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024 番外編 ツガイシステムと第六感2

 私を「お姉様」と意味ありげに慕ってくれるクリスティナ様。


 結婚したい相手を二ページに渡る紙に記して持ち込むほど情熱的な彼女が、一日も早くツガイシステムに引っかかる可能性を高くするために。


(そして、こんぶ課における平穏な日常を取り戻すため)


 意気込んだ私は、とある場所に向かった。


「たのもー!たのもー!」

「ご結婚されても、変わらずお元気そうで何よりです」

「ありがとう、トム様」

「では、エリオット様に確認をしてまいります」


 心得たと言った感じでトムが、扉にかけられた魔法を解除しようとした。


「お待ち下さい。本日はエリオット兄様ではなく、トム様にたずねたい事があるの」

「私にですか?」


 トム様は驚いた様子で、私の顔を見つめる。


「そう。ええと、こんぶ課のし、市場調査のようなものなの。だから特に深く気にしないで欲しいのだけれど、好きなタイプの女性を教えてくれない?」

「え、いきなりなんですか」


 明らかに警戒した様子のトム様。そりゃそうだろう。今の今まで、こんぶ課で市場調査などしたことがないのだから。


(でも、お世話になった国民皆様のため)


 少しの嘘は許されるはずだ。


「ほら、()()……オリヴァー殿下の一夫多妻制問題で、ツガイシステムの更新に関する調査が必要になったのよ」

「夫という言葉を口にしたくてたまらない感じが、とても初々(ういうい)しいですね」


 トムにずばり指摘され、顔が熱くなる。


「もうっ、茶化さないで!」


 内心トムの指摘は正しいこと極まりなかったが、さすがに恥ずかしいので、認めるわけにはいかないため、なんとか誤魔化す。


「申し訳ありません。それで、私の好みの女性を聞かれたのでしたね」

「えぇ、そう。色々と参考にしたいから、聞かせで欲しいの」

「そうですね。アリシア様のように、快活(かいかつ)な方は好ましく思います」


 トムは私という例をあげ、実にサラリと的確に解答してくれた。


「あら、嬉しいわ。私だってトムみたいに優しい人は、結婚相手として非常に好ましい相手だと思うわよ」


 私は微笑む。するとギギギと音を立てドアが開く。それから見慣れた金髪の男性がヌッと部屋から顔を出す。


一見(いっけん)するとその会話は、まるで恋人同士のようだね。オリヴァーが聞いたら、アリシアを閉じ込めかねないくらいかも知れない、とても危険な会話のようだ。もしかして私は、アリシアの弱みを握っちゃったのかな?」


 エリオット兄様は国民全てを(とりこ)にする、(さわ)やかな笑みを浮かべた。


「あら、私とトム様はもうずっと知り合いだったけど、ツガイシステムに引っかからない間柄(あいだがら)ですもの。つまりそれって、私たちはどんなに仲良しでも良いお友達止まりってことだわ」


 私は胸を張り答える。ツガイシステムのいいところはこういう時に、いらぬ嫌疑(けんぎ)をかけられないで済むところだ。


「確かにそうだね。君たちはとても仲の良い友人のようだ。ところで僕の可愛い妹はいつの間に、こんなにも口達者(くちたっしゃ)になってしまったんだろうね」

「口達者だなんて、兄様こそ意地悪になってます。それよりトム様。好きな色。それから結婚する異性についての容姿なのですが、何かこれといったこだわりはありますか?」


 私はエリオット兄様に構わず質問を続ける。


「そうですね。特にこれといってないですかねぇ」

「ふむふむ。どこかの誰かさんとは違い、注文が少ない。それはいい報告だわ」


 私はクリスティナと違い、許容範囲が広そうで良かったと胸を撫でおろしつつ、手にしたメモ帳に、仕入れた情報をサラサラと書き込む。


「いったい、アリシア。今度は何をはじめたのかな?」


 エリオット兄様は笑顔のまま、私に探りを入れてきた。


「これは国民の皆様の幸せのための調査です。決して兄様の弱みを握りたいとか、そういうわけではありませんのでご安心ください」


 私もエリオット兄様に負けないくらい、ニコリと微笑む。


「久々私の元を訪ねてきてくれたと思ったら、トムに用事があるみたいだし。なんだろうね、少し寂しく感じるよ。だけど君が幸せそうなのは、私にとっても喜ばしいことだと思うべきなのだろうな」


 エリオット兄様は苦笑いしながら、私に告げた。


「ええ。私は今とても幸せなんです。もちろん兄様のおかげでもありますよ!」


 私は満面の笑みで答えるのであった。



 ***



 それからしばらくの期間私は、クリスティナ様とトム様に共通しそうな話題などをリストアップしたり、婚活について帝国で出回るハウツー本などをしっかりと読み込んだ。


 もちろんこれら全ては、自分で勝手にしていること。

 つまり業務ではないので、勤務外に行う事となる。


「アリシア、まだ寝ないの」

「ごめんなさい。この本を読み終わってから寝たいの」


 私は夫婦の部屋に置かれたソファーの横に座る夫に本の背表紙を見せる。


「ええと、『まるっと解決。これであなたもカリスマ仲人(なこうど)になれる』って、今度はそういうのに目覚めたの?」

「必要に迫られてという感じです。疲れてるなら、先に寝ててください」

「……やだよ。待つ」


 オリヴァー殿下は新聞を広げてしまった。なんとなく悪いなと思いながらも、私は借りてきた本に視線を落とすのであった。


 そして舞踏会前日の夜。


「よし、やるべきことはやったかも」


 明日はクリスティナ様とトム様の完璧なる仲人役を務めるべく、万全の態勢を整えた自信はある。


「オリヴァー様、本を読み終わりました‥‥って」


 ソファーに腰掛けたまま、オリヴァー殿下は足を組んだまま、うっかり寝むりこけている。


「そっか。もうこんな時間だったんだ」


 気づけば日をまたいでいた。

 私が寝るまで頑なに「一人ではベッドにいかない」と、まるで子どもみたいに言い張っていたオリヴァー殿下。その結果私の「完璧なる仲人計画」に付き合わせてしまった形になってしまっていた。


「オリヴァー様だって、疲れてるのに。ごめんなさい」


 私はここ数日、自分の事ばかりに夢中になっていた自分に反省する。


 独身時代は、余暇を過ごす時。誰かに気を使う事なんてなかった。


「でも私は妻でもあるし。これからは気をつけないと」


 私は二度と夫を放置しないと、強く誓うのであった。



 ***



 エスメルダ王国の王城で行われる舞踏会を控えた日。

 夜に行われる舞踏会のため、私とオリヴァー殿下はベッドの中でまどろむ休日を過ごしていた。


 それはとても平和な夫婦の時間だったはずだったのだけれど。三度目のまどろみから目覚めた私に、待ち構えたようにオリヴァー殿下がボソリと口を開いた。


「僕は今、とても嫉妬しているし、そんな自分が許せない」


 突然不機嫌そうな声をあげた。


「え、嫉妬ですか?」


 私はくるりと振り返り、殿下の顔を見つめる。

 すると彼はムッとした表情のまま、天井を睨んでいた。


「トム・グランジは君の昔からの友人だと聞いている。つまり僕よりも、彼の方が君と古い仲だと言うことになる。それに彼は独身らしいじゃないか。それにここ最近、君の口からはその男の名前ばかり出るし、さっきは寝言で「トム」と呟いていた」


 オリヴァー殿下は不満げに話す。


「え、寝言ですか?」

「そうだ。寝言で君は僕以外の男の名を口にしていた」


 オリヴァー殿下が今度は、まるでこの世の終わりと言った感じ。

 とても悲しそうに眉根を寄せた。


「確かに最近、私はトム様に夢中でした。でもそれは仕事がらみのことだし、そもそもトム様とは長い付き合いですけれど、友人です」

「それでも嫌なものは嫌なんだ。君は僕の妻だし、他の男に目移りして欲しくない。たとえそれが友人であってもだ」


 ついに彼は独占欲丸出しな言葉を吐き出した。流石に寝言について責められてもという気はしなくもない。けれど、愛する夫が私の事で気を揉むのはいただけない。なにより私はここ数日ほど、オリヴァー殿下を放置しかけていた自覚がある。


「そもそもトム様とは十年来のお友達だけれど、ツガイシステムに引っかからない仲です。だからオリヴァー殿下が心配するようなことは、絶対に何もありません」


 私はハッキリと断言する。オリヴァー殿下はいつものように横にピタリと張り付くと、顎を私の肩に乗せた。それから私をギュッと抱き込む。


「ツガイシステムがそう示しているからか。それでも僕は君が誰かに捕られないか心配なんだ」


 殿下は明言を避けた。けれどいまだ、ツガイシステムを信じていないようだ。


(でもそれは、仕方ないよね)


 私達エスメルダ王国民は小さな頃から、ツガイシステムの存在を当たり前に生きている。だからそれにまつわる事は絶対的に信じている。対する帝国人は、第六感で相手を選ぶ事を当たり前として生きている。


(私が未だ、第六感というものを信じきれていないのと一緒ってこと)


 育った国が違えば、どうしたって通じ合えない事もあるのかも知れない。

 そう思うと、無性に悲しい気持ちになった。


「大丈夫ですよ。私は誰のものにもならない。だってオリヴァー殿下のことが好きですもの。例えこの先何があっても、それだけは変わりません」


 私は自分の中に湧いた不安をかき消すように、オリヴァー殿下の腕の中で微笑む。すると彼は少し驚いたような顔をした後、嬉しげに頬を緩めた。


「ありがとう。君の優しさにいつも救われてる。厄介な夫でごめん」


 オリヴァー殿下は私の頭に口づけを落とす。


「そんな殿下が私は好きですよ」


 私は彼にそっと寄り添うのであった。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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