序章 その一 答
あの子が、まだ幼い頃の話だ。
「おじいちゃん……おれ……」
学校から帰ってきたあの子は、ボロボロと大粒の涙を零していた。
「……おれ、治してあげた、だけなのに……き、気持ち、悪いって……」
後から聞いた話だが、転んだ級友の怪我を治してあげたところ、気持ち悪がられて距離を置かれるようになったのだとか。俺が昔から怪我を治させていたから、それと同じように、当然のことと思って治してあげたのだろう。その出来事があってから、あの子は人付き合いが苦手になってしまった。
「……うぅ……」
ほら、今だってこんなにも──
「……死にたい」
死にたがっている。
「……死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
昔から、あの子は魔力が強かった。
「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
全く魔力を持たない親族たちの中で、唯一魔力を受け継いで生まれたあの子は、ずっと俺の面倒を見させられていた──あの子が心の傷を負ったのは、俺という面倒臭い存在のせいでもあって、それには少しだけ申し訳なく思ってしまった。
「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
……けれど。
「──駄目だよ」
だからこそ、俺が死なせはしない。
「君が死んだら、誰が“死に損ない”の怪我を治すのさ?」
昔々、あるところに、強力な魔力を持った“偉大なる魔術師”がいた。
彼女は様々な災厄をもたらす者として街を追放され、人里離れた山の奥でひっそりと暮らした──天涯孤独だった、一人の少年と共に。
「死ぬこともできない、治すこともできないこの俺を、君が世話しなきゃいけないの。ずっとそばにいてよ──」
時間を奪われ、治癒力まで失った少年は、“偉大なる魔術師”がいなくなった後も生き続けた。
「それが、俺に呪いをかけた祖母さんの忌まわしい力を受け継いだ君の役目だ」
唯一自身の傷を癒してくれる、魔力を持った子孫を頼りにして。
「……分かってる」
真慶はずっと俺と一緒だ、逃したりはしない。
「約束する、これからもずっとそばにいるよ──お祖父ちゃん」
彼は、俺が絶対に死なせない。