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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第五章 六鹿と四蛇
51/124

5-11

「ワロドンの数が、急に減ったように思えるんだ」

 どんこが呟く。


「そういえば、ワロさんは?」


 又旅が尋ねると「私も同じことを聞こうとした」とどんこはナラを見た。


「ワロさんは、随分前から見ていない」


 又旅とどんこは表情を曇らせた。


 どんこを訪ねてきた客が全員帰ると、一同は食卓についた。ナラは少し離れたところに椅子を持っていき座ると、茶々を膝に乗せた。茶々は興味深そうに、ナラの大きな鼻を見つめる。


 誰も話し始めないため、まず六鹿が口を開いた。


「ワロさんって誰なんですか?」


「ワロさんは、わしらの古い友人だ」


 又旅の説明によると、ワロとは、蕪呪族の人間と仲良くしていたワロドンとのことだった。ワロドンは寿命でも死なないため、みな長寿であり、特にワロはフッタチでもあったらしい。長寿同士、庵或留と仲が良かったのだそうだ。続いて四蛇が質問した。


「さっきのは、ハカゼを治療していたんです?」


 それに答えたのはどんこだ。


「そうだ。センポクカンポクには魂が見える。ハカゼは魂が絡まる病気なんだ。だからそれを解いてやった。簡単な作業さ」


「魂が絡まるとどうして死ぬんだ?」


「魂ってのは、みんなの頭の上に浮かんでいるんだ。身体と魂は、管で繋がっている。その管が身体に絡まると、魂が身体と上手く結びつかなくなるんだ。魂との紐づけが薄れると、そいつは何もかも分からなくなる。自分が何者なのか、何をすれば生きられるのか、どうして生きる必要があるのか」


 六鹿は、四蛇の頭上に雲のような魂がぷかぷか浮かんでいるのを想像した。向かいに座る四蛇も、同じ顔をして六鹿の頭上を眺めている。


「アノア、あとで見てみるかい?」


 又旅は目を輝かせ、ぜひ見たいと言った。


「魂には、そいつが誰なのか、すべて表れているんだ。名前や顔だけではない。どういう血筋で、どういう性格で、どういう景色を見て育ったかなど、とにかく何もかもが魂に現れる。これを言葉で説明するのは難しいから、質問はしないでくれ」

 どんこは大きな手を顔の前で振った。


 そういえば、先ほどどんこが又旅のことを、『アノア』と呼んだのを思い出した。見た目はナミクアのはずなので、魂を見て、その場で事情を知ったのかもしれない。


「でも、ハカゼを治すことができるなんて、すごい」

 六鹿は言った。どんこに五馬を診せられたなら、と昔のことを悔やむ。


「庵或留はフッタチだから、どんこと同じように治療していたんだろう」

 又旅が言った。


 又旅はそれから、姉弟に断わりを入れて五馬のことをどんこに話した。どんこはその重さに負けるように瞼を閉じ、じっと聞いていたが、最後まで聞くと唸るように言った。


「だとしたら、その子のハカゼを治療したあと、庵或留がどこかへ連れて行ったのではないか」


「おそらくそうです」


「いったいどこへ連れて行ったんだろう」

 六鹿が小さく呟く。


「又旅、スムヨアの得意な呪術を覚えているか」


 突然口を挟んだのは、ナラだった。スムヨアとは、庵或留の長女で、ヘドリアの姉だったはずだ。さらに、新聞で名曳の隣に写っていた、蒼羽隊の副総督の『ヨア』という女性である。又旅は、戸惑いを見せつつもそれに答えた。


「記憶を消す呪術……」


 それを聞いて、六鹿は点と点が線で繋がったような心地がした。とんでもないことに気づいたような気がするが、全容を掴み切れない。


『ところで、蒼羽隊に入隊する時には、呪術で記憶を消されるらしいわね』

 目有がそう言っていたのを思い出す。


「記憶を消すと言えば、蒼羽隊かな……」


 ナラ以外の、その場にいた全員が、驚きつつも、何かを掴み切れない顔をしていた。又旅が代表して、情報を整理する。


「つまり……庵或留がハカゼの患者を治療し、遺族に対しては死んだことにして、スムヨアがその記憶を消し、煙羅国へ送り、蒼羽隊として使っている?」


 その仮説に、みな呆けたような顔をしている。


「馬鹿馬鹿しいと思うか?」

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