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「そんなの、知らなかった。しゃべる山彦の話は聞いたけど」
「そういえば、あいつあの時、自分の分の布団がなくて俺と一緒に寝たんだっけな」
六鹿と四蛇は遠い記憶を辿る。
「茶々の力を借りながら、なんとか一命をとりとめたわしは、まず名曳を探した。隙をみて村に帰り、近所の人間に名曳のことを訪ねると、わしが屋敷へ行ったあとすぐ、目有を逃がすために村を発ったということが分かった。その辺の話は、あとから目有から聞くことになる。
わしは森中を探し回った。茶々に憑いて、庵或留の屋敷へ忍び込んだ時もある。アヌ人形はその時にくすねた。森にはいないと判断したあとは、九頭竜国に近い森に住んで、茶々の力を借り、九頭竜国の中でも探し始めた。
結局わしが見つけられたのは目有だけだったが、無事で生きていることが分かった時は、本当に嬉しかった。実際に会って抱きしめることができんでも、生きてくれているというだけで十分だった」
六鹿は、又旅と再会したときの目有の様子を思い出し、目頭が熱くなった。会う前から分かっていたのだとしても、すっかり白髪になった姉の中に、母親がいるのを目の当たりにしたのだ。あの時目有は何を思ったのだろう。
「九頭竜国で目有を見つけた後、ボウズもすぐに見つかった。わしはあの子を探していたわけじゃなかったから、目有の近くにいるのを見て、驚いた。大したお礼はできんが、こっそりアヌ人形を授けたんだ。しゃべる山彦としてな。
憑き物やノウマが現れるようになったのはその後だ。庵或留が庵霊院へと移り住んでハカゼの治療をするようになった。わしは村に帰る気になれず、九頭竜国の近くの森で暮らしていたというわけだ」
「目有と一緒に、九頭竜国で暮らすということは考えなかったの?」
「そうしていれば快適だっただろうが、目立ちたくなかったんだ。せっかく目有が九頭竜国の人間として溶け込めているのに、わしが出てきたら台無しにしてしまうかもしれない。
それに目有は、魚冥不、名曳、又旅の血縁なんだ。庵或留のような考えの人間がいることを考えると、村で一番、命の危険がある立場だった」
「なるほどね」
「それで、結局名曳はどうなったんだ?」
「ここから先は、目有に聞いた話になる。ナミクアが死んで魚冥不を継承したとき、名曳はわしよりも冷静だった。娘の死を悲しみはしたが、大事なことにすぐに気づいた。
もし魚冥不の治療が失敗してこのまま死ぬのであれば、庵或留はそれを継承させるため、必ず目有を殺しにくると。それも、切羽詰まった状況なので、手段を問わないだろうと。
名曳は目有を逃がす決意をし、すぐに村を出た。はじめから森の外へ連れていくつもりだったそうだ。
幸い、名曳は乗り物を持っていた。庵或留が、九頭竜国の四輪の車を模した、形だけの乗り物を作ったことがあったんだ。二人は名曳の人形の術を使って、森の果てまでそれで移動すると、名曳だけそこで降りたらしい。
自分はアノアを探してくるから、先に九頭竜国へ行くようにと言って、森の中へ戻っていった。乗り物は目有を乗せたまますごい速さで九頭竜国の外れまで進み、目有を下ろすと村の方向へ戻った。目有はその場で、長い時間名曳とわしを待ったが、結局現れなかったらしい。
目有は潮という男の世話になることになった。お前たちもよく知っているな。目有は、自分が追われていることを理解していたから、とっさに『目有』という偽名を伝え、身の上のことは一切しゃべらなかったそうだ。
まだ幼かったあの子に、嘘をつかせ、寂しい時を過ごさせてしまった。潮という男にも、わしは一度詫びと礼を言いにいきたいものだ。
憑き物が現れてしばらく経った頃、友人や目有を通じて、名法師の噂をたびたび耳にするようになった。もしかしたら名曳が名法師なのではないかと、わしは疑っていた。
蒼羽隊の前身となる、大瑠璃という組織も、名法師が長を務めていたらしい。油隠のために憑き物を殺すというのは、名曳らしい考えだが、あいつがわしらのことを放っておくはずがないとも思った。
この間一緒に新聞を見た時に、名法師が名曳だということが確定した。傍にスムヨアがいることには驚いたがな」
六鹿は思わず、名曳に会うために、煙羅国へ行こうと言いかけた。しかし、口には出さずに踏みとどまった、私たちは五馬を探す旅をしているのだ。
「煙羅国へ行こう。俺、協力するよ」
いともあっさり四蛇がそう言うので、六鹿はかすかに苛立った。
「いや、いいんだ。わしは、目有と名曳が元気にしてくれていたら、それでいいんだ。ありがとう」
又旅は目を伏せた。
「この旅に出たばかりの頃、お前たちに同行する理由について、今の油隠のことをもう少し知りたいと言ったのは、こういう事情があったからなんだ。長い話になったがな」




