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それきり又旅は戻って来ず、何かあったのではないかと心配になってきた頃、彼女の声が通気口の下から聞こえた。
「土を掘るものを持って、屋敷の裏に来てくれ。すまんが、わしの身体は、念のため先に家に運んでくれんか」
又旅の指示通り、四蛇は彼女の身体をおんぶして一度家に帰り、ベッドに寝かせて戻ってきた。家から土を掘る道具を持ってきて、六鹿と二人で屋敷の裏へ回る。
「又旅?」
名前を呼ぶと、かすかな声が返ってきた。土を掘るよう言われたので、その声がする方向へ、斜めに掘り進む。地面は踏み固められており初めは掘りにくかったが、ある程度の深さになると、急に柔らかくなった。土に動物の骨のようなものが混じるようになり、その量は掘るほど多くなった。気味が悪くなってきた頃、穴は向こう側につながった。
「ご苦労さん」
向こう側で、又旅が待っていた。穴を広げて中へ入ると、そこは洞窟の端のようだった。明るい方へ進んでいくと、通路の途中から床が敷かれ、やがて白い壁で囲まれた地下室のような場所に出た。
一階の様子とは異なり、物がたくさんある。手に取って眺めてみても、六鹿たちには用途が分からないものばかりだが、又旅が言うには、呪術の効果を高めるための道具らしい。それ以外に、檻、手錠、刃物など物騒なものも置いてあった。
そこからさらに奥の部屋には、なんだか不気味な雰囲気があった。部屋の中心に診察用の硬いベッドのようなものが置いてあり、壁を背にぐるりと像が並んでいる。像はどれも人間のものだ。六鹿は、いくつか像の顔について、どこかで見たことがあるような変な心地がして、どうにも居心地が悪かった。
「なんの部屋なんだ?」
四蛇が呟く。
「何か、呪術を使うための場所のようだ」
三人は手がかりを探したが、大切なものは庵霊院の方へ持ち出しているのか、書類の類など、有用なものは見つからなかった。不思議なものを見つけたとしても、又旅に見せたらただの呪術の道具などであった。
期待が外れ、六鹿たちが入ってきた穴から外へ出ようとすると、又旅が、土に混ざった骨を見て動きを止めた。このまま帰るのもなんなので、何か意味があるかもしれないと、三人でその骨をよく観察してみる。すると、二足歩行の小さな生き物の骨であることが分かった。
「ナラみたいな、小さな人型の生き物の骨のようだ」
この辺に生息している、人間が食用としている動物の中には、この骨格の動物はいないとのことだった。何かの目的で、捕まえてきて殺していた可能性がある。結局、骨の正体も、それを殺した目的も分からなかった。
「今日は暗い話になる」
その日の夕食後、又旅がそう言うと、それを聞いていたかのように、ちょうど雨が降ってきた。干していた食べ物を慌てて室内に入れ、一同は机についた。
「この村では、昔、呪術の力を非常に大切にしとった。呪術の力が強い者に、権力が与えられ、特に七人呪師は、崇められていたと言っても良い。この村では、七人呪師を継承することがこれ以上ないほどの名誉で、継承させ続けることが人々の義務だとされていた。
七人呪師が高齢になった時や病になった時には、若い者が殺された。アヌ人形は、死期を見定めるためや、子供の数を把握するために使われた。七人呪師になった者は、必ず継承できるよう、多くの子を残すことが望まれた。この村の歴史は、そういったものだった」
お茶には誰も手をつけなかった。六鹿は眉をひそめ、四蛇は強張った笑みを浮かべている。又旅は二人の反応を見て、少し安心したように先を続けた。
「ただ、数十年前から、その古い考え方を疑問視する人間が出てきた。呪術を使えない人間や他の生き物と交流して、呪術を使える自分たちが偉いわけではない、また呪術の力が強い者を、特別扱いする必要はないと感じるようになったんだ。
それでまず、七人呪師を守るためとはいえ、子供を殺すことに反対する人間が出てきた。
その中でも特に声が大きかったのが、名曳だった。やつは七人呪師を他の人間と同等に扱うべきだと主張した。やつには人望があり、自身が七人呪師であることも手助けして、やつに賛同する者は増えていった。
それに対立し、昔の考えを強く持っていたのは、庵或留と、その友人たちだった。やつ自身が長く生きている七人呪師だから、当然の主張かもしれない。また、七人呪師の力は強大で、みなが喉から手が出るほど欲しがっていた力であり、同時に、安全に生活する上で助けられていた力でもあった。失うには惜しい力だったんだ。先人たちから何代にも渡って受け継いだものを、本当に途絶えさせていいのかという疑問もあった。
実はわしも、昔ながらの考え方に、あまり否定的ではなかったんだ。いつかは自分が継承することもあるかもしれないと思っていたし、そういうもんだと思っていた。子供ができるまではな。
名曳と庵或留との対立は激化していった。名曳は子供を守るため、庵或留は継承のため、それぞれ村の決まりを破ることが当たり前になっていった。七人呪師の一人に乞除という解呪が得意な呪師がおったが、村の対立に嫌気が差し、ある日雲隠れした。今となっては、そうするのが一番正しかったような気もする。
わしは娘たちの命を案じ、村を離れる提案をしたこともあるが、名曳はこの村を変え、村の未来を救うことの方に意義を感じている様子だった。彼は何度か継承されていて、わしよりも長く村の歴史を生きているから、責任を感じていたのかもしれない。
少し話は逸れるが、先に魚冥不について説明しよう。彼はもういないが、庵或留と親しい友人で七人呪師の一人だった。
彼は蜃の術と呼ばれる幻覚を見せる呪術を使う、強大な力を持った呪師だった。
人間という種族全体、特に呪術を使えない者たちをひどく憎んでおり、自分の利益を得ることや、他者を支配することしか考えられない奴だった。善悪の考え方が、人間の常識とはまるで違っていて、説明が難しいが、例えば人間の社会に放り込んだら、極刑に値する奴だろう。その上、気分屋だった。なぜか変わり者の庵或留とは、非常に気があうみたいだった。……これで説明のための役者はそろったかな」
又旅が、茶を口に含み休憩した。茶々を撫でながら、続きを語る。




