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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第五章 六鹿と四蛇
42/124

5-2

 真夜中をすぎてしばらく経った頃、六鹿と四蛇は宿を抜けだした。門前市は真っ暗だ。明かりを灯すと目立ってしまうため、星の明かりを頼りに、慎重に進んでいく。


 庵霊院の横を大きく迂回して、墓地を目指す。墓地までは庵霊院の中を通ることが想定されているため、墓地の周りは整備されておらず、歩くのが大変だ。そのせいで、予定の時間より少々遅刻してしまった。


 墓地には、又旅と茶々と、協力者である又旅の友人が待っていた。又旅と茶々が無事な様子だったので、二人はひとまず安心する。又旅は、傍にいた友人に六鹿と四蛇のことを紹介すると、次に友人のことを紹介した。


「ケナシウナラペの、ナラだ」


 ケナシウナラペの姿は、暗闇に紛れてよく見えなかった。皮膚も、服も、髪も黒いのだ。目を凝らしてみると、背の低い老婆のような姿だということが分かった。その顔には目がなく、大きな曲がった鼻がついているらしい。彼女にとっては、暗闇など、なんの障害にもならないのだろう。


「ナラさん、遅れてしまって、ごめんなさい」


 ナラは二人を無視して、黙り込んでいる。もしかしたら、人語が通じないかもしれない、それどころか、意思疎通に声を使わないのかもしれない。そうと思っていると、低く唸るように「ケナシウナラペには名はない」と言った。言葉は通じるみたいだ。


「わしが勝手にナラと呼んでるんだ」と又旅がからっと言う。「ケナシウナラペが長いから」


「お前の発音がおかしいから、そんなに長ったらしくなるんだ」


 六鹿と四蛇が、みんなを五馬の墓標のところへ案内すると、ナラはすぐに「なにも埋められてはいない」と言った。


 ナラは嗅覚が非常に優れており、土の中に遺体が埋められているか、分かるそうなのだ。


「本当に?」


 四蛇が尋ねると、ナラは冷たく「信じなくても構わない」と言った。


「ここだけではない。……五つに一つくらいだろうか。何も埋まっていないな」


 六鹿はためらった。地面を掘るための道具は、門前市の周りに捨てられているごみの中から持ってきていた。


「死体を埋めるなんて、人間の考えることは分からん」

 ナラが大きく鼻を鳴らす。


「人間の考えることは分からん」

 茶々が真似する。


「ナラの言っていることは、わしが保証しよう」

 又旅の言葉を聞いて、四蛇が言った。


「掘ってみよう」


 三人は墓を掘る作業を始めた。ナラには手伝う気は全くないようだ。茶々も器用に後足を使い、土を掘る。大変な作業になるだろうと覚悟していたが、三人でやると、案外すぐに大きな穴が空いた。遺体は見つからず、しかしどの程度の深さに埋まっているものなのか分からないため、作業を止める時が分からなかった。


 これ以上続けたら、立ち去るまでに日が昇る可能性があると判断し、ある程度で掘るのを中断した。全身から汗が噴き出し、息は上がっている。穴はかなり深く、五馬の身体は、本当にここにないようだった。


 ひと休みしてから、穴を埋める作業を行った。ひと苦労して、なんとか元の状態に戻したが、掘り起こした跡は明白だった。まだ暗いので分からないが、きっと、周りの墓標も土だらけだろう。


「これじゃ、俺と六鹿が犯人だってばれるね」


 昼間プー坊に会っているので、そう思われても仕方ない気がした。六鹿は、くたくただったが、ふっと顔を綻ばせる。本当に五馬が生きているかもしれないと、そう考えても許されると思ったからだ。


 いったんその場で解散し、墓地を出た頃には、空が白ばんでいた。二人は急いで来た道を戻る。


 宿へ戻る途中、突然近くで物音がして、二人はぴたりと静止した。音がした方を見ると、何者かが暗闇で激しく動いている。目を凝らしてみると、子供くらいの身長の、二人の人間がもみ合っているようだ。


 ゆっくりその場を離れようとしたが、四蛇が六鹿をつついた。もう一度暗闇に目を凝らすと、その二人はプー坊の恰好をしていた。シャン坊と、プー坊だろうか。喧嘩でもしているのかと思ったが、片方がもう片方を、一方的に襲っているようだ。


 六鹿は助けるべきか迷った。四蛇が顔をしかめ、小さく首を振る。しかし、攻撃を仕掛けている方は、相手の首に片手をかけ、放っておけば殺してしまいそうだ。


「これだけ早い時間だと、やっぱり寒いわね」


 六鹿はあさっての方向を見て、自分を抱くような恰好で、肩をすくめて見せた。シャン坊とプー坊の方からしていた物音が止んだ。


「そ、そうだな」

 四蛇が慌てて話を合わせてくる。


「早く宿に帰りましょう」


「そうだな」


 二人は足早にそこを去り、なるべく急いで宿へ向かった。「ごめん」と小さな声で謝ったが、四蛇には睨まれた。文句は宿に戻ってから言うつもりらしい。


 庵霊院の横をぐるりと回ってきて、その入口へ続く道へ差し掛かった時、「おはようございます」と声をかけられた。嫌な予感がして振り返ってみると、先ほど争っていた二人の内の、片方と思われる男の子が、庵霊院の敷地の中からこちらを見ている。挨拶を返そうとすると、遮られた。


「さっき助けてくれましたよね」


「なんのこと」


 六鹿はとぼけたが、彼には見透かされているらしい。ぺこりと頭を下げ、「ありがとうございました」と言った。


「あなたは、プー坊?」


「僕はシャン坊です」


 四蛇が「へえ」と驚きのため息をこぼした。シャン坊を名乗った男の子は、昨日案内してくれたプー坊と、瓜二つだったからだ。


「大丈夫?」

 これでは半ば助けたのを認めているようなものだが、六鹿は思わず聞いた。


「ええ。いつものことなので大丈夫です」


「いつものことって」


 六鹿は、先ほどの争いの激しさを思い出して困惑する。シャン坊の首元を見ると、赤く腫れているのが見えた。そういえば、襲われていたシャン坊に、助けを求めたり、やめるよう乞うたりするような様子がなかったのを思い出す。


「彼の気持ちはよく分かるんです。僕が気にしていないので、お二人もあまり気にしないでください」


「よく分かるって……」

 四蛇が呆れた声を出す。


「僕も同じ気持ちだからよく分かるんです。きっと、怖くて仕方がないんだ」


 シャン坊は詳しく説明する気がないらしく、結局よく分からないままそこで別れた。


 無事宿に戻ったが、シャン坊に土だらけの恰好を見られており、五馬の墓は掘り起こして埋めたのが明らかな状態なので、時間を忘れてゆっくり眠るというわけにはいかなかった。四蛇にも、六鹿の勝手な行動を怒る気はもうないようだった。


 二人はできるだけ土を洗い落として荷物をまとめると、宿の従業員が起きる時間まで仮眠し、足早にそこを去った。眠い目に外は明るすぎて、目を細めながら歩く。

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