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HUE ~だいだらぼっちが転んだ日~  作者: 宇白 もちこ
第三章 六鹿と四蛇
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3-3

 それから数日は、普段通りの生活を送った。すでに入っていた仕事を放り出すわけにはいかないと、六鹿が言ったためだ。仕事を紹介してくれる各所には、しばらく仕事を休みたいと伝え、新しい仕事の受注を断った。断りづらい仕事の場合は、引っ越しすると嘘をついて断った。


「もう当分会えなくなるから、気を使わずに誘うよ?」


 そう言って目有が提案したのは、彼女の服や化粧道具でおしゃれをして、都へ出かけることだった。意外な提案に驚きながらも、長い旅に出る前の最後の贅沢だと思い、六鹿はその言葉に甘えることにした。


 目有の言った『気を使わない』というのは、街へ誘うことではなく、自分の服や化粧品を貸すということについてだったのだろう。六鹿は、自分が貧乏であることに劣等感を抱えていたが、目有の方からそれに言及してくれたような形になったので、それは取り払われ、気が楽になった。


 次の休みには、六鹿は目有の家で、鼻歌を歌いながら服を選んだ。目有に化粧をしてもらうのは、こそばゆくて、初めての経験なのに懐かしくて、本当に会えなくなるのだと思うと、これから一緒に出かけると言うのに少し泣きそうになった。


 久しぶりの都は、とても楽しかった。昔都へ行ったときは、自分がみっともない恰好をしているんじゃないかと気になって、俯いて歩いたものだ。当時はおしゃれな若者にばかり目が言ったが、肩の力を抜いて街を歩くと、いろんな人がいることが分かる。自分の悪い癖で、劣等感という色眼鏡を通して街を見ていたのだ。


 これから旅に出ることを考えると、不要な出費は避けたい。二人は珍しい品物を手に取って眺めるだけに留め、甘くて可愛らしい見た目のお菓子の、食べ歩きをした。街の中心部は、赤を基調とした、お店や宿が軒を連ね、大いに賑わっている。赤壁の外の、閑散とした景色とは大違いだ。野外劇場で演劇を楽しみ、自衛団の遊型車がずらりと並ぶのを見物した。夕方には揚げ物を出す店で、お腹いっぱい美味しいものを食べた。餞別だと言う目有の奢りだった。香りの良いお酒をちびちび飲みながら、店の窓から赤壁の外の景色を眺めるのは、贅沢を感じる時間だった。


 ふと、その場所から自分の家のあたりが見えることに気づく。これまで、一度もこの店のことを意識したことはなかった。世界に独りぼっちになったような孤独を抱えている時にも、この店の客から、日常的に見下ろされていたのだと思うと、何だか変な感じだった。


 帰りがけに、何軒かの薬屋を回った。一番安い整腸剤をたくさん買い、漢方を使った顆粒の風邪薬と、自分用の胃薬も少し買った。一つの店だと在庫が足りず、不審に思われるため、複数の店舗へ行く必要があった。これも五馬を探す旅に必要な仕事の一つだ。


 ところで、茶々が六鹿の家に現れた日から、目有には何か言いたそうなそぶりがあった。購入した大量の薬を六鹿の家へ運び、家にいた四蛇と合流すると、目有が少し話せないかと言ってきた。


「どうして?」


 目有の話を聞いた第一声はそれである。


 庵霊院への旅の第一歩として、二人は九頭龍国の北の外れにある森へ行くつもりだった。その森は、九頭竜国から離れた遥か遠くまで北西に広がり、二兎山のあたりまで続いていて、目有たちの故郷を内包している形になっている。

 九頭龍国から一番近い、森の入り口で、まずは茶々と落ち合うことになっている。茶々はそのあたりで暮らしているらしい。白壁から森までの間は憑き物に出くわす可能性があるため、普段通り二人で遊型車を使う予定だった。遊型車は森の入り口に放置することになるが、仕方ない。


 目有は、その森の入り口までついていきたいと言い出したのだ。九頭龍国で別れるつもりだった六鹿と四蛇は、当然の疑問を口にした。しかし、目有はもごもごと、大丈夫だとかなんとか言った。


「理由はともかく、三人では行けないよ。遊型車に二人乗りはできるけど、帰りに目有一人になっちゃう。目有は遊型車の運転をできないし」


「それは、考えてあるの。大きめの車を一台借りましょう。それなら私ひとりでも運転できる」


「でも憑き物に襲われたら、ひとたまりもないよ。遊型車と違って速さは出ないし、走る場所も限られる。一台だと、先導役との分担もできないし」


ウシオに迎えにきてもらう、というのは嫌よね」


 六鹿は言葉に詰まったが、否定の意思はみなに伝わった。潮という、三人の育ての親とは、今では疎遠だった。


「ごめん」


「じゃあ、波山を呼ぶわ」


「バサン?」


 聞き間違えかと思い、四蛇は聞き返した。波山とは、鳥の一種だ。赤くて大きな美しい鳥で、口からやわらかい炎を吐く。


「しゃべる波山、覚えているでしょ」


 目有はふっと笑みを浮かべ、六鹿と四蛇は顔を見合わせた。以前五馬を庵霊院へ連れて行った時に、とある波山と出会った。そのしゃべる波山のおかげで、庵霊院へ無事に到着することができたのだ。


「どうして知っているの?」


「あの波山も、うちの村の出身だからよ」


 六鹿と四蛇は驚きで言葉を詰まらせたが、頭を切り替えて、本題に戻った。


「そんなの、気軽に呼べるものなの」


「これまでは断られていたけど、今回は大丈夫よ」


 六鹿は不安な顔で四蛇を見たが、四蛇は別のことを考えていた。そのしゃべる波山が、茶々にすごく似ていたことに思い至ったのだ。話し方がとても似ていた。昔のことなので記憶が曖昧だが、思い出せば思い出すほど一致しているような気がする。


「で、結局どうして森に行きたいの」


 目有は腕を組むと、あっさりした口調で言った。


「その言い訳を用意する時間はなかったのよ」

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