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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第三章 六鹿と四蛇
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3-8

 シャン坊に通されたのは、子供部屋のような印象の、清潔な部屋だった。

 ベッドに五馬を寝かせ、しばらく傍にいることを申し出ると、シャン坊は表情を変えないまま「もう亡くなっているかと」とあっさり言った。


 それでも傍にいることを申し出ると、シャン坊は、少し黙って視線を横にずらしてから「ええ、もちろん」と言った。その、気に障ったような仕草が、大人のようで気味が悪かったのを覚えている。


 シャン坊は早く帰ってほしい様子で、遺体を引き取った後の説明をした。庵霊院の裏の墓地に埋葬されることや、葬式のこと、役所に提出する死亡届のことなどだ。


 二人が気持ちを整える前に、シャン坊は死亡届を差し出し、何か質問はあるかと尋ねた。ないと答えると、「このたびは、ご愁傷様でした」と頭を下げた。


 二人は、こういう場面に立ち会ったことがなかった。それに二人ともまだ幼く、家族の死を前にして、どういう気持ちになるのが正しいのか、どういう扱いを受けるのが正しいのか、何も分からなかった。ただ、シャン坊が帰ってほしそうにしているのは分かった。


 六鹿は五馬を振り返り、胸の中で何か言い残すことはないのかと考えたが、何も思い浮かばなかった。四蛇は五馬の顔をじっと見つめたまま、動かなかった。シャン坊の態度を気にも留めていない様子だったが、六鹿が帰るそぶりを見せると、さっと立ち上がった。


 車に戻っても、何かする気持ちは起きなかった。今朝と違うのは、五馬がいないことだけだった。ポケットから、人形を取り出して助手席に置いた。


「どうやって帰ろう」


 四蛇が呟いたが、六鹿にも分からなかった。車の燃料はほとんど底をついているし、燃料を買うお金もない。無傷でここまで来られたのは、奇跡に近かった。六鹿は思考するのが難しい状態だった。頭を働かせようとしても、集中できない。結局、長い時間そのままぼんやりしていた。


 日が傾きかけた頃、四蛇の提案で門前市へ行って、大人に相談することにした。助手席の人形を掴むと、普通の温度に戻っていた。


「四蛇」


 四蛇の手に人形を乗せると、四蛇はくるりと後ろを向き、しばらく堪えていたが、我慢できずに嗚咽を漏らした。


 六鹿は、四蛇の震える肩を見つめながら、自分の気持ちが普通ではないことにやっと気づいた。夢の中にいるような、どこか他人事のような気持ちだった。扉を開け放したまま運転席に座って風に当たり、四蛇が落ち着くのを待った。


 門前市へ戻り、飯屋のおばさんを捕まえて相談すると、呆れたような顔をしたものの、エノキという人物を紹介してくれた。教えてもらった宿を訪ねると、夕飯時であるにも関わらず、エノキという人物は訪問に応じてくれた。彼は、肌着のような薄いシャツを着た、腹が出た中年の男性だった。顔に刻まれたしわは深く、彼の表情をより大げさに見せる効果があった。怒ったらきっと怖いに違いない。


 エノキはとても親切だった。二人を飯屋に誘い、身の上の話を聞くと、その無計画さと無鉄砲さを叱った。生きてここまで来られたのは奇跡で、仮にここまでたどり着けても、間違いなく門前市で乞食をやるか、のたれ死ぬことになっただろうと言った。六鹿は、エノキの言うことが全くその通りだったので、素直に頭を垂れていた。

 六鹿は四蛇を、四蛇は六鹿を危ない目に合わせることになったのだと考えなさいと言われた。自分で責任を取れないことはやるなと言われた。


 その飯屋は、門前市の中で比較的安い店だったが、それでも非常に高かった。物資の供給が難しいにも関わらず人が集まるため、門前市の物価は高騰しているのだ。支払いはエノキが持ってくれた。エノキは煙羅国に住む人間で、ここへは仕事で来ているのだそうだ。


「私たち、どうすれば……」


「明日、雉子車に乗せてあげよう。煙羅国行きだが、ここに残るよりかはましだろう」


 エノキはそれから二人の車までついてくると、わずかに残った燃料を抜き取って、「明日のお代だ」と言って去っていった。燃料はわずかな金になるだろうが、雉子車に乗る代金には、全く足りなかっただろう。


 翌朝、合流したエノキは、上等なコートを羽織り、部下を従えていた。前の日とはまるで別人で、立派な紳士に見えた。


 煙羅国の乗り物に乗るのは、初めての経験だった。雉子車は、鳥を模し、赤と緑に塗られた大きな乗り物だった。あんな状況ではなければ、きっと二人ともその奇妙な乗り物に、目を輝かせたに違いない。しかし、心の中に顕著に浮かび上がったのは、五馬の不在だった。彼は、煙羅国のこの乗り物に乗るのを、夢見ていたのだ。


 それだけではない。彼を置いて庵霊院を去ることに、ためらいが残っていた。自分たちがものを知らないだけで、もっと何か良いやり方があったのではないか。しかし、頼れるのはエノキだけだった。この機会を逃したら、家に帰れないかもしれない。二人には、どうすることもできなかった。


 雉子車には、当然ながら蒼羽隊が乗っていた。中性的な顔の青年と、大柄で寡黙な青年と、とても怖い顔をした女性だった。もし雉子車が憑き物に襲われたとして、たった三人でどうにかできるものではない気がしたが、六鹿にはなんだかどうでもよかった。


 六鹿と四蛇には席が与えられず、荷物の隙間に身を埋めた。体は痛くて仕方がなかったが、四蛇とくっついて窓の外の景色を眺めるのは、悪い気分ではなかった。


 一晩明かし、翌日の昼を過ぎて、さらにまた暗くなった後、煙羅国へ到着した。写真でしか見たことがなかった、油隠のもう一つの大国を、六鹿と四蛇は顔をくっつけて小さな窓から見た。雉子車を降りた時、異国であるということを強く感じた。人も景色も、気温も湿度も、匂いも異なっていた。なぜだか、庵霊院にいた時よりも、直接的な寂しさを感じた。


 エノキは忙しいのか、すぐにどこかへ行ってしまい、お礼を言い損ねた。雉子車を降りたところで、巨額の請求を受けたらどうしようかと思っていたが、誰にも引き止められなかった。


 煙羅国を歩き、皇居があるという一番大きな街へ向かった。後から知ったところによると、マルバの宮というらしい。九頭竜国の都とは全く異なっており、マルバの宮には豊かな生活があった。町並みも美しく、活気があって、みな幸せそうに見えた。


 当てはなかった。役所のようなところへ行けば、相談に乗ってくれる人がいるかもしれないと思って、二人は街の中心の方へ向かった。


 通りの真ん中で待っていたのは、二人の育ての親、潮だった。六鹿は潮に縋りつき、何もかも忘れて、身体を絞るような勢いで泣いた。あの時の気持ちを表現する言葉を、六鹿はまだ、持ち合わせていない。

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