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待ち合わせ場所である、門前市の外れの丸い林で、又旅、茶々、虎隠良たちと再会した。幸い、庵霊院の人間が追ってくるような気配や、憑き物が現れる気配はない。
又旅の隣に寄り添う茶々の色が、昨日の作業のせいで、茶色になってしまっている。
又旅にナラのことを訪ねると、彼女は一人で帰ったらしい。ナラは、憑き物の匂いをかぎ取って、回避することができるそうだ。
六鹿は鞄の口をしっかりしめ、髪をきつめに縛ると、先日と同じ要領で虎隠良の背中におぶさった。
次の目的地は、二兎山の麓だ。走り始めの、体を後ろに引っ張られる感覚が、恐怖を感じつつも、なんだか癖になりそうだった。初めておんぶされた時は、息ができなくて焦ったが、虎隠良の頭の後ろに顔を伏せ、鼻から息をすることで呼吸を確保できると学んだ。
二兎山の麓へ着くと、虎隠良とはそこでお別れした。ここからは徒歩で、又旅と目有の生まれ育った、蕪呪族の村を目指す。
又旅とナラは、蕪呪族の村での知り合いだそうだ。昔、ナラの友達を又旅が救ったことから、友達になったらしい。
蕪呪族の村の関係者は、彼女たちだけではない。庵老師もまた、その村の出身なのだそうだ。今となっては空き家となっているという、彼の古巣へ行き、何か手がかりを探るつもりだった。ナラが言うことには、蕪呪族の村には、今ではほとんど人が住んでいないらしい。
一行はまた数日かけて、森の中を進んだ。食べ物の貯蓄が少なくなってきたため、村に着いたら、日持ちの良い食べ物を用意する必要がある。憑き物が近づいたときは、細手が教えてくれたため、怪我人のないまま、村の近くまで来られた。
六鹿は、いったいどうやって、こんな森の奥に人が暮らしているのだろうと疑問に思った。木は深く生い茂り、道などが整備されているような気配もない。
「もうすぐだ」
又旅はそう囁き、歩みを止めると、木陰からそっと村を覗いた。
不思議な光景だった。
そこには、確かに家があった。道もあり、村と呼べる環境だった。しかし、違和感がある。辺りは静まり返っており、人の気配はない。三人はそっと木陰から姿を現した。
「わしの家へ行こう」
又旅に続いて、二人は歩き始めた。しかし、二人の注意は近くの家に引き付けられたままだ。不思議な家だった。近づいてみると、家の周りに深い掘りがあったので、踏み止まった。
手を伸ばして壁に触れると、ひんやりしている。石造りのようだ。ただし、石を積み上げたものではなく、巨大な一つの岩をくり抜いたような形をしている。つまり、家全体がひとつなぎのように見えるのだ。いったいどうやって作ったのだろう。さらに不思議なのは、あたりを見渡しても、木が生い茂るばかりで、他に巨大な岩のようなものは見当たらないのだ。ちょうど良く、家の大きさの岩が置いてあるなんてことがあるだろうか。
それから、いくつか同じようなつくりの家をみかけた。ただし、材質は家によって違うらしく、つるつるしていたり、ざらざらしていたり、柔らかい素材なのかほとんど崩れているものもあった。いずれも共通しているのは、家の周りに掘りがあり、すべて一つなぎの状態であることだ。ただし、窓枠や扉は木製で、後からはめ込んでいるようにみえる。
「ここだ」
又旅が、白い石でできた家の前で立ち止まった。家には入らず、浅く乾いた溜息を洩らす。そこに深い悲しみが滲んでいるような気がして、六鹿と四蛇は動けなくなった。茶々が、そんな又旅の様子には気づかないように、はしゃぎながら、窓から中へ飛び込んでいった。
木の扉を開けると、家の中にはまだ家具が残っていた。食卓と台所には、生活感がある。よほど嬉しいのか、茶々があちこち飛び跳ねるので、ほこりが舞って咳が出た。
「懐かしいのう」と呟いた声は、まだかすれていた。
「にゃんすー」
「茶々は、ここにいた時からの友達なの?」
「そうだ」
食卓から奥の部屋へ続く扉は開いており、廊下にも物が置いてある。ある日突然、住人が出て行ったような様子に見える。
「わしと目有の関係を説明しときたいんだが、少々込み入っていてな。どうせしばらくここに滞在するんだ。日を分けて少しずつ話そう」
三人は、家具をある程度使えるようにするため、しばらく掃除や整備などを行った。
九頭竜国で暮らしていた六鹿たちにとっては、かなり遅れた質の生活をしているように感じたが、街で作られたものがここまで運ばれてくることは、滅多にないと思われるため、当然のことだとは思った。
家の裏には、畑の形跡も見つけた。また、いくつかの寝室からは、本や文房具が見つかった。他には、呪術に使うものだろうか、用途の分からない品も多かった。
持参してきた食べ物を台所で調理して、食卓で夕飯を食べた。
三人で食卓につくと、又旅がとても老け込んだように見えて、六鹿は動揺した。そんなに悲しいことが、この家であったのだろうか。彼女は悲しみを隠し、いつもの涼しい調子で話し始めた。




