第四十一話 海竜とプール
あれから数日立ち長期休暇も終わりを迎えていた。
私たちはA級ダンジョンも攻略してコールマン領ではS級ダンジョンを残すのみとなっていた。A級ダンジョンでスタンリーと契約したホワイトタイガーキングをコールマン城に連れて帰った。ベランダに立ち下を見ると、ホワイトタイガーキングのクレオがスタンリーとじゃれていた。
ベランダから、
「お父様、クレオおはよう!」
「クリスタルもおいでー」
クリスタルは飛行で下に降りた。
「お父様、クレオはどうですか?」
「とても可愛いよ! 行儀もいい!」
「よかったー、コールマン城のアイドルですね!」
「アイドルとは?」
「熱狂的な愛好者を持つ者かな…クレオをとても可愛がってくれる人が沢山いること」
「そうか、クレオはアイドルかぁ。クリスタル、この国に無い言葉を偶に使うが洗礼の転生者と関係あるのか?」
「はい、前世の記憶です。私に親がいたと思うのですが、なぜか…いつも一人で生活していました。親の顔も自分の顔も思い出せませんが、前世の教育的、日常的、人類的、社会的、古典的文化は頭の中に残っています。このお城やホワイトダリアの商品、王都の貴族用お酒、高級本、高級ボードゲーム、王都の平民用のボードゲーム、小説、コールマン領の日用品、学院用品、今、海の家ではラーメンが爆発的に売れています。それらの商品は前世の記憶が元になっています」
「そうか、見たことのない商品が沢山あって驚いたものだ。前世の記憶か! また聞かせてくれ! クリスタルの前世の文化を!」
「はい、喜んで!」
前世とは………創造神は知っていた。クリスタルは誘拐された子供だった。
誘拐犯は小悪党で本来なら誘拐を仕出かす様な度胸はなかった。偶然が偶然を呼び身代金を受け取ることができた。その後、誘拐犯はクリスタルをどうしたものかと悩んだ。狭い倉庫のような部屋に入れ、小心者の犯人は、近所の目が怖くて学校には行かせていた。学校以外は働かされ、毎日くたくたになって死んだように眠った。誘拐されてから転生するまで続けさせられていた。大学に行かせたのはクリスタルを高く買ってもらうため、大学を卒業したら、売り先も決まっていた。その事を知った創造神が卒業前にダリア球に連れてきたのだ。創造神はクリスタルの嫌な記憶だけ取り去りダリア球に連れて来た。
「どうした? クリスタル?」
心配そうにスタンリーが声をかけた。
クリスタルはなぜか突然不安を感じ、クレオに寄りかかり顔をうずめた。
クリスタルは気持ちを切り替える様に、
「お父様、朝食、食べましょう!」
「そうだな、クレオはどうする?」
クレオはここに残って日向ぼっこをすると言う様に寝ころんだ。
「ハッ、ハッ、わかったよ。クレオ」
クリスタルとスタンリーは庭を後にした。
カールトンがプレゼントを持って訪ねてきた。
「クリスタル、プレゼント持ってきたよ!」
「まぁ、何かしら?」
クリスタルは嬉しそうな顔をして、カールトンの持って要るものを見た。
「はい、開けてみて!」
可愛く包装されたリボンをほどいて中を見た。
「わぁー、アンティークハミルトンの苗! ありがとう。カル!」
「うん! クリスタル欲しがっていたよね?」
「はい! クリスタル城に行って苗を植えましょう! カル」
転移魔法『転移』クリスタル城に転移した。
ホワイトダリアが見事に咲き誇っているクリスタル城に、アンティークハミルトンが混ざり合う。白とオレンジブラウンをバランスよく植え、
付与魔法『成長』を付与すると無垢だった庭に色が入り、全く別物の庭園が完成した。
「カルと一緒にいるみたいだね」
「そうだね、クリスタルと僕」
「早くここに住みたい。「成人するまで駄目だ」とお父様に言われたの」
「卒業までお預けかぁ」
「卒業したら、カルも一緒に住めたらいいね」
「婚約したら一緒に住めるけど…」
「婚約かぁー、もうそろそろお兄様とクリスチャン殿下は話が出てくるでしょうね」
「クリスタル、好きな人いるの?」
「いないけど…どうして?」
「僕と婚約しない?」
「カルと?」
「知らない人と婚約するより良くない?」
「それもそうねぇ……でも、二人で決められないでしょう?」
「クリスタルが良ければ……僕が進めるけどいいかな?」
「うーん、もう少し考えて見ない? カルに好きな子できるかもよ」
「僕はクリスタルがいい!」
「そっ、そうなの? じゃ、お父様に相談しましょう?」
「そうだね! 叔父上に相談しよう!」
「今日も、夕食食べて帰るでしょ?」
「そうする!」
夕食の席ではサロスの裁判の話がでた。
オーウェンはサロスの裁判の内容を聞き、
「ゴイル国王からは、返答ありましたか?」
「まだ何も、一度書簡が届き〚こちらでも調べてみる〛と、返答はあったようだ。その後、サロスの裁判の報告書をゴイル国王に送ったが、返答待ちだな」
クリスタルはゴイル国王が気の毒でならない。
「ゴイル国王は複雑な気持ちですよね、最愛の息子を…」
オーウェンも上に立つ者の決断の難しさを改めて考えながら、
「上に立つ者は、責任を取らなくてはならない。難しい事だが…」
スタンリーもゴイル国王の立場になって考えても、
「ギロリー王子はやり過ぎた。息子だからと庇い建てしても良いことはないだろう。ミスティーナ国第一王子に支配薬を飲ませるよう、そそのかしたことは明白だ。また、ミスティーナ国民も支配薬漬けにして、支配しようとしたこと、殺した死体と一緒に暮らして放置していた事から、ゴイル国王は決断すべきだ」
何とも複雑な気持ちのまま…
早く、解決するよう祈るばかりだ。
次の日…外は曇り空だった。大きな雲は小さな雲を取り込みながら移動していた。その雲は雨を撒き散らしながら、あっという間に流れ去った。雨雲は流れ去ったのに、晴れた青空から雨が降っていた。
朝食を食べているとスタンリーから、
「裁判室の大扉の両側に刑法板があり、エマとサロスの刑の執行日時が張り出される」
オーウェンは、
「そうですか? その日は僕たちも参加するのですか?」
「いや、成人していないと参加できない。昔は、罪人の子供と被害者の子供だけ参加させていたが、子供の脳に記憶される事柄が偏って記憶されていた。まだ、検討中だが......以前より復讐戦が減ったのは確かだ。わざわざ子供に、残酷な処刑を見せる必要はないと思っている」
「そうですね。近々執行ですか?」
「学院が始まる前に終わるだろう。今回の裁判は、ミスティーナ国第一王子を喪いかねなかった。王国としての意思表示を、ハッキリさせるためにも、素早く執行だな」
オーウェンとクリスタルは、食事を終えクリスタル城に転移した。
セシルとシアンを泳がせるためだ。三階の多目的ホールに大規模なプールを創っていた。将来、クリスタル城に暮らす人たちが入れる規模のプールを創っていたのが良かった。シアンとセシルにとったら、少し広いお風呂に入っている感じかな?
(偶に水浴びをしないと機嫌が? 体調が悪くなる? ほんとプール創っていてよかったぁ―! 海に連れて行きたいけど、突然、空飛ぶ海竜が現れると大騒ぎになるし…あっ、認識阻害で行けばいいか)
「シアン、セシル本来の姿になる?」
「うん!」「はい!」
「何か必要なものある? 私は、お兄様と剣術訓練場に行くから」
「セシル、何かいる? 僕はお腹すいたら剣術訓練場に行くよ」
「私も、そうします」
「わかった。シアンはちゃんと体を拭くか魔法で乾かすのよ!」
「わかっている。クリスタル」
「じゃ後で一緒にお昼食べましょう!」
シアンとセシルは、楽しそうに竜とエイスパインの姿になってプールにぷかぷかと浮かんで寛いでいるようだ。その後、人の姿になって泳ぎ、竜とエイスパインになって泳いだりして楽しんでいる。仲の良い兄弟のようにじゃれ合い、はしゃいでいた。
「今度、海に連れて行ってあげたいですね」
「そうだな、学院が始まっても週末に連れて行くことはできるだろう」
「コールマン大公家が契約している竜とエイスパインと、少数の方々は知っていますが、さすがに知らない人が見ると驚きます」
「ん、だが、シアンは今まで誰にも正体がばれたこともなく、元タルニア領地を歩いていたろう? 大丈夫だよ。僕らが思っているよりもシアンとセシルは賢く、考えてくれているよ」




