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11 お茶会のお誘い

 あれから私の足は、少しも痛みませんでした。


 でも、周囲に過保護にされて、安静にしながら過ごしているうちにあっという間に一週間が経ってしまいました。

 

 その間に、なんとロザリンド様から私宛にお茶会の招待状が届いたのです。


 その招待状には、私に助けてくれたお礼を言いたいことや、まだ体調が完全に戻っていないため、ロザリンド様と私の二人きりの小規模なお茶会であることが書かれていました。


 招待状を手渡してくれたテオドール様は、心配そうな顔をしています。


「ロザリンド様は、お礼を言いたいとのことですが、あの場でシンシア様の仕業だと疑った王宮騎士の件もあります。足も痛めていますし、参加しなくていいのでは?」

「王族からのお誘いを断っていいんですか?」

「シンシア様なら問題ありません。バルゴアなので」


 バルゴアが便利すぎるのですが……?


 少し悩みましたが、私はお茶会に参加することを決めました。


 なぜなら、あのときのロザリンド様の顔色の悪さが昔のテオドール様と重なり、なんだか気になってしまうからです。


 あと、ロザリンド様がテオドール様のことをどう思っているのかも知りたいです。


 優秀すぎるテオドール様は、王家の役人だけでなく、ベイリー公爵家からも帰ってきてほしいと願われている存在です。

 もしかしたら、ロザリンド様も元は王配になる予定だったテオドール様に戻ってほしいと願っているかもしれません。


 王家の役人の方々の話によると、ロザリンド様には婚約者がいないそうなので、私たちの婚約がまだ成立していない今ならテオドール様と婚約することだってできてしまいます。


 そう……いうなれば、ロザリンド様は私の恋敵!

 このお茶会という名の呼び出しから逃げるわけにはいきません。


 私がテオドール様に「お茶会に参加します」と伝えると、先ほどから不安そうな顔をしていたテオドール様は「分かりました。シンシア様のお心のままに」と小さく笑みを浮かべます。


 テオドール様は、自分の意見は言うけど、決してその意見を押しつけようとしないところがすごいです。


 感心している私の手を、テオドール様が優しく握りました。


「では、お茶会に参加するためのドレスを私に贈らせてください」

「えっ? お誕生日パーティーに着ていったドレスで参加したらダメですか?」

「ダメです」


 微笑みを浮かべたテオドール様に、はっきりと言い切られてしまいます。


「お茶会まで時間がないので、私のほうですべて手配させていただきますがお許しください」

「あ、はい」

「アクセサリーも私が選んでおきますね」

「えっと」


 以前テオドール様から頂いたアクセサリーを使おうと思っていた私は、言葉を呑み込みました。

 なぜなら、またきっと『ダメです』と言われてしまうのが分かっていたからです。


「もしかして、王都では一度着たドレスやアクセサリーを使いまわすのはルール違反ですか?」

「そういうわけではないのですが、同じ場所に行くときに同じドレスだとあなどられてしまうでしょう」


 なるほど、王宮に着ていったドレスを、別の場所に着ていくならまだしも、同じ王宮に着ていくのはよくないということなのですね。

 王都のルールって本当にややこしいです。


「では、お任せします」

「はい」


 満面の笑みを浮かべたテオドール様に見惚れた私は、どんなドレスにする予定なのかを聞くのをすっかり忘れてしまいました。


 そのあとのテオドール様の行動は早く、ドレスのことを叔母様に相談して、すぐにターチェ家に服飾士を呼びました。


 一応私もドレス選びの場にいたのですが、ドレスを選ぶテオドール様と叔母様が怖いくらい真剣だったので輪の中には入っていけません。


 叔母様が「これくらいの露出は、王都では普通よ?」と言うと、テオドール様が「シンシア様はどんなドレスでも似合いますが、それよりこちらのほうがより魅力的に着こなせると思います」と一歩も引きません。


 テオドール様から手渡されたデザインを見た叔母様は「あら、いいわね」と乗り気です。


 テオドール様……仕事ができるだけでなく、ドレス選びの才能まであったなんて……。


 私がどこか遠くを見ている間に、ドレスのデザインが決まりました。


 ドレスをオーダーメイドする時間はないので、既製品のドレスを改良するそうです。


 テオドール様の希望を服飾士に伝え、ようやくドレス選びが終わりました。


 ソファーから立ち上がった私が「お疲れ様でした」と言うと、テオドール様は「はい、シンシア様はゆっくり休んでください」と言ったあとで再度カタログをめくり始めます。


 叔母様も「あとは私たちに任せて、あなたはゆっくりしていてね」と言いながら衣装デザインを手放しません。


「あの、まだやることがあるんですか?」


 私がおそるおそる尋ねると、「この際だからあなたの謁見用のドレスも決めてしまうわ」と叔母様。


「本当ならシンシアの意見も聞きたいけど、今回は私たちに任せてほしいの」

「は、はぁ……?」

「お茶会や謁見が終わったら、あなたが好きなドレスをたくさん買ってあげるからね」


 チラッとテオドール様を見ると、仕事中の顔をしています。それくらい真剣に私のドレスを選んでくれています。


 そういえば、物語でその場に相応しくないドレスを着ていったヒロインが、他の令嬢たちに虐められるシーンを読んだことがあります。さんざんドレスをバカにされた挙句、最後にはワインやお茶をかけられてしまうのです。


 まさか、ロザリンド様のお茶会で、そんなことが起こるのでしょうか……?


 ゴクリと生つばを飲み込む私に、叔母様は静かに語りました。


「シンシア。謁見のときはテオドールさんが一緒だからいいけど、お茶会は女の戦場よ」

「せ、戦場……」


 前に社交界に出たときも、『社交界は戦場よ』って言われたような?


「きちんと事前準備をしてから参加しないと、すぐに敵に潰されるわ」


 まさか社交界だけでなく、お茶会もそんな心積もりで参加しないといけないなんて。


 ……王都、怖い。


 私がそうならないように、テオドール様と叔母様でドレスを真剣に選んでくれているのですね。そういうことでしたら、私は口を挟まずに、二人にお任せしたほうがいいでしょう。


 どこまでも真剣なテオドール様と叔母様に背を向けた私は、そっと部屋から出て行きました。

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