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011 厄介な仕事に取りかかる

 ある意味オリヴァー殿下を押し付けられたと言える状態ではあるが、仕事と両国の友好のためであるならば、致し方ない。


 私はまず最初にこんぶ課の応接室でオリヴァー殿下相手に、ツガイシステムについてクリスタルを前に実践的な説明を実施した。


「なるほど。魔法が必須な、実に神秘的なシステムなんだね」


 そんな感想を頂戴した私は場所を移し、現在「案内しろ」と言われて真っ先に思いつく定番となる場所に、オリヴァー殿下と立ち寄ったところだ。


「こちらは、過去のツガイシステムの結果など、重要な記録が保管されている場所です」


 私はクリスティナ同様、オリヴァー殿下に資料室をザッと説明する。


「ふむ、興味深いな」


 オリヴァー殿下は、観察するといった感じで、室内をぐるりと見渡す。


「ここに残されている資料。これを分析すれば、ツガイシステムが結びつけやすい者同士の傾向などが判明したりしないのだろうか」

「もちろん私達もそちらについての研究を行っております。けれど髪や瞳の色。血液型に生年月日。それから出生時間に場所。その他にも趣味嗜好(しゅみしこう)を分析したりしているのですが、これといった傾向がないので、未だ結びつきの論理については謎のままです」


 それらがはっきり解明されれば、システムが相手を示すまで待つ必要がなくなる。しかし現実は、そうそう上手く解析出来そうもないという状況だ。


「なるほど。だから神の領域とも言われているというわけか」

「はい。それに実際、我が国の離婚率は〇・四パーセントを切っております」

「それはすごいな。我が国は確か一・五パーセントはいってたはずだ」

「まぁ、世界で見れば宗教観の違いもありそうですし、離婚が少ないからといって、皆が幸せな家庭を築いているとは限りませんけれど」

「確かにそうだね。各国の王族連中も世間体(せけんてい)を気にし、我慢している者がいるだろうからな」


 オリヴァー殿下と私は、高く積み上がる書類棚を見上げ真面目な会話を交わす。


「ところで、ここにある本は?」


 殿下は、書架から抜き取った本を私に見せた。


「主に国内外で発表された、ツガイシステムに関する論文ですね」

「そうか」


 オリヴァー殿下はパラリとページをめくる。


「ツガイシステムが示す未来……ふむ、実に面白い内容だね」


 どうやら気に入ったようだ。


「もしお時間がおありでしたら、ご覧になりますか?数日で返していただけるなら、貸出も可能ですけど」


 興味深げに読み進めている様子だった為、お(すす)めしてみる。


「いいのか?では、お言葉に甘えて何冊か貸出をお願いしよう」


 殿下は手に持っていた本をパタリと閉じた。


「君は、真摯(しんし)に職務に取り組んでいるのだな」


 突然、オリヴァー殿下が感心したような声を私にかける。


「それと、昨日はすまなかった」


 突然謝罪され、私は戸惑う。


「昨日のあれは、お互い様というか。そもそも私が先に突っかかってしまったわけですし、なんと言うかその、お気になさらないで下さい」


 私も素直に謝罪する。今思えば、あの時の私はまるで自分の仕事が馬鹿にされたように感じ、冷静さを欠いていたような気がする。


 世の中には様々な価値観がある事をすっかり忘れ、自分の考えが正しいと信じ、押し付けてしまったとも思えた。


「仕事内容の説明を受け、君がどれだけ国民の幸せを思い、働いているかを知った。確かに私は未だに、このシステムを手放しで()めるつもりはない。けれど昨日の私の言い方。あれは気分を害しても当然だと思う。すまなかった」


 オリヴァー殿下は真剣な表情のまま、頭を下げた。


「そんな。顔を上げて下さい」


 私は慌てて止めに入る。


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私も大人気(おとなげ)なかったですし」

「いや、それは仕方ないよ。私が悪かった」

「いいえ、私が悪かったのです」

「…………」

「…………」


 堂々巡りになった会話に私たちは同時に気付く。


「ぷっ」

「ぷっ」


 思わず二人同時に吹き出した。


「なんだか、二十歳を過ぎた大人がする会話じゃないな」

「ほんとですね。まるで小さい頃、弟と喧嘩をしている時みたいでした」

「君には弟がいるのか?」

「はい。今年で十六歳になるんです。今年騎士団に入団したんですけど」

「あ、あの生意気なやつかなぁ。君と同じ黄金色の髪色をした青年」

「多分それですね」


 オリヴァー殿下と私は、初めて普通に会話を交わすことに成功する。


「殿下、貸し出しを希望される本の題名を教えて頂けますか?」


 私がたずねると、オリヴァー殿下は本の表紙を私に見せてくれた。


「ええと、ツガイシステムによる、恋愛感情の喪失……な、なるほど」

「君の抱える問題だよ」


 オリヴァー殿下は爽やかな笑顔を私に向ける。


「ええと……」


(まさか自分が当てはまるだなんて、考えた事もなかったけど)


 私個人としては、恋愛感情を喪失していないと思っている。なぜなら恋愛小説を読んで、胸がキュンとする気持ちを感じるから。


 それに先程、私の代わりに頭を下げてくれた課長に対し、一瞬ではあったが「格好いい、頼もしい、好き」とそんな気持ちになった。


 ただ、国民全体で考えた時。私と同じようにリアルな恋愛感情は、ツガイシステムでマッチングした後に経験出来るものだと考えている人が多い事も確かだ。


 もちろんその考えは間違ってない。正しい道が示される未来が待っているのに、わざわざ寄り道をする必要はないからだ。


 そう思う私は帝国の、オリヴァー殿下から見たらおかしいのだろうか。


「その論文を読んだ感想。それを是非聞かせて下さいね」

「その時はお茶でも飲みながら、ゆっくりと」


 オリヴァー殿下は意味ありげな笑顔を私に向ける。


 思わずドキリとし、私は慌てて貸出カードに本の題名を(しる)す。


「そろそろ城下に移動しましょうか。えっと、希望の場所はありますか?」

「そうだな……」


 オリヴァー殿下は顎に手を当てて考え込む。


「この国の恋愛事情を調べたい。恋人同士が多い場所に行きたいな」

「……恋人同士が多い場所、ですか」


 意外な希望が飛び出し、正直私は困り果てる。なぜならツガイシステムに嫌われた私は、誰かと付き合った事がないからだ。


(うーん、よくわからないけど。多分あそこかな……)


 私は頭に思い浮かんだ場所へ、オリヴァー殿下を案内する事にしたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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