第六話 陛下の頼み
陛下からお茶会のお誘いが来た。
質の良い封筒に国王の紋章…
厄介ごとの予感しかない。
スタンリーは頭を抱えたのである。
登城しなければならない日がきてしまった。朝からバタバタ忙しく、小雨交じりの空模様は少し灰色かかっている。
扉をノックし、執事長のセドリックが入ってくる。
「馬車の用意が整いました」
私たちは席を立ち玄関ホールに向かう。エントランスで身だしなみを整え馬車に乗った。
王城に到着し門番の騎士にコールマン大公の紋章を見せ王城に入る。馬車から降りて歩いていると、クリスチャン殿下とカールトン殿下が出迎えに来ていた。二人について行くと応接室に案内された。
(お茶会じゃなかったのね)
陛下と王妃は席について待っていた。クリスチャン殿下とカールトン殿下はさっさと座り、促されるようにスタンリー、フローレス、オーウェン、クリスタルも坐った。
陛下がスタンリー見つめ、
「スタンリー、久しいなぁ」
「お披露目パーティーで会ったばかりですよ」
「そう言うな、弟の家族とお茶をしてみたいと思うてな」
「それだけではなさそうですね」
陛下は悪戯っぽく笑いながら、
「タルニア領のことは知っているか?」
「タルニア領のサウル伯爵が爵位を剥奪されたようですね。タルニア領は海があり賑わっていたはずですが、きな臭い噂はありましたよ」
「そうだな、精神操作薬の売買の証拠が中々見つからなくて難航していたのも確かだ。今回、薬を購入し解析して分かった事だが、他人を意のままに動かせる薬を売っていた。よって爵位剥奪に至った」
「なるほど」
「スタンリー、タルニア領はいらんか?
タルニア領を誰に任せるか考えたのだが、精神操作薬の存在があるからのう…そちなら状態異常耐性があるだろう」
「状態異常耐性ありますよ」
「屋敷から精神操作薬は出たが薬の売上は全く出なかった。今、それらも捜査中だ。精神操作薬が領地でどこまで蔓延しているのかも定かではない。元タルニア領もだが、バーンスタイン領でも精神操作薬が見つかった。意味することは誰かがミスティーナ国民を意のままに動かし王国を乗っ取るつもりではないかと議題に上がっておる」
「全土に広がる可能性があると……」
「そうだ」
「スタンリー調べてくれぬか?」
スタンリーは余計な話を持ってきたものだと思っていたが、陛下の頼みを断れる訳も無く、少し考える振りをしていた。
「タルニア領は良い所だぞ。余も別荘が欲しい! スタンリー、報告が上がっているぞ。城を二つも持っているそうだな、王城に見劣りしない城を!」
スタンリーは観念した様子で、肩をすくめため息交じりに苦笑いをした。
少し間を空け……
「分かりました。タルニア領拝領いたします。お城はクリスタルにお願いして下さい。クリスタルしか創れませんから…其のことも知っていたのですね」
また悪戯っぽく笑い、
「うむ、あいわかった。タルニア領地はスタンリーに任せるとして、クリスタルお願いできるかな?」
「失礼ながら陛下、学院生活が始まりますので長期のお休みの時で構いませんか?」
クリスタルの通っているアラバスター学院は、1月21日~6月20日一学期、6月21日~7月20日長期休暇、7月16日学期末試験に一日登校、7月21日~12月20日二学期、12月21日~1月20日長期休暇、1月16日学期末試験に一日登校、で授業構成をしている。
「うむ、よかろう。費用は宰相に! タルニア領が安定したら褒美も用意しよう。それでよいか?」
「はい、ありがとうございます」
クリスチャン殿下とカールトン殿下、オーウェンとクリスタルは応接室を出て食事に向かった。
スタンリーが陛下に、
「陛下タルニア領を拝領するにあたって、大公騎士の募集を始めたいのですが構いませんか?」
「必要だな」
「どこまで蔓延しているかわからない状態で行くのです。慎重に選びたいと思います」
「うむ、他国でも精神操作薬が使われていたようだ」
「どこまで広がっているのですか?」
「隣国の国王は禁忌薬を飲まされて傀儡となっていたそうだ」
「そこまで・・・心してタルニア領に向かいます。......でしたら大々的に王城で募集をして試験を行います」
「構わんぞ」
「国王に何かあった場合ロイヤル近衛騎士・第一近衛騎士団・第二近衛騎士・大公騎士団、この順序で動くことになっています。そのことについての説明も兼ねて王城がいいでしょう」
「そうだな。まずは募集を始めようか。昼食が終わったら執務室で話そうか?」
「はい」
その後、昼食を食べながら別荘の要望を聞き、コールマン城やクリスタル城の話で盛り上がった。
話の流れがタルニア領になった頃、
「今タルニア領では精神操作薬で操られている者は把握できていないのですか?」
オーウェンは疑問に思い声に出た。
「全体として把握できていない。その薬は一回飲むだけなら何日かすると効果がなくなると報告はあった。だが、長期使い続けると廃人になるそうだ。一回目で精神操作薬を切ると問題ないはずだが」
「そうですか。精神操作薬はどこで作っているのですか? もし、まだ、作っているとしたら? ……知らない間に飲ませられる可能性もありますよね。……それに、二回飲んだらどうなるのかも、検証材料がなく心配です」
「学院で使われると厄介だな」
クリスチャン殿下はひどく神妙な顔でカールトン殿下を見ながら表情を引き締めた。クリスタルはクリスチャン殿下が、カールトン殿下をとても心配している様子が窺えた。
「そうだな………作っている場所の特定も出来ていない状態だ」
陛下も憂わし気な表情で、クリスチャン殿下とカールトン殿下を見ている。
クリスタルは皆の表情を見て、心を痛めた。
「そのような精神操作薬があるのなら、陛下! お願いがあります。
もし、学院に精神操作薬が蔓延したら、学業どころではなくなるでしょう。好き勝手に学院生活を始め、争いごとも増え、学院崩壊に陥るかもしれません。実は、クリスタル城には監視カメラを設置しています。監視カメラは対象の行動を撮影できる魔道具です。アラバスター学院に監視カメラを設置できませんか?
お父様とお兄様と私は紋章に監視カメラを取り付けてあります。学院内に監視カメラを設置していても、どうしても死角ができてしまうと思うのです。そういう場合を想定してクリスチャン殿下とカールトン殿下にも、ぜひ、付けて頂ければ安心できます」
「考えておこう。クリスタル城に視察に行き、その結果で結論を出そう。よいか?」
「はい! お待ちしています」
「スタンリー執務室に行くぞ」
「ああ、フローレスは王妃とお茶会するのか?」
「はい、王妃様とご一緒しようと思います」
「そうしなさい。オーウェンとクリスタルは学ぶために父に着いてくるか?」
「陛下がよろしければ」
と、オーウェンは答えた。
「私も良ければ父上とご一緒したいです」
クリスタルはそう答えた。
「では、行くとしよう」
………………………
執務室に入ると宰相が待っていた。
「大公騎士の募集ですね」
「それと、執事・メイド・料理人・御者・庭師も募集して欲しい」
「それぞれ試験を行いますか?」
「もちろんだよ。大公家の従事者だ。王子達は休みになると大公家に入り浸っているからね。王子達の護衛も兼ねている。平民でも身元がしっかりしていて志は高く思いやりのある者を探しています」
「思いやりですか?」
「ただ強いだけで思いやりの欠片も無い者は採用不可。試験の時はロイヤル騎士団長ジャクソンと副団長トンプソン、第一近衛騎士団長クリフォードと副団長ルーカス、第二騎士団長オリバーと副団長ノア、大公騎士団長アダムと副団長エイドリアンとオーウェンとクリスタルと我で審査する」
「騎士以外もその仕事の長に審査をしてもらう。陛下とクリスチャンとカールトンと我の執事長・メイド長・料理長・御者長・庭師長に参加願います。陛下よろしいですか?」
「構わぬ。余もコールマン城とクリスタル城にはこれから訪ねることも多くなるだろう。クリスチャンとカールトンはクリスタル城で訓練すると決まっておる。優秀な人材を集めよう。宰相もそのように」
「陛下書類審査から参加させてもらえませんか?」
「よかろう。………スタンリー、タルニア領に使者を送って「この領地はコールマン大公が治めることになった」と手筈を整える。明日には到着する予定だ」
「陛下、今回のメンバーですが、本当にクリスチャンとカールトンを連れて行くのですか?」
「余もどちらか一人にしようと思ったが、二人とも行くと聞かず。経験を積むのも良いと判断した。それと、第一近衛騎士団の務めが終わったら向かわせよう」