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ある朝、パラパラという雨音を耳が捉え、六鹿は跳ね起きた。数週間待っていた雨だ。四蛇を叩き起こすと、彼はそれを拒否するように布団にくるまった。それが可愛らしくて、六鹿は肩の力が少し抜けた。そういえば、五馬も朝が弱かった。三人で出かけるとき、最後まで寝ているのはいつも五馬だった。
又旅のことも起こして、素早く仕度を整えて合羽をかぶると、三人は家を出た。茶々に留守番を頼むと、伝わったのかは分からないが「にゃんすー」と返事をした。雨は弱かったが、むっとするほどの土と草の香りがする。干した肉や果物が駄目になるのではないかと、少し心配になった。
三人は又旅の先導で雨の中を進み、やがて湖にたどり着いた。それほど広い湖ではない。三人はその場でつっ立ったまま、変化が起こるのを待つ。
「きた」
四蛇が又旅の背中を指さした。又旅から中身を抜いたカンテラを受け取ると、そっと背中に近づく。
「そっと掬うんだ」
又旅の背中で、何かが瞬いている。一見、雨の水滴がきらりと光っているように見えるが、それは小さな火だった。蓑火というらしい。
四蛇が又旅の背中にカンテラの口をあてがい、なんとか中に入れようとするが、なかなか入らない。しびれを切らした四蛇が払うように火を押し入れると、火種はぱっと飛び散り、三つに分かれた。ひとつはカンテラの中に落ちて収まった。
「お前さんたちの背中にも」
今度は又旅がカンテラを持ち、六鹿の合羽についた蓑火を掬った。
「ごめん、ありがとう」
又旅は慣れた手つきで、次々と捕まえていく。六鹿も又旅の背中の蓑火を捕まえようとしたが、手こずっているうちにどんどん増えてしまい、又旅の背中は炎で包まれてしまった。
慌てる二人を落ち着かせると、又旅は上着を脱いで、必要な量の蓑火をてきぱき集め、湖を後にした。又旅の上着が燃えてしまわないか心配だったが、蓑火はしばらく放っておくと消えるらしい。それでも蓑火自体はやはり熱いらしく、火を内側に閉じ込めるようにして上着をくるみ、持ち帰った。
「数時間に一度、こうやって振るんじゃ」
又旅はカンテラを両手で掴み、上下に激しく振った。そうすると、小さくなっていた蓑火が明るく瞬いた。放っておくと消えるため、たまにこうやって明るさを取り戻す必要があるらしい。イクチの巣穴を進むにあたって、何日も真っ暗闇を行くことになる。蓑火は、その時の明かりとして持っていく予定だった。
蓑火を集め終えたことで、旅の準備は整った。いよいよ、煙羅国への旅が始まる。煙羅国へ着けば、きっといろんなことが明らかになるに違いない。大仕事を前に、六鹿は気が引き締まる思いだった。
五馬を探すために始まった旅だったが、思いがけない方に話が広がってきている。庵或留とスムヨアは、蒼羽隊へ人間を流しているのだろうか。
名曳は、何を考えているのだろうか。
憑き物とノウマの正体は一体なんなのだろうか。
そして、五馬はどこで何をしているのだろうか。




