第三十六話 レイスは研究者
カールトンはとても楽しそうに飛んでいた。
健やかな風に誘われて街並みや木々が小さな玩具のように目の前を通り過ぎる。
雲間から太陽が顔を出し真っ白い雲をより輝かせていた。
クリスタルは全身から喜びを醸し出し、
「幸せー」
心からの声を言葉にした。
コールマン城に着いた五人は我先にと自分の部屋に入りお風呂に入った。
夕食の時間になり家族用の食堂に集まった。
スタンリーから、
「初級ダンジョンは攻略できたのか?」
オーウェンはゆったりした笑顔で、
「攻略出来ました。クリスタルは新しい魔法も戦闘中に創りましたよ。僕が使いたかった魔法です」
「そうか、クリスタルよくやった! カールトン、クリスタル感想は?」
「叔父上モンスターの性質を調べて挑めば、無駄なく攻略できたと思います」
「クリスタルはどうだ?」
「はい、魔法を使い過ぎたかもしれません。動いている相手は対して、魔法で命中させるのに苦労しました。それに、剣で戦える場面でも魔法を使いました。それから私自身気づかないまま、かなり緊張して普段はできて当たり前のことが、まるでできていませんでした」
スタンリーは優しい表情で微笑むと、
「父も初めてのダンジョンは緊張したものだ。初級といっても命を懸けての戦いであり緊張するのは仕方ない。その緊張感の中で新魔法を創るとはたいしたものだ! 先ほどの反省の中で己を少しでも知れたはずだ。次からはその緊張も味方にして生かしてほしい」
「「はい!」」
オーウェンが、
「父上、魔物とダンジョンのモンスターの違いは何でしょうか?」
「未だに、解明はできていない。魔物はこの間説明した通り、ダンジョンのモンスターは創造神様がお創りになったものとされているなぁ」
「そうですか」
「ダンジョン内は、モンスターの数も決まっていて、それ以上増えることも減ることもない。その様な事が出来るのは創造神様しかいないだろう。という結論から創造神様がお創りになったダンジョン・迷宮として大切に管理している」
クリスタルが、
「ボスモンスターは人間みたいでした」
「あのボスモンスターは倒されてから復活しなかったのだ。なぜなのかわからないが、そこで、最後に倒した者が分身を使えることから、ギルマスが頼み込んで、ボスモンスターをやってもらっている」
「そうでしたか」
スタンリーは、
「シアン、セシルもオーウェンとカールトンとクリスタルを守ってくれてありがとう」
「スタンリーパパ、僕たちは何もすることなかったよ。なっ、セシル」
「はい、シアンの言う通りです。邪魔をしたかもしれない。」
スタンリーはセシルの言葉を理解しようと、
「それは?」
オーウェンがセシルの代わりに、
「モンスターがシアンとセシルを恐れていたと思います。セシルとシアンは前衛で剣を構えモンスターを待っていました。一向にモンスターは出てきませんでした。海竜と戦うことは望まないという意思表示だったのではないかと……だから出てこなかったのではないかと思います」
「そうか、モンスターは危険に優れているようだ」
クリスタルは、
「感知系スキルが欲しいです」
「そうだな、危険感知・気配感知・魔力感知はあった方がダンジョン以外でも役立つだろう」
「はい、身につけたいと思います」
「よし! 後二、三回初級ダンジョンに行くといい」
「はい、お父様」「はい、叔父上」
夕食会での反省会は濃縮された内容となった。
オーウェンとカールトンとクリスタルは談話室で話していた。
ダンジョンの素材・肉・十人分のアーマーと剣がある。
納品できるものは納品して売れるものは売る。今身につけている防具は数倍質がいいこともあり、防具類はすべて売ることにした。明日、素材と肉、防具はギルドに行って相談する! で、話は付いた。
後は、感知スキルが無いと上級から厳しい模様。
オーウェンは剣聖の中に感知機能がついていてモンスターの気配は感じていたようです。カールトンも魔力感知スキルがありモンスターを魔力で感知していたそうだ。
「お兄様もカルも持っていたのですね。そういえば「精神攻撃仕掛けてくる」ってカルは言っていました。私は全く気づきませんでしたけど…」
オーウェンとカールトンから、
「クリスタル感知系は直ぐ創るといい」
「そうだよ、人間でも危険な人多いから」
「わかりました。今日中に! カルは危険感知必要じゃありませんか? お兄様?」
「僕は剣聖に含まれているから、小さい頃から危険は避けられた。カルは魔法感知だけだと心もとない」
「今から創ります。カルには付与します」
創造魔法『危険感知・気配感知・魔力感知』スキルに加わった。
気配感知は、相手の気配がわかる。
気配遮断スキルを使っていても気配がわかる。
危険感知は、敵からの殺気や害意や罠や嫌がらせがわかる。
魔力感知は、魔力を感知して相手の居場所を特定して、魔法が発動されても感知できる。
「カル、近くに行きますね」
カールトンに手を翳し、
付与魔法『危険感知・気配感知』を付与した。
オーウェンが、
「付与も出来たし明日はギルドに朝から行こう」
「はい、お兄様学院用品揃えたいのですが、ギルドからの帰りホワイトダリアに行ってもいいでしょうか?」
「そろそろ、学院も始まるしカルも一緒に、ホワイトダリアで揃えるか?」
「はい、兄さんもちろんです」
「今日はもう寝るとしよう」
「おやすみなさい」
「お休み」
「おやすみ」
朝早くギルドに行くとカウンター前は依頼票を手に大勢並んでいた。この国の冒険者全員集まったような人だかりだ。私たちは、応接室に呼ばれ、ギルドマスターが来るのを待っていた。
クリスタルは見たことのない状況に、
「すごい人でしたね。お兄様」
「朝でないと良い依頼が無くなるからこの人だかりなのさ。取り合いで喧嘩になることもあるそうだよ」
カールトンは頷き、
「生活が懸かっているからだよ。クリスタル」
付け加える様にオーウェンも、
「中にはランク上げ、レベル上げのために依頼を引き受けている人もいる」
クリスタルは不思議そうに、
「ダンジョンでレベル上げればいいのでは?」
オーウェンは教える様に、
「依頼もこなさないとランクが上がらない。ダンジョンも上級になると一人では難しくなってくる。強くて人望がある人はメンバーもすぐ見つかるが、その他の者はメンバー集めが大変だよ。幼馴染と冒険者を初めて同じように成長できるメンバーは一握りだよ。上級ダンジョンになると強いモンスターと数を相手にするわけだ。レベルが上がらない者は死んでしまう。だからこそ決断してメンバーを変える必要も出てくる。命がかかっているからだよ。」
「そうですか。私たちは大丈夫です。同じように成長しています」
「そうだな」
ギルドマスターが入ってきた。
「お待たせしました。カールトン殿下、オーウェン様、クリスタル様」
カールトンがすぐさま、
「ギルマス殿下はやめてくれないか? 公務ではない」
ギルドマスターは困ったように、
「なんとお呼びすれば…」
「兄さんとクリスタルのように」
「わっ、わかりました」
オーウェンが一言、
「そうだな、王子とわかり、いらぬちょっかいを出してくるかもしれん。ギルマスにとっても本意ではないだろう」
「はい、もちろんです。カールトン様と呼ばせていただきます」
「では、本来の要件を済ませていいか?」
「はい、どれくらいありますか?」
「ウルフが十頭、オークが三頭、スケルトン五体と十片、ボーンスケルトンも五体と十片、魔石がスライム五十個、ウルフ十個、スケルトン三十個、ボーンスケルトン二十個、オーク三個、ポイズンスネーク二個、黒鳥一個、レイス二個に、宝箱のアーマー十具、剣十本、ブーツ十足です」
「初級ダンジョン攻略ですね! 解体場にウルフとオーク、オーク肉は持って帰られますか?」
「いや、売りに出す」
「ハッ、納品所にスケルトンとボーンスケルトンを、魔石はカウンターか売店他店でも構いません」
「ギルマスならどこに売る?」
「私でしたらカウンターに売りますね。ランク上げ効果があります」
「そうか、カウンターに売るがいいか?」
「はい」「いいよ」
「では、ご案内いたします」
クリスタルは、
「ギルマスに聞きたいことがあるのですが…」
「クリスタル様どんなことでしょう?」
「初級ダンジョンのボスモンスターレイスの事です。レイスは本当に人間ですか?」
「レイスは人間ですよ。昔レイスを倒した方ですね。確か精神感応力を持っていて精神体でレイスの身体をイメージして創りだしているようです。学院で研究していらっしゃいますよ」
「えっ、えー、ほんとですか? ダンジョンはバイトですか?」
一斉にクリスタルを見つめて、
「「「バイトって何!!!」」」
クリスタルは目を閉じて、
(しまったぁ――! この国の言葉じゃなかったぁ――!)
「えっと…学院の合間に仕事しているのかなぁと思いまして…」
ギルドマスターが、
「そういうことですか。はい、給金を払ってボスをやってもらっています。ところで、先程のバ○○とは?」
「言い間違いです。気にしないでください」
「はぁあ? そうですか」
念話でオーウェンとカールトンには、
≪ごめんなさい! 前世の言葉が出てしまいました≫
≪あー、そっか≫
≪気にしなくていいぞ≫
≪反省しています≫
レイスに給金を払ってボスを頼んでいたなんて…
オーウェンは学院の教員だと思っていた。研究者だとは知らなかったようだ。
「学院にいるとは知っていたが研究者だとは知らなかった」
カールトンも教員と思っていた。しかもバイトとは…
「研究者…」




