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14 ロザリンド様のお茶会③

 入ってきた侍女は、深々と頭を下げます。


「ロザリンド様。リーヴス卿がお呼びです」

「先生が?」


 ロザリンド様はチラッと私を見ると「先生に今日会う予定はないわ。帰るように伝えて」と言いました。


 入ってきたときと同じように深々と頭を下げてから侍女は部屋から出て行きます。


「あの、大丈夫ですか? お忙しいのなら……」

「いいえ。先生には今日の講義を休むと事前に伝えています。何か行き違いがあったのでしょう。それより、せっかくなのでシンシア様のお話を聞かせてください」

「私の?」

「はい。テオドール様とはどのようなお付き合いを?」

 ロザリンド様の瞳は、期待でキラキラと輝いています。


 お付き合いって……ハッ⁉ これって、恋愛のお話をする、いわゆる恋バナというものでは?


 小説内ではお友達とのお茶会で、好きな男性について話すシーンがよくあります。私もいつか、こんなことをしてみたいと憧れていました。


 今がそのチャンスです!


「え、えっと、その、テオドール様に初めてお会いしたときから、とても素敵な方だと思いまして」

「それで?」

「あの、えっと……」


 しどろもどろになっている私の話を、ロザリンド様は楽しそうに聞いてくれます。


 うっ、なんて良い方なんでしょうか!


 私が一通りテオドール様の魅力を語り終わると、ロザリンド様は「素敵だわ」と言ってくれました。


「ありがとうございます。あの、ロザリンド様は?」

「私はまだ婚約者が決まっていないの。どこの国に嫁ぐことになっても大丈夫なように覚悟は決めていたけど、まさか私が女王になるなんて……」


 その表情は憂鬱そうです。


 ロザリンド様の状況を、自分のことに置き換えたら、ある日突然バルゴア辺境伯を継ぐはずだったお兄様が継ぐのをやめてしまい、急きょ私がバルゴア辺境伯を継がないといけなくなったってことですよね?


 うわぁ……。少し想像しただけで胃の辺りが痛くなってきました。


 そう考えると、ロザリンド様は今とても大変な状況なのですね。

 それなのに、文句も言わず頑張っているなんて偉すぎます。


 まだお会いしてほんの少ししか経っていませんが、私はロザリンド様ともっと仲良くなりたいと思いました。


 私が誰かと親しくなりたいと思ったのは、家族以外では、テオドール様だけです。


 例えば、私が専属メイドや専属護衛を選ぶと、その人たちは私を命がけで守らないといけなくなってしまいます。それを避けるために、私は今までできる限り特別な人を作らないようにしてきました。


 でも、テオドール様に出会ってから私の考えは少し変わりました。


 テオドール様は私が側にいてくれるだけで幸せだと言ってくれます。私だってテオドール様の側にいれるだけで幸せです。


 もしかしたら、テオドール様のように『側にいてくれるだけでいい』と思ってくれる人が他にもいるかもしれません。勇気を出したら、私にもお友達ができるかも?


「あの、ロザリンド様……」

「何かしら?」

「その……よければ、わ、私とお友達に……」


 ロザリンド様の瞳が大きく見開いたあと、フワッと花開くような笑みが浮かびます。


「もちろんよ! 嬉しいわ」

「わ、私も嬉しいです!」

「シンシアって呼んでいいかしら?」

「はい!」

「私のことはローザって呼んでね」

「ロ、ローザ様……」


 まさかの愛称呼びを許していただけました。ものすごくお友達っぽいです!


 それから私たちは、いろんなお話をしました。

 あっという間に時間が過ぎて、もう何杯目のお茶を飲んだのか分かりません。たくさんあったお菓子もほとんど食べてしまいました。


 初めてできたお友達とのおしゃべりが楽しくて、会話が弾んで仕方ないです。話してみて分かったのですが、ロザリンド様と本の趣味が合います。


「シンシアは、あの本は読んだ?」

「はい、とても面白かったです!」

「そうよね。私もそう思うわ」


 そんなとき、また扉がノックされました。


 入ってきた侍女は「殿下、リーヴス卿がお待ちです」と伝えます。


「会わないと伝えたけど?」

「それが……」


 戸惑う侍女を押しのけるように、一人の男性が入ってきました。男性は私のお父様と同じくらいの年齢に見えます。


「王女殿下にご挨拶を申し上げます」

「先生、今日は大切なお客様が来ているのです。お話はまた後日」


 この男性がリーヴス卿で、ロザリンド様の今の先生なのですね。

 なんだか、厳しそうな先生です。


「王女殿下。遊び惚けている時間はありません」


 そう言いながらリーヴス卿は、ギロリと私を睨みつけました。


「そこのあなた、いつまで王女殿下の邪魔をするつもりですか?」


 ロザリンド様の表情が曇ります。


「彼女は私の大切なお客様です。無礼は許しません」

「ですが、私は国王陛下からあなたを立派に教育するよう命を受けています。陛下の期待に応えることこそが、今のあなたの使命です。まさか、アンジェリカ様のようになるおつもりではありませんよね?」


 少し俯いたロザリンド様は、小さくため息をつきました。


「シンシア。今日はここまでにしてもらえるかしら?」

「はい、もちろんです」


 帰るのはいいのですが、先生の言葉にカチンときたのは私だけでしょうか?


 こんな先生、私は絶対に嫌です。テオドール様なら、こんな言い方をせず、親切丁寧に教えてくれるのに。


 そう思った私は、テオドール様と一緒の馬車で王宮に来たことをようやく思い出しました。


 もし帰る時間が同じなら一緒に帰ろうと思っていましたが、さすがに先に帰っていますよね?


 その場合、乗ってきた馬車はどうなっているのでしょうか?


 ロザリンド様にご挨拶してから、私は慌てて馬車乗り場に向かいます。


 その途中で、メイドたちが集まっているのを見かけました。皆、同じ方向を見てヒソヒソと話しています。


 何かあったのかと見ると、メイドたちの視線の先にはテオドール様がいました。中庭のベンチに腰を降ろして本を読んでいるテオドール様の神々しさは、まるで絵画のようです。


「素敵な方」

「見ない顔ね?」


 メイドたちからそんなささやきが聞こえてきます。

 王家の役人時代とは雰囲気がだいぶ変わったので、皆テオドール様だとは気がついていないようです。


 やっぱりテオドール様はモテますよね。

 私が感心していると、テオドール様がふとこちらを見ました。その視線の冷たさにメイドたちは一斉にビクッと身体を震わせます。


「お、怒っているわ」

「私たちが、うるさかったからじゃない?」


 いえ、テオドール様はそんなことで怒る方ではありません。でも、顔が整っている人って黙っていたら怒っているように見えるんですよね。


 王宮の役人時代は、顔色が悪かったので、今よりさらに機嫌が悪そうに見えていたのかも?


 ロザリンド様が『話しかけづらい』と言っていたのは、そういうことかもしれません。


 一人のメイドが「もう何時間もあそこで本を読んでいるから、待ち人が来なくて怒っているんじゃない?」と呟きました。


 何時間も⁉


 驚いた私はテオドール様と目が合いました。そのとたんに、テオドール様が優しく微笑んだのでメイドたちから「きゃあ」と黄色い歓声が上がります。


 そんなメイドたちに目もくれず、「シンシア様」と嬉しそうに私の名を呼ぶテオドール様。


 メイドたちは、背後にいた私に気がつくと、蜘蛛の子を散らすように去っていきました。


 私は勢いよくテオドール様に頭を下げます。


「お待たせしてしまってすみません!」

「いいえ、私もつい先ほど終わったところです」

「でも、何時間も待っていたって……」


 テオドール様は、私の手をそっと握りました。


「いいんですよ。あなたを待つ時間も楽しいですから」

「テオドール様……」


 胸が締めつけられて苦しいです。私はもっと周りの人のことを考えて行動できるようになりたいと思いました。


「お茶会はどうでしたか?」

「とても楽しかったですよ」

「それは良かったです。帰りましょうか」

「はい」


 テオドール様は、幸せそうに微笑んでいます。


 私はそんなテオドール様の手をギュッと握り返しました。

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