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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第四章 句朗
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4-6

 残念ながら、照らし合わせの結果、大した成果は得られなかった。青い手記とその写しで異なっていたのは、古井、リオコ、入の紹介文と、名法師、リア、ヨアの紹介文と、最後の日の日記のみだ。


 まず、古井のところには『懐かしい気分にさせる、母親のような優しさがある。考え方が似ているので話していて楽しい』と書いてあった。リオコのところには『古井と同室。人の考えに左右されず、独自の信条があるところが好き』と書いてあった。


 これを本人に見られたのだと思うと、ちょっと照れ臭い。入の紹介文からは『馴れ馴れしいが信用ならない』の文章が消えていて、代わりに『すごくかわいい』と書かかれていた。


「あはは、可愛いだって」と言うと、入はまた少し耳を赤くした。


 名法師、ヨア、リアについては、修正後の方だと誉め言葉が並んでいたが、写しの方だとその肩書が書かれているだけだった。


「分かったのは、この三人の印象を良くさせたいということと、古井、リオコ、私とは仲良くさせたくないということだけか」と入が呟く。


 最後の日記を見ると、麺料理に卵が二つ乗っていた話のあと、別の記述があった。走り書きで、『名法師、ヨア、リアの三人が急にどこかへ行った。古井と一緒に、屋敷へ行く』とあった。この一文は、名法師らにとって都合が悪かったから、消されたのだろう。


「この文を消したところで、入が教えてくれるから意味ないのにね」


 句朗が疑問を口にすると「私はその場にいなかったことになっているから」と入は言い、口をつぐんだ。


「そうなの?」


「いや、私もあんまり覚えてないんだ」

 入は目を泳がせる。


「急用を、思い出した」


 入が立ち上がったので、思わず腕を掴む。前にも同じようなことがあった。核心に迫るような話題になると、入は具合が悪くなるらしい。何か隠しているに違いない。しかし、とぼけているような感じでもない。


「入、君、もしかしてなにか呪術をかけられているんじゃあ……」

 句朗は気味が悪くなって尋ねたが、入は申し訳なさそうな顔をしながらも、そそくさとその部屋を出て行った。


 木偶が、気づいてほしそうに目の前に浮かんできたので、中を見ると、リオコと交換した浮文紙に文字が浮かんでいた。


『古井は三日前に九頭竜国へ連れて行かれたらしい。ハルバが教えてくれた。リアもそう言っていたけど、ヨアに邪魔された』


 端的な文章は情報が少なく、よく分からなかった。どうして九頭竜国が出てくるのだろうか。それに、三日前ということは、桂班が鳩車で同行しているはずだ。古井が鳩車に乗っていたなら、入が気づかないはずがない気がした。


 リオコから直接知らせが行っているかもしれないが、念のためその旨を入の浮文紙に書いておき、句朗は訓練場へ向かうことにした。明日は記憶を失ってから初めての仕事だ。しばらく憑き物を相手に訓練したあと、武器の手入れを行なった。翠羽の親切な人が、道具の場所と手入れの方法を教えてくれた。


 夜になり、布団に入ってからも、入からの返事はなかった。枕元で、木偶がゆっくり動くのを、なんとなく見つめる。木偶はたまに、カタカタとその小さな体を震わせる。うとうととし始めた頃、扉をノックする音が聞こえた。


 扉を開けると、入が立っていた。つかつかと部屋に入ってきて、ベッドに腰掛ける。


「僕もう、寝るところだったんだけど」


「私は、今起きたばかりだから」


 冗談のつもりなのか、身勝手なことを言う。


「今までずっと寝てたの?」


「ウン」


 入は身を乗り出した。


「そんなことより、鳩車に古井なんていなかったよ。煙羅から九頭竜まで、丸一日も鳩車の中にいたんだ。古井が乗っていたら分かるはずだし、そんな重要な話、蒼羽隊が聞かされていないわけがないよ」


 入は断言する。


「そもそも九頭竜国へ送る意味が分からない。嘘なんじゃないかな」


「うーん、じゃあ、どこにいると思う?」


「名法師の屋敷」


 句朗は、入が自分の部屋へ帰ってくれないかと思ったが、彼女にはそんな気がないようだった。入はなにやら考え込むと「今から、屋敷へ忍び込もうか」と言った。


 さすがに冗談かと思ったが、どうやら本気らしい。もう眠るところだし、明日は任務だし、見つかったら取り返しのつかないことになる。句朗は、一通りのまっとうな意見を口にしたが、入は意外な顔をして「本気で言ってる?」と言った。それはこっちの台詞だと言い返すと、「じゃあ、ひとりで行く」と部屋を出て行ってしまった。


 句朗はいったん横になったが、入を放っておいたまま眠ることができるわけもなく、慌てて着替えると、入を追いかけた。


 彼女は階段のところで待っており、句朗を見るとにやりと笑った。

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