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獲物を探しながら、又旅が行きたい場所があるとのことで、それについて行った。目的地は建物ではないようだった。庵或留の屋敷から少し離れた場所で、地面に落ちた何かを探すように、うろうろしている。
又旅が、何かを見つけたようにしゃがむと、草をむしり、土を掻いた。土の下から白い物が見えて、六鹿は嫌な予感がした。四蛇も同じように感じたのか、六鹿の傍に寄る。
又旅が軽く土を払うと、それはすぐに全身を露わにした。
人骨だった。
「私だ」
又旅の言葉の意味が分からず、六鹿と四蛇は言葉に詰まる。
「私って?」
「事実だけを言うなら、これは目有の母、アノアの骨だ」
「今日の夜は、七人呪師について説明しよう」
その日は、野干二匹を捕まえることができた。昨日と同じ要領で処理を行ったが、時間が足りず、皮を剥いだ状態で、家の中に吊るしておいた。
夕飯の後、熱い茶を入れ、三人は食卓についた。茶々は足元に丸まった。
「七人呪師は、油隠に七人いる。油隠の中で最も優れた呪師七人が、七人呪師に選ばれるそうだ。選ばれると言っても、誰が選んでいるのかは分かっていない。気づいたら勝手になっとるんだ。
七人呪師の最も特徴的な点は、その呪師と血のつながりのある、その呪師よりも若い人間が死んだ時に、体を奪うように継承するという点だ。
言っとる意味、分かるか?
例えば、母親が七人呪師だとして、娘が母親より先に死ぬと、娘の身体に母親の人格が移り、母親の肉体が死ぬということだ。ただ、その継承も、行われるときと行われない時がある。どういう基準でそれが決まるのかも、分かっていない。
こういう継承方法だから、七人呪師は上手くやれば、永遠に生きられるんだ。庵或留も七人呪師の一人だが、あいつは自分の血縁の、自分より若い人間を殺しながら、いろんな肉体を継承し続け、千年生き、フッタチとなったんだ」
六鹿と四蛇は同時に顔をしかめた。
「庵或留の今の肉体の主は、アゾルという男だった。スムヨアは、ある日庵或留に父を殺され、そのまま庵或留が彼女の親代わりになったんだ。ただ、この村ではそれが当たり前だった。
わしが知っている七人呪師は、庵或留、乞除、名曳、あとはわし、又旅だ。おそらく、油隠で有名な、透と呼ばれる呪師も七人呪師だと思うが、確証はない。会ったこともないしな。
他はどこの誰だか分からん。それに、本人も気づいていない可能性がある。継承が行われないまま本人が順当に死ねば、七人呪師だと気づくことなく、そこで途絶えるしな」
「透って言うと、だいだらぼっちや赤えいと話をしたという、あの呪師のこと?」
人間と他の生き物との間で、共存するための取り決めをしてくれた呪師についての伝承が、油隠の各地に残っている。
「そうだ。おそらく、相手の考えが読めるとか、自分の考えを伝えられるとか、そういう類の呪術を使うんだろう。ただ、透や乞除は生きているのか分からん。もし死んでいたら、他の誰かが七人呪師だろう。
もう分かっていると思うが、わしはアノアであり、娘のナミクアが死んだときに、あの子の身体を奪って『又旅』となったんだ」
何か言葉をかけるべきだと思ったが、あまりに自分の常識からかけ離れた話に、彼女の心境を正確に慮れる自信がなくて、六鹿は黙った。
「にゃんすー」と、茶々が鳴いて、又旅の手に自分の身体をこすりつけた。
「頭がこんがらがりそうだ」
四蛇が呻く。
「今の状態を端的に説明すると、身体はナミクア、中身はアノアという状態だ」
目有の姉であり、母であると言っていたのはそういうことだったのか。六鹿はやっと理解した。
「ひとつ質問なんだけど、『又旅』という七人呪師は、昔から継承されてきたわけではなくて、アノアが初めてなのか?つまり、ナミクアに継承されて七人呪師だと分かった時、アノアの人格のことを『又旅』と名付けたのか?」
四蛇が確認する。
「ああ、そうだ。又旅という名前は自分で考えたんだが、どうだ?」
又旅はからっと笑った。娘が亡くなり、自分がその身体に継承される。いったいどういう気持ちだろうか。少なくとも、又旅は、自分の娘を亡くしているのだ。その悲しみは、想像できる。
「七人呪師には、それぞれ得意な呪術がある。わしが得意なのはムネンコの術。心を通わせた、他の生き物に憑くことができる。庵或留は胎児の術。物の形を自由自在に創り変えることができる。例えば、この村の家は、彼が地面の中から、土や石を引っ張り出して、創り変えて作ったものなんだ」
「とんでもない力だ」
四蛇が家の中を見回し、片頬を上げて笑った。
「建物だけじゃない。あいつの家には、今にも動き出しそうな石像が並んでいる。あの呪術は、細かい表現までできるんだ。あいつ自身の顔も、自分で作ったものだ」
「顔を自在に変えられるのか?でもじいさんだったぜ」
「あれが気に入ってるんだ。それに、いつでも自在に変えられると言うわけではない。あの呪術には時間がかかる。特に、血の通った生き物を変形させるのは、ものすごく時間がかかるらしい」
おとぎ話のような話に、六鹿と四蛇は半笑いを浮かべるしかない。
「名曳は、人形の術。命の宿っていないものを操ることができる。乞除は少し変わっていて、解呪を得意とする。つまり、呪術を解くのが得意なんだ」
「その人たちの話だけで、物語が何冊書けるかしら」
呪術全般に対して偏狭な考えを持っていたはずの六鹿は、いつの間にか、興味津々になっている自分に気づいた。
「あのさ」
四蛇が改まった口調で身を乗り出した。
「とんでもないこと言うようだけど」
又旅に促され、四蛇は続きを口にする。
「今の話を聞いていると、憑き物は、庵或留の胎児の術で作られたんじゃないかと思っちゃったんだけど」
六鹿は腕を組み、その可能性について考える。
「憑き物も、土や木や石でできてるだろ。あの量の、あの大きさの憑き物を、誰かが手で作っているとは考えにくい。やっぱり呪師が絡んでるんじゃないかな」
四蛇は期待を込めて又旅を見たが、彼女は表情を変えない。
「正直、わしもそう考えたことがあった。憑き物の造形は、庵或留にしてはずさんな作りだが、やつの創ったものによく似ていると思う。だが、憑き物が勝手に動く説明がつかんのだ」
それを聞いて、今度は六鹿が身を乗り出す。
「名曳って呪師の術を使えば、庵或留が作った憑き物を操ることができるんじゃない。命の宿っていないものを操ることができるって、言ったよね」
「そう考えるのも無理はない。だが、名曳ではないとも、断言できる。
まず、名曳と庵或留は全くそりが合わなかった。二人が結託するなんて、考えられないんだ。
もちろん理由はそれだけじゃない。名曳の人形の術は、術の対象が多数だとかけられないんだ。憑き物の数は非常に多いが、全部に術をかけ、同時に動かすのは、名曳には不可能だ。
逆に言えば、雉子車や鳩車のように、巨大なものであっても、ひとつだけを遠くまで操ることは可能だ」
難しい顔をしていた六鹿と四蛇は、同時に息を呑んだ。その顔がとても似ていたので、又旅は思わず笑う。
「名曳って、煙羅国の名法師のこと?」
六鹿が尋ね、「ん、でも名法師って女性だったはず。さっきの話だと、名曳は又旅の夫なんだよな」とすぐに四蛇が疑問を抱く。
「ちょっと待って、私、門前市で名法師の載った新聞をもらった」
又旅の返答を聞かないまま、六鹿が慌ただしく荷物のところへ新聞を取りに行って、戻ってきた。
食卓に広げられた新聞には、白黒の写真が載っている。又旅が身を乗り出す。
「はあ、いや、そうか」
又旅は予想外のことがあったのか、額に手を当て、やたら驚きの吐息を漏らした。二人は、目を見開いて、又旅の言葉を待つ。
「名法師は、名曳だ。それは元々知っていたんだ。懐かしい顔だ。そして、その右に写っているのが庵或留の娘スムヨアだ」
二人がずいと頭を突き出して新聞を見ると、名法師の両脇に女性が移っていた。新聞の下の説明を見ると、右の女性は副総督の『ヨア』らしい。
「こりゃいったい……」
又旅は混乱したように呟いたが、二人は興奮気味だ。
「名法師とヨアって、蒼羽隊の総督と、副総督よ」
「とんでもない人と知り合いなんだな」
三人の話が盛り上がっているのに拗ねたのか、茶々が机の上へ上って、腹を見せるように寝転がった。六鹿が茶々ののど元をくすぐるように撫でる。
「名曳のことは、明日話そう」




