第四十三話 サロスの死刑執行
二階席に動きがあり、陛下と王族が入ってきた。
陛下は群衆に手を上げ、挨拶すると席に着いた。
法理大臣が、
「罪人サロスをここへ!」
衛兵が、エマの時と同じように、一連の作業を始めた。
サロスは抵抗もせず処刑台に固定された。
法理大臣は、
「平民サロスの罪状と罪名を申す!
アタニル商会は商会設立証と営業許可証を申請せず王都で営業していた罪、登録詐欺罪。 支配薬などの禁忌薬を多数アタニル商会で売っていた罪、犯罪収益罪。 禁忌薬をつくっている者に収益を与えた罪、資金提供罪。 支配薬に後遺症があることを知りながら販売した罪、前提目的罪。 仕入れた支配薬の売上をごまかし、帳簿を書き換え操作していた罪、私文書偽造罪。 詐欺罪。 税金横領罪。 アラバスター学院に学生を使って支配薬を蔓延させた罪、教唆内乱罪。 支配薬の後遺症で苦しんでいる患者の治療費、患者たちが起こした損害、損害賠償罪。 禁忌薬の売上は、犯罪収益没収罪。ミスティーナ国第一王子に禁忌薬を飲ませようとした罪、殺人未遂罪。罪状はこれにて終わり、罪名は死刑三回を言い渡す!!
払えなかった損害賠償罪と税金横領罪と犯罪収益没収罪の賠償金は息子カーターが支払うものとする」
長い罪状と罪名が読み上げられ、群衆の声が暴風雨のように会場に渦巻いた。執行刑場に響き渡り振動させた。怒りの激しい波のようだ。
群衆は、
「我が国の第一王子に手を出すとは!」
「人の風上にも置けないやつ」
「下衆の極みですな」
「クズヤロ――!」
皆、口々に好き放題野次を飛ばす。
様々な声が響き、遠く近くで交差して、騒ぐ声が嵐のように聞こえた。
まるで、戦争が今から始まると思うほどに、群衆は騒音を捲いた。
サロスは何を考えうつ伏せに横たわっているのか死のような静寂を纏っていた。
法理大臣が、
「静粛に!」
法理大臣の声は、一筋の風のように耳に入り込んだ。
ぎこちない静けさが暫く続いた。唾を飲み込んだ音さえ聞こえそうだ。
執行刑場の外から騎士団が訓練している様子が、風に乗って伝わってくる。
法理大臣が周りを見渡し、
「死刑執行人はじめよ!」
「ハッ!」
死刑執行人はギロチンのレバーを握り、法理大臣の支持を待つ。
法理大臣はサロスに、
「最後に何か言うことはあるか?」
「私が、ここにいる意味が解らないのです。なぜなのですか?」
「罪を犯したからだ」
「罪ですか…………………………?」
サロスは長い沈黙の後、首を傾け遠く見つめている。
法理大臣は、
「サロス、もうよいか?」
「あっ、はい」
法理大臣は死刑執行人に合図を送り、
「死刑執行!!」
と、その声は壁を打つような、響き帯びると全身に入り込んだ。
死刑執行人がレバーを引き、ギロチンの刃がサロスの首に落ちると、サロスの首は群衆の近くまで飛んで行き、転がった。
「「「「「「「「「「「ウオォ――――――!!!!!」」」」」」」」」」
何時までも、その音は鳴りやまなかった。
死刑執行が終わり、陛下はその日のうちに、ゴイル国王に〚エマとサロスの死刑を執行した〛と、書簡を出した。
エマとサロスの遺体は、引き取り手がいないため、執行刑場に置かれたままだった。
その遺体の横に立てた看板には、禁忌薬の恐ろしさについて書いたものが貼られていた。〚アタニル商会で売っていた回復ポーション、魔力ポーション、体力ポーションなど、すべてのポーション類に、支配薬が入っているので捨ててください!
また、コールマンパラダイス領にコールランド島がある。コールランド島にコールランド病院を、コールマン大公が創りました。後遺症があるものは、コールランド病院で診察してもらいなさい。コールランド病院は、支配薬の後遺症に苦しんでいる者しか受け付けない。禁忌薬を飲んだ者の症状についての詳細は掲示板に貼ってあります。現在、通常の診療は領民だけです。通常診療の者は自領で診察するように!〛
と、警告文を載せた。
クリスチャンはサロスの息子カーターを指名手配しカーターの行方を探すとともに、バーンスタイン領のゲルマン伯爵にも伝令を出してカーターの確保を要請した。
翌日、コールマン城にカールトンが転移してやってきた。
緊急伝令が届いたということで、スタンリーとオーウェンは急いで、王城に転移した。
スタンリーたちは、陛下の執務室に向かい、何事かと思案していた。
執務室に入ると、陛下が立ち上がり、
「〚明朝、ギロリー王子の死刑を執行する〛とフリットウィック国の近衛騎士から緊急伝令届いた。
と、陛下が伝えると、スタンリーは、
「やはり死刑ですか。死刑でなければ戦争になっていたかもしれません」
「ゴイル国王の返答次第では戦争だったろう」
「戦争は免れましたが、ゴイル国王は本当にギロリー王子を死刑にできるでしょうか?」
「余も死刑に出来るのかと思うてな。身代わりが処刑されるのではないかと、疑ってしまうのだ」
「あり得ますね」
「明朝となると、確認することも出来ん」
「クリスタルの転移で、フリットウィック国まで行きますか?」
「うむ、行くか?」
「行きますか?
「人選は、どうする?」
「我とクリスタルとオーウェンとカールトンでいかかですか? カールトンとクリスタルは鑑定ができます!」
「うむ、今回もお願いするか」
「王命の証を準備して頂ければ助かります」
「相分かった。スタンリーよ、オーウェンとクリスタルを借りるが済まない!」
「兄上、頭をお上げください。我もオーウェンもクリスタルも、叔父上の力になりたいのです。喜んで行きますよ!」
その頃バーンスタイン領は大騒ぎになっていた。
執事長を呼び出し、
「王国から伝令が届いた。半年前に岩山を購入したカーターという者を捕らえよとの事、執事長! 騎士と連携して、すぐにでも捕えてくるのじゃ」
「ハッ」
と、ゲルマン伯爵は命令を出した。
スタンリーはコールマン城に戻り、クリスタルを迎えにきた。
「クリスタル王城に来てくれないか?」
「いいですよ。また、厄介ごとですか?」
「そうともいえるが、陛下の頼みだ!」
「叔父上の? 行かない訳にはいきませんね」
「オォ―、そうだな!」
「はい!」
応接室に転移して、話し合いが持たれた。
スタンリーから、
「サロスの裁判が終わった後、魔法攻撃があった。その者はギロリー王子に命令されて攻撃したそうだ。どうも死刑になるのはギロリー王子の身代わりではないかと思っている」
「なるほど身代わりですか? あり得ますね」とクリスタルも思った。
「だろう。もしかして…………ギロリー王子は変身魔法を習得している?」
オーウェンには確信はないが、今までの事を考えて。
スタンリーも、
「あぁ、そういう事か。人相書きの件は!」
オーウェンも、
「厄介な人ですね。ギロリー王子は…」
クリスタルは、
「DNA鑑定ですね!」
「「DNA!?」」
スタンリーが、
「前世の言葉か?」
「はい、個人的特徴を個人識別します。誰一人と同じ個人識別を持っている者はいません」
「同じDNAはないと!?」
「はい」
「クリスタルの前世は、そこまで科学が発展しているのか?」
「お父様、前世には魔法を扱える者が誰一人いませんでした。その為、生活基準を上げるには科学の発展が必要だったのです」
「魔法の代わりとなる科学が発展したのか! 我々も魔法がなければ科学の発展はあったということかもしれないな」
「はい、そうです」




