5-11
「ワロドンの数が、急に減ったように思えるんだ」
どんこが呟く。
「そういえば、ワロさんは?」
又旅が尋ねると「私も同じことを聞こうとした」とどんこはナラを見た。
「ワロさんは、随分前から見ていない」
又旅とどんこは表情を曇らせた。
どんこを訪ねてきた客が全員帰ると、一同は食卓についた。ナラは少し離れたところに椅子を持っていき座ると、茶々を膝に乗せた。茶々は興味深そうに、ナラの大きな鼻を見つめる。
誰も話し始めないため、まず六鹿が口を開いた。
「ワロさんって誰なんですか?」
「ワロさんは、わしらの古い友人だ」
又旅の説明によると、ワロとは、蕪呪族の人間と仲良くしていたワロドンとのことだった。ワロドンは寿命でも死なないため、みな長寿であり、特にワロはフッタチでもあったらしい。長寿同士、庵或留と仲が良かったのだそうだ。続いて四蛇が質問した。
「さっきのは、ハカゼを治療していたんです?」
それに答えたのはどんこだ。
「そうだ。センポクカンポクには魂が見える。ハカゼは魂が絡まる病気なんだ。だからそれを解いてやった。簡単な作業さ」
「魂が絡まるとどうして死ぬんだ?」
「魂ってのは、みんなの頭の上に浮かんでいるんだ。身体と魂は、管で繋がっている。その管が身体に絡まると、魂が身体と上手く結びつかなくなるんだ。魂との紐づけが薄れると、そいつは何もかも分からなくなる。自分が何者なのか、何をすれば生きられるのか、どうして生きる必要があるのか」
六鹿は、四蛇の頭上に雲のような魂がぷかぷか浮かんでいるのを想像した。向かいに座る四蛇も、同じ顔をして六鹿の頭上を眺めている。
「アノア、あとで見てみるかい?」
又旅は目を輝かせ、ぜひ見たいと言った。
「魂には、そいつが誰なのか、すべて表れているんだ。名前や顔だけではない。どういう血筋で、どういう性格で、どういう景色を見て育ったかなど、とにかく何もかもが魂に現れる。これを言葉で説明するのは難しいから、質問はしないでくれ」
どんこは大きな手を顔の前で振った。
そういえば、先ほどどんこが又旅のことを、『アノア』と呼んだのを思い出した。見た目はナミクアのはずなので、魂を見て、その場で事情を知ったのかもしれない。
「でも、ハカゼを治すことができるなんて、すごい」
六鹿は言った。どんこに五馬を診せられたなら、と昔のことを悔やむ。
「庵或留はフッタチだから、どんこと同じように治療していたんだろう」
又旅が言った。
又旅はそれから、姉弟に断わりを入れて五馬のことをどんこに話した。どんこはその重さに負けるように瞼を閉じ、じっと聞いていたが、最後まで聞くと唸るように言った。
「だとしたら、その子のハカゼを治療したあと、庵或留がどこかへ連れて行ったのではないか」
「おそらくそうです」
「いったいどこへ連れて行ったんだろう」
六鹿が小さく呟く。
「又旅、スムヨアの得意な呪術を覚えているか」
突然口を挟んだのは、ナラだった。スムヨアとは、庵或留の長女で、ヘドリアの姉だったはずだ。さらに、新聞で名曳の隣に写っていた、蒼羽隊の副総督の『ヨア』という女性である。又旅は、戸惑いを見せつつもそれに答えた。
「記憶を消す呪術……」
それを聞いて、六鹿は点と点が線で繋がったような心地がした。とんでもないことに気づいたような気がするが、全容を掴み切れない。
『ところで、蒼羽隊に入隊する時には、呪術で記憶を消されるらしいわね』
目有がそう言っていたのを思い出す。
「記憶を消すと言えば、蒼羽隊かな……」
ナラ以外の、その場にいた全員が、驚きつつも、何かを掴み切れない顔をしていた。又旅が代表して、情報を整理する。
「つまり……庵或留がハカゼの患者を治療し、遺族に対しては死んだことにして、スムヨアがその記憶を消し、煙羅国へ送り、蒼羽隊として使っている?」
その仮説に、みな呆けたような顔をしている。
「馬鹿馬鹿しいと思うか?」




