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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第四章 句朗
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4-1

 目が覚めると、見覚えのある高い天井が見えた。しばらく考えて、医務室だと気づく。それと同時に、全身に強い痛みを感じた。


「句朗」


 側に入がいる。彼女はすぐに先生を呼び、先生はてきぱきと診察や検査を行った。窓の外を見ると、真っ暗だ。先生の話だと、句朗が憑き物の腕から落下したときに、頭を打ったらしい。


 顔付きは、駆けつけた忍冬班がたった二人で片付けたそうだ。怪我人は、句朗を除くと、白駒に残った翠羽の隊員が腕を折っただけとのことだった。死人は出なかった。こんなに怪我人が少ないのは、顔付きの討伐では珍しいことらしい。


「あなたは早く寝なさい」


 先生の言葉に、入は大人しく従い、自分の部屋へ戻っていった。時間を尋ねると、もう真夜中だ。頭を打ったので、念の為一晩は医務室で過ごすように言われたが、どうやら、頭の後ろに、大きなたんこぶを作っただけで済んだようだ。


 翌朝、桂班の三人が医務室を訪ねてきた。今日から三日、鳩車護衛の任務だが、句朗は外されたとのことだった。怪我をしたこともあるが、木偶のない状態で仕事をするのは危険だという判断からだった。任務に参加したい気持ちはあったが、迷惑をかけた身としては抗弁する言葉が見つからなかった。


 桂班の三人を見送るとすぐに、リオコが顔を出した。カーテンの隙間からこちらを覗くと、こちらが何か言う前に、ふんと鼻で笑って引っ込んだ。


 咄嗟に「あの」と声をかけると、また顔を出した。


 白駒が襲われた時、リオコに「句朗」と名前を呼ばれたのを覚えている。名乗らなくてもこちらの名前を知っていたため、記憶を失う前に親しかったのかもしれない。


「僕、白紙に返ったんです」


「知ってるよ」


 自分と相手との親しさを、どういう言葉で尋ねるべきか少し悩む。


「リオコさんのこと、覚えていなくて。よく話したりしていたんでしょうか」


「私、古井と寮で同室だから。よく知ってるよ。入も、もちろん」


「そうでしたか」


「あんた、なんかしゅんとしたね」


「しゅん?」


「自信持ちな」


 リオコはそう言い残して去った。わざわざ顔を見にきてくれたことに、親しみを感じる。『リオコ』という名に覚えがないため、リオコも古井同様、青い手記には記載がなかった可能性がある。


 次の訪問者は忍冬班の火湯だった。自分を顔付きから助けてくれた忍冬班は、彼と羅愚来という二人の男のはずだ。前に食堂で見かけた、仲の悪い二人だ。彼が自分を訪ねてくるとは思っていなかったので、慌てて跳ね起きたが、強い口調で寝ているように言われたため、大人しく従った。


「忍冬班の火湯だ」


 白紙に返ったことを聞いているのだろう。彼は自己紹介した。火湯は窮屈そうにベッドの脇へ来ると、立ったまま質問した。


「今回の件だが、何が良くなかったと思う。ゆっくり考えればいいから、聞かせろ」


 句朗は緊張し、じわりと汗をかく。


 顔付きが近づいているという浮文紙の知らせに気づいていれば、対処できたかもしれない。木偶があれば、浮文紙の知らせを教えてくれただろう。しかし、必死で戦っていたため、そんなことには気を回せなかったかもしれない。あの状況で、他にどう動けただろうか?しかし、責任を自分に見つけないような返答はすべきではないと、句朗には分かっていた。


「僕の集中力が足りず、中型の憑き物に夢中で顔付きに気づけなかったこと……」

 話しながら、そんな表面的なことが原因ではないと気づき、言葉を改めた。


「いえ……。僕が、木偶もなく、実力もないのに、勝手な判断で任務に出たこと。あとは、戦場を甘くみていたことが原因だと思います」


 火湯の顔を見ても、句朗の返答に満足したのかどうかは、分からなかった。


「お前は、白紙に返る前、人が死ぬのを何度も見てきた」


 火湯は椅子にかけ、目を伏せた。


「隊員や民間人を庇って蒼羽隊の仲間が死ぬところを見てきた。憑き物が人を殺すところを、ノウマによってハカゼにかかり、そのまま息絶えるところを、見てきた。その時の、お前の気持ちを想像しろ」


 沈黙が降りる。


「それだけではない。お前は、蒼羽隊の仲間と励まし合いながら、苦しい戦いの中で、自分なりの正義を見つけていた。それに基づいて、相当な努力をしていた。思い出せなくてもいい。自分自身のために、考えろ」


 火湯のその言葉は、句朗を揺さぶった。ものすごく大切なことを教えてくれていると分かっているものの、自分の中で確実なものを掴めなくてもどかしい。


 火湯は立ち上がったが、言い残したことがあったのか、また座った。


「憑き物の動きがおかしかった」


「僕を殺さずに連れ去ったことですか?」


「ああ。殺さなかったのも変だが、攻撃以外の目的を持った顔付きも、初めて見た」


「顔付きが向かっていた先はどこなのでしょうか」


「分からん。方角としてはザムザか、妙丸の里の方だが、かなり遠い。顔付きを近くで見て、何か気づいたことはないか」


 句朗は記憶を辿ったが、特に思い至ることはなかった。強いて言えば、憑き物が悲しそうだったことくらいだろうか。しかし、ただの主観を火湯に伝えるのも変だと思った。


「何かあったら、俺か、元帥や隊長に伝えてくれ」

 そう言って、火湯は医務室を出て行った。


 先生の許可が降りると、食堂でお腹一杯ご飯を食べた。それから自室に戻って蒼い手記を読んだが、リオコの名前はやはりなかった。句朗は早く入と話をしたかったが、三日経つまで会えない。時間の限り、武器の扱いの練習をすることにした。


 訓練場へ行き、一番小さな憑き物を使って訓練を始める。訓練場の見張りは、たまたまリオコがやっていた。今日は上着を着ているが、その下にたくましい筋肉を隠していることを知っている。ただし大柄というわけではなく、化粧気もないため、遠くから見ると、まるで女の子に人気の出そうな青年のように見える。


 時間を忘れて憑き物を破壊する練習をしていると、遠くから「そろそろ休めば」という声が聞こえた。先ほどから視界の隅で目立っていた、青髪の方からの声だ。憑き物をすべて破壊したことを確認してからそちらを見ると、名法師の屋敷にいた少年だった。


 句朗は手を上げてそれに答え、檻から出ると、その場に尻をついた。疲れがどっと身体を襲う。集中していたため気づかなかったが、腕まくりをした素肌は傷だらけだった。時間を確認すると、昼をとうにすぎている。少年は親切で声をかけてくれたようで、既にどこかへ行ってしまったようだ。


 訓練場を出たところで、リオコに会った。午後の担当者と交代で、遅い昼食を取るとのことだった。


「句朗と話がしたかったんだ。昨日は調子悪そうで遠慮したけど」


「僕もです」


 青い手記にリオコの名前がなかったことや、古井との関係について、話を聞きたかった。しかし、後ろから軽快な足音が聞こえてきて、声をかけられた。


「俺もご一緒していいかな」


 振り返ると、青髪の少年だった。

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