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まわるメリーゴーランド

作者: えたん

サラは友達ではない。私はその意をそれとなくサラが感じる様に努力してきた。だが、それは無駄だった。サラは「空気を読む」という行為がそもそも苦手ということを私は知った。それは私が馬鹿だったと思う。私はサラが好きになれない。なんとなく合わないとかではない。それとは何か違う。

「あやねー、お昼食べよ。」

サラがそう言う。

「いいけど。」

私は素っ気ない返事しかできない。私はサラと一緒に昼ご飯を食べる、ことになっている。

「ねぇ、数学の小テストどうだった?」

こういうところだ。

「普通だけど」

なんで返せば良いか分からない。なんでもない話が苦手だ。だから友達ができない。だから、サラと二人で昼を食べる。

「どうせ、満点でしょ。」

サラはちょっと恨めしそうに、

「普通が普通じゃないんだよ、あやねは。」

そう、私の取り柄は勉強くらいしかない。勉強だけは何もしなくても平均を下回ることはなかった。だけど私はそれよりも、普通のコミュニケーション能力が欲しかった。今もこうして話を繋げることができない。私が仮にもう一人いたとして、私はもう一人の私と友達になりたくはない。

サラが一人で笑い出した。

「見て、小テスト五点だった。笑える。」

私はどの感情ともとれない、またはどの感情ともとれる相槌を打った。それは演技ではなく、本心だった。どうでもいい感情が先に来て、サラのその発言に何の意味があるのか本当に理解できない感情が来て、自分でもよくわからない感情になった。サラといると自分がよく分からなくなるし、落ち着かない。サラが理解できない。苦しくなる。サラと話していると、感情が二人の間に行き来する感覚が全く感じられなかった。現実にいるのに、文字で会話してる感じがした。サラは大抵どうでもいいことを言う。それに私は適当に返事をする。

「ちょっとトイレ。」

私は席を立った。


一人になりたかった。私は個室の壁にもたれかかった。安堵が途端に肩に降りてきた。私はきっと一人で生きていくんだなとこういう時に感じる。誰かといると疲れる。結局、私は私でいっぱいいっぱいで、別にそれは悪いことではないし、一人の居心地はそんなに悪いと感じない。

誰かの足音が近づいてきた。耳が不愉快になる笑い声がする。

「マジでサラってやつうざいよね。」

その言葉を聞いた瞬間、私は胸をギュッとと掴まれた感じがした。

「それな。何か雰囲気がうざい女って感じ。」

「マジでそれなんだけど。」

私は身動き一つせず息を殺した。自分の動悸がうるさい。そして祈った。どうか私がサラと同類だと思われていないことを。

「だからあいつ友達いないんだよ。」

「え、何か一人いるじゃん。いつも一緒のあの。」

「あぁ。あの子。」

「まだ名前覚えてないけどあの暗そうな人。」

「あれって友達じゃないじゃん。抵抗しないから引っ付いてるだけでしょ。」

足音が遠ざかっていった。

結局、私は昼休みが終わるまでトイレから出なかった。


私は窓の外を見つめていた。サッカー部や野球部が活動している。それは私には全く関係のないものだった。私にとってその光景を見ることは映画を見ているのと同じだった。今日は教室に誰もいない。課題を学校で全て終わらせるのが私の日課だった。高校生になってもう二ヶ月になる。もう新しい生活に新鮮味は感じなくなっていた。

「何してるの。」

「うわっ」

サラが横にいた。私は飛び上がってサラから離れた。

「驚き過ぎじゃない?」

サラは笑みを浮かべた。全身の毛が逆立った。その笑みが不気味に見えて仕方がなかった。

「ごめん、もう帰らないと」

私はリュックを急いでまとめて帰ろうとした。得体の知れない恐怖で手が震えた。

その時、「ちょっと待って。」サラが私の手を掴んだ。私は咄嗟にその手を払った。しまったと思い、サラの顔を見ると、サラは、   

笑っていた。

「何?」

私は叫ぶ様に言った。教室に蛍光灯の音だけが響いていた。

「ほこり、ついてる。」

サラはずっと笑顔だった。

「あ、ありがとう。」

私は逃げるように学校を出た。



「きっと、きっと私はおかしいんだ。」

アリスはそう言った。私はアリスの隣にいた。頭がぼーっとする。ここは何だろう。

「誰もが私を人間じゃないっていうの。」

アリスはそう言った。意識がはっきりしてきた。そこは夜の遊園地だった。私は辺りを見回し立ち尽くした。観覧車、メリーゴーランド、誰も居ない。遊園地のイルミネーションが綺麗に光っている。混乱した。ここはどこだ?私は何でここにいるんだ?

「ねぇ、あやねも分かってくれるでしょ?」

アリスはそう言った。私はアリスをじっと見た。その少女は不思議の国のアリスに出てくるアリスそのものだった。わからない。何がなんなのか。何が起こったのか。

「ねぇ、観覧車に乗ろう。」


私とアリスは観覧車を3周は乗っている。アリスは飽きないで夜の街の明かりを窓に顔を押し付けるようにして見ている。私はその間に、情報を整理した。先ず、私の最後の記憶は学校から帰った後、いつも通り少し勉強をした、というところで終わっている。もしかしたら、そのまま寝たのかもしれない。いつ寝たのかが曖昧だ。次に、この遊園地には私とアリス以外の人はいないということ。何故か従業員もいない。もう少しで観覧車が終わるところでアリスは言った。

「次はメリーゴーランドに乗っても良い?」

私は「いいよ。」と言った。


私はベンチに座ってアリスがメリーゴーランドを楽しむのを見ている。そういえば、この遊園地から出るということを私はなんで思わなかったのだろう。不思議とこの遊園地やアリスに恐怖は感じなかった。むしろ落ち着いていた。だが、私は帰らなければならない。親はどうしているのだろう。私を探しているだろうか。警察に連絡されたら迷惑をかけるだろう。私はメリーゴーランドに背を向け、遊園地を出ようとした。

観覧車を通り過ぎて、ジェットコースターを通り過ぎ、コーヒーカップを通り過ぎた。遊具のキラキラした明かりが遠ざかり、街の明かりが遠くに見えた。私は駆け足でその明かりを目指した。着いたのはメリーゴーランドだった。アリスが白馬に跨っている。目の前が歪んで、訳が分からなくなった。どうしてもとの場所に戻ったのか。私は確実にメリーゴーランドから離れるようにして歩いた。アリスは笑い声を上げてメリーゴーランドを楽しんでいる。その笑い声に聞き覚えがある気がした。恐怖が迫り上がってきた。早くここから逃げなければ。私はさっきとは違う道を走った。煌びやかな明かりが遠ざかり、確かに街のビルが見える。それを目指して必死に走った。背中に何かが張り付いたようだった。それを取り除きたくて走った。

明かりが見えた。

メリーゴーランドの目の前にアリスがいた。

息が切れて、苦しくて、私はアリスの目の前の地面に座り込んだ。その時、ある考えが浮かんだ。

「ねぇ、アリス。どうやったらここから出られる?」

アリスなら何か知っていると思った。アリスは私に背を向け、言った。

「どうして私を避けるの?」

アリスの声が変わった。感情のない低い声が私の腹に響いた。私は聞き違いだと自分自身に言い聞かせた。これは何かの悪い夢できっと覚める。そうだ、こんなファンタジーや冒険は私の人生にないはずだ。

「これは夢ではないよ。少なくともあやねの夢では。」

今度はしっかり聞こえた。もう向き合うしかない。アリスの声は。私は顔を上げてアリスを見ることができなかった。その顔はもうアリスではないかもしれない。

「ねぇ、なんでなの。」

怖い。

「ねぇ、私何かした?」

怖い。

アリスの声は怪物のような醜い声になった。

私は蹲って耳を塞いだ。早く夢が覚めるのを祈った。醜い叫びがどんどん大きくなった。必死に、必死に私は耐えた。耳を強く抑えて全部忘れようとした。全部、全部。全部、、、、、

少し経って、声が段々小さくなった。弱々しく、怪物から少女のように。まるで嵐が通り過ぎるように。その声は震えてーーー泣いていた。

私はアリス、いやサラを見た。サラは泣いていた。それはただの弱い少女だった。怪物などではなく、ただの脆い少女だった。怪物を作っていたのは私自身だった。私の人間を恐れる気持ちがサラを怪物にしたんだ。涙が頬を伝った。ごめんなさい、私はサラを見ていなかった。知ろうとしなくてごめんなさい。避けて、ごめんなさい。

声が、感情が、嗚咽が込み上げてきた。

サラは泣き崩れた。子供のように膝から崩れてわんわん泣いた。私も泣いた。私とサラは抱き合った。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、サラ、ごめんなさい。私が間違ってた。私が人を分かろうとしなかったのが。私、ごめんなさい。」


観覧車の中心から、ひとつの光が放たれて、全ては光に包まれた。



「あやね、ご飯食べよ。」

サラがそう言った。

「良いよ。ちょっと自販機いこ。」

「分かった。」

「あやね最近明るくなったよね。何かあったの?」

「え、あぁ、ちょっとね。」

「なに?彼氏ですか?」

「ちょっと、そんなんじゃないよ。」

「あやしいなー。」

「えっと、サラ、覚えてないの?」

「ん、何のこと?」

「なんでもない。」

「え、なんなのよ。ねぇ、おしえてー。」

「マジでなんもないよ。ただ、私はサラに感謝してるよ。」

「今度は何?おかしいよ。笑える。」

私は廊下を振り返った。そこにはアリスが立っていた。私はアリスに言った。

「ありがとね。」


ありがとうございます。深夜に書きました。

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