第四十話 サロスの裁判
サロスの裁判日の朝、外を見ると霧が漂って幻想的な世界が広がっていた。
朝食を終え中級ダンジョンに向かう頃には、太陽の光がすべての色を取り戻し普段の顔を見せていた。
街並みに入ると、サロスの裁判を傍聴しようと王城に向かう人たちでひしめき合っていた。開廷は午後からなのに朝からこの騒ぎである。裁判室の前は、人だかりで収拾がつかなくなってしまい、第一近衛騎士団が出てきて整理券を配ることになった。そして、整理券がない者は王城から追い出された。そんなことをしている間に、時間は刻々と過ぎ開廷の時間が迫っていた。裁判室内は、裁判を待つ人たちで埋め尽くされていた。
サロスの裁判が始まる。
陛下と宰相、法理大臣が入廷してきた。
傍聴者は、立ち上がり、陛下に視線を向ける。
陛下が一言、
「着座!」
続けて、
「平民サロスをここへ!」
サロスが衛兵に連れられ入廷してくる。暴れることもなく、嫌がることもなく、静かに中央の罪人台に立つ。
法廷室の二階は、陛下を中心に、右側の法壇机に法理大臣と記録係、その横に国王を守るロイヤル近衛騎士団、左側の法壇机に宰相と記録係、その横にロイヤル近衛騎士団が坐っている。その後ろに王族が坐っている。傍聴席は、闘技場のように二階の法廷室を中心に、鉄槌のようにぐるりと傍聴席がある。
陛下が、
「平民サロスの裁判を始める!」
法理大臣が立ち上がり、罪状を読み上げる。
「平民サロスは元タルニア領を治めていたサウル・ジュ・タルニア伯爵だった人物である。禁忌薬を売却した罪で爵位を剥奪され、タルニア領を出てバーンスタイン領でアタニル商会を始め、サウルからサロスに名前を変え王都に店舗を出した。
間違いなないか?」
サロスは、俯いていた顔を上げ、
「間違いありません」
「サロスよ、アタニル商会の商会設立証と営業許可証はあるのか?」
「ありません。申請しませんでした」
「登録詐欺罪になるな!」
「はい」
「爵位を剥奪されても、支配薬などの禁忌薬を多数アタニル商会で売っていたな!」
「はい、エイブラハムから仕入れて売っていました」
「その収益はどうした?」
「馬車に売上を置いておくと、誰かが金を持って去るのです」
「それは誰から言われたのだ」
「エイブラハムです」
「その金は何処にある?」
「知りません」
「エイブラハムは知っているのだな!」
「はい」
「禁忌薬をつくっている者に収益を与えるなど以ての外だ。資金提供罪に当たる
さらに、禁忌薬で収益を得た罪、犯罪収益罪。
支配薬に後遺症を齎すことを知りながら販売した罪、前提目的罪。
仕入れた支配薬の売上を馬車に詰め込んでごまかし、帳簿では売れ残っているように書き換え、帳簿を操作していた罪、私文書偽造罪。詐欺罪。税金横領罪になる。……何か言うことはあるか?」
「ありません」
傍聴席から、
「私、あの店で買い物したことあるわ」
「俺もポーション買ったよ」
「薬以外の商品も、良いものあったよな」
「なんで、禁忌薬なんか売ったのだ!」
「普通に商売しても、儲かっていたよなぁ」
「何考えてんだ」
「おい! ポーション大丈夫かよ」
と、アタニル商会を利用していた人々の声が聞こえた。アラバスター学院学院長も、アタニル商会の品質を褒めていた。いい商品が沢山あったようだ。禁忌薬に手を出さずとも成功していたはずだ。利用客からは残念がる声が多く聞こえた。
法理大臣は、この場を抑えようと、
「静粛に!」
「……………」
静かになり、法理大臣が話し始めた。
「聞こう、ギロリー王子を知っているか?」
「知りません。」
「サロス、ステラという子は知っているか?」
「はい、学院に入学できるように手助けしました」
「ほう、手助けと………では、毎日支配薬を入れたお茶を持たせて学院に通わせたのはなぜだ!」
「エイブラハムに頼まれました」
「何と、頼まれたのだ」
「「ステラは器量がいい! 王子と結婚できるかもしれない。お近づきの道具としてお茶をご馳走させなさい。これを使うといい。特上のお茶だ! 手駒を増やすためにも、学生に飲ませるともっといいぞ」と、渡されました」
「それを信じたのか? ステラは平民だ、結婚できる訳がない」
「はい、私もそう思いましたが、エイブラハムから「養子縁組をすれば身分など関係ないだろ。心配しないで王子と仲良くなっていればいい」と言われ、そうなのかと思いお茶を持たせていました」
「養子縁組をしても婚姻に至ることはない」
「はい」
「アラバスター学院にステラという学生を使って、支配薬を蔓延させた罪、教唆内乱罪。ステラも支配薬の後遺症で隔離入院している。ステラ以外にも支配薬の後遺症で苦しんでいる患者の治療費。そして、その患者たちが起こした損害それらの罪は損害賠償罪。……サロスよ、罪を重ね過ぎたな」
「はい、申し訳ありません」
「罪を認めるな!」
「あの、エイブラハムに頼まれただけで、罪になるのでしょうか?」
「当たり前だ! お前がやった罪であろう!」
「はぁ、はい認めます」
陛下が判決を言い渡す、
「今までの話を聞いた通り、サロスは罪を犯し過ぎた。判決を言い渡す!
登録詐欺罪、資金提供罪、犯罪収益罪、損害賠償罪、前提目的罪、私文書偽造罪、詐欺罪、税金横領罪、教唆内乱罪、犯罪収益没収罪、殺人未遂罪、よって、死刑三回を言い渡す!
……損害賠償罪と税金横領罪と犯罪収益没収罪は家族に支払い義務を課す。サロスの家族は息子カーターしかいない。よって、損害賠償罪と税金横領罪と犯罪収益没収罪の賠償金はカーターが支払うものとする」
法理大臣は続けて、
「この裁判で禁忌薬の恐ろしさについて話したが、回復ポーション、魔力ポーション、体力ポーションなど、アタニル商会で売っていたポーション類すべてに、支配薬が入っていたことを伝えておく。
また、禁忌薬の後遺症について話したが、コールマンパラダイス領にコールランド島がある。そこにコールランド病院を、コールマン大公が創ってくださった。後遺症があるものはコールランド病院で診察してもらいなさい。
コールランド病院は支配薬の後遺症に苦しんでいる者しか受け付けない。現在、通常の診療は領民だけになっているので、その点だけ注意してコールランド病院に行ってください。今話したことは掲示板にも張っていますからよく見て行動してください」
法理大臣の説明が終わると陛下が立ち上がり、
「これにて、サロスの裁判は閉廷とする!」
陛下が立ち去ろうとした時、魔法攻撃がバリアに当たった。幸い一人も怪我人はいなかったため、大きな騒ぎにならずに済んだ。その場で攻撃者は取り押さえられた。
法理大臣が出てきて、
「明日はギロリー王子の裁判をする! 罪人なしの裁判になる故、非公開とする!」
ギロリー王子の裁判? …………それ以上の攻撃もなく、第一近衛騎士団の誘導で、それぞれ帰路に着いた。
その頃、クルスタルたちは中級ダンジョンのホワイトベアと対戦していた。見た目の通りホワイトベアは大きくて強い。今回は剣で戦いながら魔法も使う、器用さと柔軟性を活かしながら戦う。
こちらに近づいて来ているホワイトベアは「クマックマックマッ、クマックマックマッ」と鳴きながら近づいてきた。先ずオーウェンが一太刀入れ、ホワイトベアのお腹に一撃与えた。ホワイトベアは、「グォー、ブオー、グォ――、」と、雄叫びを上げながら右腕を大きく振り上げ、オーウェンを狙っている。
「お兄様、危ない! カルお願い!」
クリスタルはオーウェンにバリアを張ろうと……間に合いそうにない!
一か八か………間に合うか………オーウェンにバリアを張った!!
カールトンは横からオーウェンを救うため、水魔法を剣に込め魔力を流し離れているホワイトベアに一撃を放った。水魔法剣が線上に広がり、魔法と剣技と組み合わせた衝撃で、ホワイトベアの胴体は真っ二つに割れた。
カールトンは、ほっ、としたのか、
「巧くいった!」
と肩の荷が下りたように言った。
オーウェンもカールトンに近づき、
「ありがとう、カル、助かったよ! クリスタルもバリアありがとう!」
クリスタルは、ほっと安堵の胸をなでおろした。
この先にはホワイトベアキングが待っている。
中級ダンジョン最後のモンスターホワイトベアキング! ホワイトベアの中の王! とても美しい毛並みにスッキリとした顔!
オーウェンが、
「魔法剣を構えろ!」
「「はい」」
クリスタルたちは剣を構え何時でも動ける体制を取った。ホワイトベアキングがこちらに迫っていることを確認して、ホワイトベアキングに斬りかかろうとしたその時、ホワイトベアキングはシアンに向かって突進しながら腕を振り上げた。シアンは軽々と腕をつかみホワイトベアキングをくるくると回し投げた。ホワイトベアキングはシアンが投げつけただけで死んでしまった。
「えっ、え――、投げただけで―」
「うん、投げただけ」




