第三十七話 裁判
宰相から呼ばれ転移で応接室に行くと陛下、クリスチャン、カールトンが待っていました。スタンリーとオーウェン、クリスタルは軽く挨拶をかわし席に着く。
宰相が前に出て、
「エマの裁判日が決まりました。三日後の午後一時です。」
スタンリーは待っていたものが来てくれたような気持で、
「エマだけなのか?」
「いえ、サロスも裁判します。サロスはエイブラハムから禁忌薬を仕入れていたと言いました。
禁忌の咎、罪咎が多過ぎまして…どうしたものかと思案していたのです。
犯罪者に禁忌薬をつくらせ販売し、犯罪者に収益を与えた罪、資金提供罪。
禁忌薬で収益を得た罪、犯罪収益罪。
禁忌薬と知りながら学院に蔓延させ生徒を支配しようとした罪、前提目的罪。
この罪は、エマにも適用されます。
それとステラは誘拐ではなく自ら仕事を探しに行ったようです。
よって、内乱目的罪で前提目的罪より刑が軽くなります。
禁忌薬と知りながら王子に飲ませようとした罪、殺人未遂罪。
禁忌薬の後遺症患者、患者が迷惑をかけた事柄などの損害賠償罪。
その他に、王都の商会設立証・営業許可証は取っていませんでした。登録詐欺罪。今回も、禁忌薬の収益が見つかりませんでしたが、仕入れをしていた証拠が帳簿にあり禁忌薬の売上をごまかしていました。税金横領罪。私文書偽装罪。詐欺罪。禁忌薬の犯罪収益没収罪。まだありますが、これだけの罪状がありますから死刑では足りませんよ!」
「先ずは、裁判を開き死刑判決を下す。本来なら家族全員死刑だが、残りの禁忌薬の犯罪収益没収罪・税金横領罪・損害賠償罪はサロスの息子に支払い義務を課せよう」と、陛下は無念そうに言った。
宰相は申し訳無さそうに、「申し訳ございません。」
スタンリーは、
「宰相年間の仕入れからどの程度売っていたか予想はつくな? タルニア領では最低五年間は売っていたのは確かだ。およその見積もりはできるな」
「はい」
陛下は、
「スタンリー、ゴイル国王にもこれまでのことを書簡で送るよう手配した。何らかの形で返答はあるだろう。クリスタル今回もクリスチャンとカールトン、スタンリーを助けてくれて助かった。ありがとう」
クリスタルは、
「勿体無きお言葉。クリスチャン殿下が冷静にカメラに収めてくれていたから証拠書類も用意出来ました。ホントにお役に立ててよかったです」
スタンリーは、
「我も入っていました? 兄上?」
陛下が、
「当たり前だ。大事な弟だからな」
オーウェンはまた始まったと呆れながら、
「はい、はい、そこまでです」
陛下は苦笑いしながら、
「ウォッフォン、では三日後裁判室で! サロスの裁判はエマの裁判を終えた一週間後とする!」
「ハッ!」「「「はい!」」」
ようやく裁判まで扱ぎ付けたが、全て解明できていない。納得できない感情が胸に溜まっていた。取り調べで真実の供述を得るため様々な手法を取り入れ技術の体系化を図って情報を引き出した。内容確認作業に入っている段階で、さらに詳細な聴取が必要な事項に移っていたが、禁忌薬をばらまいて得た金銭は今回も巧妙に隠されていた。今回はきっちり方を付けたいものだ。
裁判の日、その日の空は青空が薄く見えた。
裁判室に入ると、重苦しい空気と野次馬的空気が漂っていた。
クリスタルは緊張の面持ちで陛下の入廷を待っていた。
陛下と宰相、法理大臣が入廷してくる。私たちは立ち上がり陛下の合図を待つ。
陛下が、
「着座! エマをここへ」
その声が響くと、傍聴者は坐り始めた。
陛下の坐っているところは二階席にあり、陛下を中心に右側の法壇机に法理大臣と記録係その横に国王を守るロイヤル近衛騎士団、左側の法壇机に宰相と記録係その横にロイヤル近衛騎士団が坐っている。その後ろに王族が坐る。
衛兵がエマを連れて入廷してくる。エマは抵抗しながら、体を横に前にと動かしながら、手枷を嵌めた手を上下左右に振り回して衛兵を殴っている。周りもざわつき始めた。衛兵に何か言われたのか抵抗を止め不満そうに一階の罪人台に立った。
エマは急に、
「私は何も悪いことはしていません! 裁判などおかしいです!」
陛下に許可なく話し始めた。不敬罪といわれても仕方ない。
「私はエイブラハムに頼まれただけです!」
「エイブラハムに嵌められたのです!」
よくそんな声が出せると思うような大声を出し、陛下を睨んでいます。
「静粛に! 不敬罪に問いますよ!」
と、咎めた。
エマは不満そうな顔をして口を閉じた。
そして、法理大臣が、
「裁判を始める!」
その声は胸に刺さったような気がした。
法理大臣がエマの罪状を読み上げる。
「コールマンパラダイス大公邸に於いて、エントランスホールでエイブラハムから支配薬を購入しパーティー会場に入場した。購入した支配薬をクリスチャン殿下に飲ませて支配しようとした。間違いないか?」
エマは必死の形相で、
「支配薬と知らずにエイブラハムから購入しました。クリスチャン殿下に飲ませると「婚約者になれますよ」と言われたので私は即購入しました。私はただ、クリスチャン殿下の婚約者になりたかっただけです。支配薬とは知りませんでした。私は何も知りません。クリスチャン殿下と結婚出来ればいいだけです」
「飲ませようとしたのだな!」
「飲ませようとしましたが、支配薬と知りませんでした」
傍聴席がざわつき始め、皆口々に、
「好きになってくれる薬なんて、普通禁忌薬とわかるよな」
「厚かましいですね」
「どの口が言っている」
「自分の身分をわきまえろ」
「第一王子と会えただけで幸せだろ」
エマにも聞こえたのか、動揺を隠しきれず握りしめた手が震えていた。
独り言のように、
「知らなかったのに…」
「知らなかったのよ」
と、つぶやいていた。
法理大臣はエマを見て、
「飲ませただけで好きになってくれるなど、おかしいと思わなかったのか?」
「ただ、好きになって欲しかった」
「禁忌薬と思わなかったのか?」
「結婚したかっただけです」
「クリスチャン殿下に支配薬を飲ませようとしたのか、しなかったかだ。この支配薬は継続して飲ませ続けると生きる屍となり会話は通じない。会話はできない。ただ奇声を上げ続ける者になり最終的に死んでいく。そのような禁忌薬をクリスチャン殿下に飲ませようとしたのだ。エマの罪は前提目的罪に当たる! クリスチャン殿下を傀儡して自分の思い通りにしようとした罪。傀儡できることを知りながら死に至る薬をミスティーナ国の第一王子に飲ませようとした罪だ」
法理大臣が陛下に礼をする。
陛下は立ち上がりエマに視線を向け、
「平民エマに死刑判決を言い渡す! ミスティーナ国第一王子に禁忌薬を飲ませようとした罪は重い。死刑になるまでの日々を反省して過ごすと良い!」
室内がどよめいた。
「そっ、そっ、そんなー、ひどい、ひっ、ひどすぎます。死刑などあんまりです。陛下ぁー!! お願いです! 私は悪いことはしていません! 私は何も知らなかった! へいかぁー! へいかぁー!」
宰相が合図を出し、衛兵がエマを引っ張ろうとしている。
エマは蒼ざめて全身がわなわなと震え続けていた。
「へいかぁー! たっ、たす、助けてください。へいかぁー! へいかぁー!」
エマは抱えられながらも叫び続け退廷していった。
エマに向けられた悪意、誰にもあり身近な些細な感情は砂に埋もれた貝殻のように小さい物であった。その小さな感情を弄ばれ、小さいものを大きく変えてしまった。外からの悪意が恐ろしい。悪意がぼんやり見えてきた気がしたけど、微妙な誤差で分からなくなりそうだ。
傍聴席のざわめきは収まらず、ざわついたままだった。
法理大臣が、
「静粛に!」
陛下が立ち上がり、
「これにて閉廷!」
と言い退廷していった。
もっと長引くかと思ったが、すんなりと裁判は終わった。
王族に近づくためにエマは利用されたのだろう。利用されたエマは可哀想だが自業自得だ。他人を利用して自分では動かない。何ともスッキリしないものが残り続けた。
私たちは裁判室を後にして、カールトンが暮らしているイーストダリア邸にお邪魔していた。イーストダリア邸のダリアはとてもシックでかっこいい上品な花だ。
クリスタルはお茶を飲みながら、
「はぁー、落ち着くー、アンティークハミルトンは美しいわね、カル苗もらえませんか?」
「いいよ!」
と、カールトンは嬉しそうに答えた。
スタンリーはさっきの裁判で何か思ったのか、
「エマは反省していなかったな。自分の罪もわかっていないのではないか?」
オーウェンも同意したように、
「コールマンパラダイス城で捕まえた時も「私はクリスチャン殿下の婚約者になるの」と言って罪状について話しても「結婚するの」と一点張りでした」
カールトンは困った様子で、
「エマも支配薬飲んでいたのでは? 常習ではなくても偶に飲んでいたのかもしれない。エマの思考はずれています。支配薬の影響だとしたら、コールマンパラダイス領にはエマの様な者が大勢いるかもしれない」
スタンリーは少し顎を引き目線を下に向け、
「厄介な薬だな」
クリスタルは、
「私も協力を惜しみません。お父様!」
スタンリーは顔を上げ、
「すまんな、頼むことがなければいいのだが…ステラもコールランド病院に移したそうだな?」
クリスタルは、
「はい、移しましたが退院の兆しはないようです」
「ステラの家族はどうだ?」
「統括責任者ブラットの手腕が発揮されて、ステラの両親はコールランド病院で働いています。ステラの両親は生活魔法が得意で、病院でも重宝しているそうです。妹は来年からコールランドパラダイス校に入学予定です」
「そうか、コールランド病院はこれから忙しくなるだろう。クリスタル、カールトン、オーウェン、ご苦労であった!」
「いえ、叔父上」「はい、父上」




