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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第五章 六鹿と四蛇
41/124

5-1

 庵霊院は、前に来た時と変わらない様子で、堂々とその存在感を示している。


 三人と一匹は、虎隠良におぶさり、無事門前市に到着したが、又旅と茶々はすぐにその場を離れた。今は門前市から少し離れた場所に身を隠している。又旅も目有と同じ事情で、庵老師に見つかるのが危険だからだ。残った六鹿と四蛇は、さっそく、庵霊院を訪ねた。


 庵霊院へ着くと、五年前と同じようにシャン坊が出迎えたが、自分のことをプー坊だと名乗った。よく似ているような気がしたが、五年も経てば記憶は薄れるものだ。


 五年前に亡くなった弟の墓参りがしたいと伝えると、プー坊は丁寧な態度で迎えてくれた。しばらく待たされた後、帳簿を調べてきたのか、プー坊が戻ってきて、墓地へ案内してくれた。


 墓地は庵霊院の裏にあった。非常に広く、数えきれないほどの墓標がある。人がちらほらいるのは、同じく墓参りに訪れた人たちだろうか。想像していたよりも、綺麗な霊園だった。


 五馬の墓標には、『文五馬』と、九頭竜国の文字が刻まれていた。何も驚くことではないのに、知らない土地で知り合いに会ったような、妙な心地になった。


 プー坊は二人をそこに残して、庵霊院の中へ戻っていった。二人は、墓標の掃除をしようとしたが、五年放っておいたにしては、全然汚れていなかった。プー坊、もしくはシャン坊が手入れをしてくれているのだろうか。


 墓標の前で手を合わせても、五馬への言葉は何も思い浮かばなかった。胸に疑念があるからだろう。綺麗な夜空を見た時や、広い場所で風に当たっている時の方が、五馬に伝えたい言葉がすらすらと思いついた。


 墓参りの最中に、夫婦が声をかけてきた。


「身内の方ですか」

 婦人は、墓標に沈んだ視線を向ける。


「ええ、私たちの弟です」


「そう……」

 婦人は、本当に悲しそうな顔をした。夫婦は、上等な身なりをしており、裕福な人のように見える。


「私たちはね、娘なの」

 そう言って、向こうの方の墓標を振り返る。


「一人娘でね。優しくて、強くて、素直になるのが下手で、本当に可愛らしい娘だった。この人があんまり甘やかすもんだから、すごく気位が高くてね」

 婦人は、まるで娘が目の前にいるかのように、目を細めている。


「私がせっかく女の子らしい服や振る舞いを身につけさせても、男に負けたくないと言って、よく男の子と喧嘩していたわ。女の子からの人気が厚くて、みんながあの子の歩き方を真似したりしてね」

 ころころと笑う婦人の姿が、少女のようで、可愛らしいと思った。しかし、すぐにその顔には影が差した。


「本当に寂しいわ」


 夫に促されると、「ごめんなさい、しゃべり相手がほしくって、つい」と言い、夫婦は去って行った。


 宿は、一番安いところをとった。財布には痛いが、ゆっくり体を休められるのはとてもありがたい。重要なのは、門前市の中にいれば、憑き物による危険にさらされることが、ほとんどないということだ。辺りはすっかり暗くなり、冷たい風が吹き始めている。泊まる部屋へ向かおうとすると、通路で人に出くわした。


 女の子が、六鹿たちの泊まる部屋の、隣の部屋を訪ねるところだったようだ。女の子が「クロウいる?」と言い、その後『クロウ』と思われる男の子が、部屋の外まで出てきた。彼らの後ろを通るとき、盗み聞きを警戒するように黙り込んだので、六鹿と四蛇はなるべく早く通り過ぎる。


「あんな小さな子供も、蒼羽隊にいるんだな」と四蛇が呟いた。六鹿と四蛇は、久しぶりに温かい風呂に入ると、大の字で眠った。


 翌日、五年前を思い出しながら門前市を歩いてみると、あっというまに町の端についてしまい、記憶の中の門前市よりも狭いことに驚いた。身体が成長したということかな、と二人は言葉を交わす。もちろん、ばったりエノキに会うなんてこともなかった。

 五年前に車を放置した場所へ行くと、そこに車はなかった。誰が片付けたのか見当もつかなかったが、申し訳ない気持ちでそこに佇んだ。


 それから門前市で、五馬の写真を見せて回った。ほとんどの店を回ったが、五馬を知っている人物は一人も見つからなかった。決して広い町ではないため、誰も知らないということは、ここで生活しているという可能性はなさそうだ。


 夕方頃、浮文紙に又旅からの連絡が入った。作戦に必要な協力者である、古い友人を捕まえることができたらしい。今夜、作戦を決行することが決まった。

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