……」
食べ終わってからしゃべればいいのにと少し呆れたが、それほどのごちそうなのだろう。
はす向かいの男が、水を飲みほしてから、羨ましそうな顔をして言った。
「油隠の掟は、楽でいいよな」
「うん。普段気にしないもんね」
『朋の骨身を食うべからず』という油隠の掟は、同じ種類の生き物の肉を食べてはいけないという意味のはずだ。
人間は人間の肉を食わなければ、問題ない。
「そうでもないさ」
後ろの席の男が、いきなり話に入ってきた。
「一年くらい前に知り合った女がよ、あれの最中に、自分の腕だの足だの乳だのを、噛め噛め言うんだ」
「かめかめ?」
入は意味が分からないようだ。
「それでよお、思い切り噛み付くと、まあ、いい声で鳴くんだ。痛いのが好きなんだな」
句朗はなんとなく察して、静かにしておいた。
「俺、だんだん夢中になっちまって。まるで獣になったような気持ちになったんだ。それで思い切りあいつの太ももに噛み付いたらよお、来ちまったんだ」
そういう話が好きなのか、周りの人間はみな顔を上げ、その男の話を聞いている。
「来ちまった?」
誰かが促す。
「油隠様がよお」




