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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第六章 句朗
57/124

6-3

 看板には『オティリー』と書いてある。店づくりは大きく、繁盛しているようだ。酒を出す店だろうか。

 中に入ると、熱気を感じた。思ったよりも人が多く、窮屈そうだ。机を囲み、みな熱心に話し込んでいる。入が先導して空いている席を探していると、人々は句朗たちを、首を伸ばして見てきたり、指を差したりした。


「おおい、ここに座りな」


 知らない男たちが声をかけてきた。自分たちの荷物を抱きかかえ、二人のために席を空けてくれた。


「ありがとうございます」


 入がそう言ってそこに座ったので、句朗もその向かいに座った。


「あんたさん方、煙羅の蒼羽隊かい?」


 隣の男が尋ね、句朗が答える。


「ええ、そうです」


「若いんだねえ、いくつ?」


「えっと、僕、自分の歳を知らないんです」


「句朗、なんにする」

 メニューを見ている入が、上目遣いで句朗に尋ねる。


「歳を知らない?」


「じゃあ、記憶を消すってのは本当なのかい」

 はす向かいに座る男が身を乗り出す。


「ええ、えっと……」


「私と同じのでいい?」


「ウン」


 隣の二人は、どうやら布雲から来た旅行者のようだった。蒼羽隊のことを珍しがって、根掘り葉掘り聞いてくる。他の何人かの客も、珍しそうに二人の話を聞きに来たり、別の珍しい客を見つけて去って行ったりした。

 木偶を見られたら、騒ぎになるような気がして、句朗はそっとポケットの奥に押しやった。


 派手な桃色の、刺激的な飲み物が運ばれてきた。入は美味そうにそれを飲む。恐る恐る口をつけてみると、非常に甘く、砕かれた氷の粒が入っているのが冷たくて美味しかった。


 隣の男たちのところへステーキが運ばれてくると、彼らは待ちきれなかったという様子でそれにがっついた。しばらく静かになりそうだ。


「ここは、いろんな場所から来た人が集まる店なんだ。楽しいでしょ」


「うん、面白い」


「布雲のことは、知ってる?」


「たしか、赤えいを渡って行くんだよね」


 油隠と布雲を分ける海には、凶悪な生き物が住み着いており、船では渡れない。そこで、赤えいという生き物に橋渡しをしてもらうのだ。

 赤えいは巨大な平たい魚で、決まった時期になると、海面に浮かび上がってくる。油隠と布雲を行き来する場合は、何日もかけて赤えいの上を歩くのだ。決まった時期に海面でじっとしておいてもらう代わりに、赤えいの背中の植物を燃やしたり、苔を剥がしたり、掃除するしきたりになっている。


「赤えいも、透という呪師が話をつけてくれたのかな」


「そう言われてるけどね」


「透の話は、……こっちでも聞くよ、……」


 隣の男が肉を頬張りながらそう言い、口から食べこぼしを落とした。


「じゃあ、透って実在するのかも」

 入はそう言って、隣の男たちの食べっぷりを盗み見た。


「布雲の掟だと、たしか肉を食べられないんだよね」


「食うために、……産むべからず、……」

 はす向かいの男が、咀嚼しながらそう言った。


「食べるのを目的に、産ませちゃだめってこと。つまり油隠でやっているワイラの牧畜なんかが、できないんだって」

 入が説明する。


「野生の、……動物を、……狩るしかない、……」


 食べ終わってからしゃべればいいのにと少し呆れたが、それほどのごちそうなのだろう。


 はす向かいの男が、水を飲みほしてから、羨ましそうな顔をして言った。

「油隠の掟は、楽でいいよな」 


「うん。普段気にしないもんね」


『朋の骨身を食うべからず』という油隠の掟は、同じ種類の生き物の肉を食べてはいけないという意味のはずだ。

 人間は人間の肉を食わなければ、問題ない。


「そうでもないさ」

 後ろの席の男が、いきなり話に入ってきた。


「一年くらい前に知り合った女がよ、あれの最中に、自分の腕だの足だの乳だのを、噛め噛め言うんだ」


「かめかめ?」

 入は意味が分からないようだ。


「それでよお、思い切り噛み付くと、まあ、いい声で鳴くんだ。痛いのが好きなんだな」


 句朗はなんとなく察して、静かにしておいた。


「俺、だんだん夢中になっちまって。まるで獣になったような気持ちになったんだ。それで思い切りあいつの太ももに噛み付いたらよお、来ちまったんだ」


 そういう話が好きなのか、周りの人間はみな顔を上げ、その男の話を聞いている。


「来ちまった?」

 誰かが促す。


「油隠様がよお」

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