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02 ターチェ伯爵家の人々

 私としては、例え仮の任命であったにしろ、普通のメイドを私の専属メイドに任命したくありませんでした。命がけで守られたって少しも嬉しくありませんから。


 でも、ジーナは護衛が本職ですし、私ではなくテオドール様の護衛なので、きっとうまくやってくれることでしょう。


 私がジーナから視線を戻すと、ちょうどターチェ伯爵夫妻がエントランスホールに姿を現しました。


 叔母様がにこやかに出迎えてくれます。


「シンシア、よく来たわね」

「お久しぶりです叔母様!」


 隣ではテオドール様が叔父様にご挨拶をしています。


「ターチェ伯爵。この度は急な訪問を受け入れてくださり、ありがとうございました」

「到着を心待ちにしておりました。テオドール゠ベイリー卿」


 叔父様のかしこまった態度を見て、私は『そういえば、テオドール様は公爵令息だった!』と改めて実感しました。


 もちろん分かってはいたのですが、テオドール様は、いつでも親切丁寧なので、つい身分を忘れてしまいます。


 少しだけ困ったような顔のテオドール様が「今の私はバルゴアの役人です。どうかテオドールとお呼びください」と言い叔父様に頭を下げました。


「そうですか? うーん……」


 叔父様はなぜか私をチラッと見たあとに「まぁ、もうすぐ親戚になるそうだし」と呟きました。


「では、お言葉に甘えてテオドールくんで」

「はい、ありがとうございます」


 挨拶もそこそこに私たちは、それぞれの部屋に案内されました。


 叔母様が「こっちがテオドールさんの部屋で、こっちがシンシアの部屋よ」と教えてくれます。


 えっ? 部屋が別々⁉


 でも、そっか。よく考えたら、まだ結婚もしていないどころか、正式に婚約が認められていない男女が同じ部屋で寝泊まりするなんておかしいですものね。


 旅の間、テオドール様とずっと一緒に馬車内で寝起きしていたのに、なんだか変な気分です。


 叔父様と叔母様は「疲れたでしょう? ゆっくり身体を休めてね」と言い残して去っていきました。


 テオドール様も「シンシア様。またあとで」と微笑んだあとに、あっさり部屋に入ってしまいます。テオドール様のあとにバルゴアの騎士が何人か続いて入ったので、これからのことを話し合うのかもしれません。


 テオドール様と離れて少しだけ寂しい……なんて思ってしまうのは贅沢ですね。


 気持ちを切り替えて室内に入ると、中にいたメイドたちが一斉に礼儀正しく頭を下げました。


 私は、後ろを振り返りジーナを紹介します。


「彼女は私の専属メイドです」

「ジーナです。よろしくお願いします」


 ジーナもターチェ伯爵邸のメイドたちに負けず劣らず礼儀正しいです。


 私は皆の前でジーナにこう伝えました。


「ジーナも疲れたでしょう? あとは彼女たちにしてもらうから、あなたはゆっくりしてくださいね」


 こう言っておけばジーナは自由に動けて、テオドール様を護衛しやすくなりますよね?


「お気遣いありがとうございます」


 そう言ったジーナは、テオドール様の元に行く様子はありません。もしかして、伝わっていないのでしょうか?


 私はジーナに近づき耳元でコソッと「テオドール様の護衛に行っていいですよ?」と伝えました。


「いいえ、ここにいます。テオドール様からも、王都滞在中は、シンシア様の側にいるようにと」

「そうなのですか?」

「はい」


 まぁテオドール様がそう言っているのなら、それでいいんでしょうね。


 私はターチェ家のメイドたちに勧められて入浴することになりました。


 お湯にかると、メイドたちは私の髪を丁寧に洗ってくれます。


 上品な甘い香りが浴室を満たし、水音だけが聞こえる静かな時間が心地好いです。


 これがもしバルゴア領のメイドだったら、今ごろ楽しくおしゃべりして、浴室に笑い声が響いていることでしょう。


 もちろん、バルゴア領のメイドたちも大好きですが、この優雅な空間を作り上げるメイドたちはさすがです。おかげさまで旅の疲れが癒されました。


 私が入浴を終えると、上品なワンピースが飾られていました。叔母様が私のために準備してくださったそうです。


 テーブルの上には、軽食やデザートが並んでいます。


 メイドたちは「何かあればすぐにお呼びください」と私に伝えて、皆、部屋から出て行きました。きっと私がゆっくり休めるように気を遣ってくれているのでしょう。


 私は、「はぁ、なんだか王都に来たって感じがする」と思わず呟いたのでした。

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