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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第五章 六鹿と四蛇
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5-10

 次の日の朝、「寝室の隅で見つけたんだ」と言って、又旅が食卓に木製の鳥を置いた。


「綺麗ね」


 それは小さな青い鳥の模型だった。精巧な作りになっており、翼や首の部分が細かく可動するようになっている。青い塗料がとても綺麗だ。


「庵或留が作って、スムヨアが色を塗り、名曳に贈ったものなんだ。名曳は、これを気に入って、いつも自分の傍で飛ばしていた。まるで、本物の鳥みたいだった」


 それから三人は、又旅の家にしばらく滞在した。実のところ、五馬探しの旅は頓挫しかけていた。準備を整えるという名目でゆっくりしているが、この後の目的地についての良い案は誰にもなさそうだった。


 生活に必要な道具を修理したり、掃除したりして、ある程度生活の質は上がった。茶々は実にのびのびと過ごしており、古い友人にでも会いに行ったのか、数日家をあけることもあった。


 ある日、ナラが又旅の家を訪ねてきた。彼女には連れがいた。


「どんこ!」


 又旅はナラの連れに抱き着いた。


 その生き物は、人間ではなかった。背は又旅と同じくらいだが、丸っこい身体付きをしていて首がない。腹は妊婦のように出ている。服を身に着けているが、袖から見える手足には灰色の毛が生えている。顔は灰色の皮膚で覆われており、その作りは人間のものに似ているものの、顔つきが異なる。鼻は横に広くつぶれ、眠そうに見える分厚い瞼はぽっこりと飛び出ており、口は魚のように横に広く広がっている。


「ああ、遠くから見えたよ。アノア」


 その生き物と抱き合う又旅は、まるで子供のように見えた。その生き物は、大きな手のひらで、又旅の頭を包み込むように撫でる。


「大変だったね」


 又旅が、その生き物の胸に顔を押し付けたまま動かないのを見て、六鹿は、五年前に潮と再会したときの自分を思い出した。胸にぐっと来るものがあって、六鹿は何度か目を瞬く。その大きな生き物が自己紹介をした。


「私はセンポクカンポクのどんこ。アノアの古い友人だ。二十年ぶりくらいじゃないかな」


 初めて目にしたセンポクカンポクを前に、二人は好奇心に目を見開いた。油隠にいるセンポクカンポクは数が少ないはずで、実際に会えたという話を聞いたことがない。

 センポクカンポクは、千年生きてフッタチにならなくても、元から魂が見える生き物だという。どんこは、六鹿と四蛇の頭上を仰ぎ見ると、「六鹿、四蛇、よろしく」と手を差し出した。どんこの手のひらは分厚くぶよぶよしており、表面は乾いてざらざらしていた。


 センポクカンポクのどんこが、先日の又旅の説明に登場していたのを思い出す。たしか、庵或留との間に次女のヘドリアを産んだ女性だったはずだ。


「魂って、どういうふうに見えるんです?」

 四蛇が身を乗り出すように尋ねたが、ナラが言った。


「世間話をする暇はなさそうだ」


 いつの間にか、あたりには数匹の生き物がいた。みな、ぐったりした仲間を背中に乗せたり、抱えたりしている。


「ああ、うちを使ってください」


 又旅がすぐに事情を悟り、そう言った。先ほどは泣いているのかと思ったが、そんな気配は既にない。どんこは生き物たちを又旅の家の中に招き入れ、先頭の生き物を長椅子の上に寝かせた。


 みなが見守る中、どんこはぐったりした生き物の上で、手を動かし始めた。いったい何が始まったのかと姉弟は顔を見合わせたが、他のみんなが真剣な顔でそれを見守るので、黙っておいた。どんこはたまに覗き込んだり、身体を持ち上げたりしながら、熱心に空中を触り続けた。


「終わった。どこかに寝かせて、しばらく様子を見ておくれ」


 ぐったりした生き物はどかされ、次の生き物が寝かされた。どんこは先ほどと同じように、空をつかむように手を動かしたり、目に見えない何かを生き物の下にくぐらせたりした。まるでそこに何かがあるかのようだ。

 作業はしばらく続き、暇になった二人は、表へでた。すると、初めにどんこに診てもらった生き物が、身体を起こしていた。その生き物はぴょんと跳ね起きると、仲間と一緒に森の中へ消えていった。


「あれって、ハカゼが治ったということ?」

 二人はまた顔を見合わせた。


 最後の生き物は珍しい生き物だった。六鹿と四蛇は、また見物をするために家の中へ戻ってきた。

 そのワロドンという名前の生き物のことは、六鹿も耳にしたことがあった。全身が赤い毛で覆われており、頭の周りの毛だけが長い。綺麗に切りそろえられているため、人間の髪の毛のように見える。背が低く人間と同じような体のつくりをしている。耳はとがっていて、目は長い前髪に隠れている。その隙間から見える瞳は一つだけのようだ。手足は細く、首から下の皮膚には赤い模様が浮かび上がっている。装飾の施された、銀色の胸当てをつけている。


「ああ、ワロドンか。苦しかったろう」

 どんこは作業をしながら、そう呟くと、「ワロドンは死なないからね。苦しい状態が続いていたに違いない」と説明した。そういえば、ワロドンが有名である所以は、不死身であることからだった。


「身体を引き裂かれても、元に戻るって本当なの」

 四蛇が小さな声で尋ねた。それには又旅が答えた。


「本当だ。首を切られても、腹を切られても、必ず復活する。ただし、ひとかけらでも肉を食われたら、再生できず死んでしまうんだ」


 伝え聞いていた話と同じだ。


「ワロドンの肉は、ものすごく不味いんだよね」


 ワロドン本人の前でそんな話をする四蛇に、六鹿はそわそわさせられたが、又旅は涼しい顔で「そうらしいな」と答えた。


「そら、解けた」

 どんこが作業を終えると、ぐったりしたワロドンはもう目を開け、あたりをきょろきょろした。

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