第三十四話 ダンジョン
リーバイとの話が終わり、小腹がすいたとカールトンが言いはじめたので、ダンジョン前のお店に入ると、お昼前だからか意外と客が入っている。続々と冒険者が入ってくるのが不思議だった。冒険者はダンジョンに潜っていると勝手に思い込んでいた。
クリスタルはオーウェンに疑問をぶつけると、
「お兄様、この時間帯に冒険者が沢山いるのはどうしてですか? ダンジョンに入っているとばかり思っていました」
「依頼票には様々な依頼があるから、ダンジョンにばかりに潜っているわけではないんだよ。夜にだけ取れる薬草の依頼や護衛依頼様々な依頼がある。武器の修理待ちの者もいるだろう。ギルド会館で依頼票が貼ってあるから依頼板見てみるといいよ」
カールトンも知っていたようで、
「指名依頼者と待ち合わせかもしれないよ」
「そうでしたか。ダンジョンに入るだけでなく、色々なお仕事があるのですね」
オーウェンは子供をあやすかのように、
「そうだよー」
クリスタルはスッキリした様子で、
「私羊肉にします」
オーウェンはカールトンを見て、
「僕たちも羊にしようか?」
「うん、兄さん」
ダンジョンの入口は頑丈な扉がありその扉から入って行くようだ。お昼過ぎの時間帯だったため並ぶこともなく入れそうだ。セシルとシアンが前衛を申し出たので剣をシアンとセシルに渡した。オーウェンとカールトンには回復ポーション・体力ポーション・魔力ポーション・解毒ポーションを渡した。
私たちの番になり初ダンジョン開始だ!
オーウェンが先に入り、
「暗いから気を付けて。気を抜かないように!」
「「はい」」
と、同時にカールトンとクリスタルは返事した。
中に入ると、所々に、明かりが転々とあるだけで、中は相当暗い。
オーウェンたちは生活魔法『ライト』を出して明かりの代わりにした。緊張していたのか妙に体が硬くなってつま先に力が入る。暫く歩いても、何も出てこない。
「……………」
「……………」
「お兄様、最初は何も出てこないのですか?」
カールトンも兄上から聞いた話と違うと思いながら、
「現れませんね。あっ、セシルとシアンじゃない?」
オーウェンも短い吐息をつくと、
「海竜がいるから襲ってこないのか! 先に進むと海竜に挑戦するチャレンジャーモンスターもいるかもだが…………このままでは実戦訓練にならないな」
カールトンは色々と志向を張り巡らせ考えても解決策は見つからなかったが、
「シアンとセシルを後衛にしてみるのはどうだろう? 剣も鞘に納めて攻撃しませんよ。的な感じにしたら…」
「やってみる価値はあるかも!」
オーウェンもクリスタルも容認した。
オーウェンは中央の前に出て、オーウェンの両側にクリスタルとカールトン、後衛にシアンとセシルがついた。
ダンジョンの中は洞窟のような水の中に潜ったような圧迫感がある。歩きづらいかと思っていたが普通に歩けるようになっていた。
単調な風景の中、奥から何かが出てきた。
色とりどりの丸い物、赤・白・ピンク・青・緑・紫・透明・黒・黄…
カールトンとクリスタルは鑑定してみる。
『鑑定……………赤は火、白は光、ピンクは精神、青は水、緑は風、紫は毒、透明は氷、黒は闇、黄は雷に適正あり。Lv.1です』
「カル、クリスタル、剣で戦ってみよう」
「「はい」」
三人は剣でスライムを切り裂いていく、切り裂いたところから魔石が見えた。
スライムの核なのか…心臓なのか…
私達は魔石を取り出し倒したスライムを燃やした。そしてモンスターに警戒しながら少しずつ歩を進める。
唸り声が聞こえ、前を見るとウルフの群れが待ち構えていた。
集団戦闘だ。
牙や爪で攻撃してくるとオーウェンから説明を受けていた。
ウルフたちが、前、斜め、横と位置取りを始め向かって来ようとしている。
少し気持ちが、高ぶるような感じがした。
命がけの戦いだと知っているウルフたちの顔と仕草の、其れは、本能で動いている野生の感というところだ。
ウルフの顔は戦争が始まる軍人の如く、凄まじい怒りで睨んでいる。
「ガオゥー!! ガオゥー! グゥ、グルㇽㇽ、ウォ――――――!」
大きな唸り声が聞こえたと思ったら、ウルフが大きな口を開け、爪を前に出し襲い掛かってきた。
オーウェン、クリスタル、カールトンは剣を握りしめ構える。
ウルフが津波のように襲い掛かって、牙を剝き跳びかかってきた。
最初に出たのはオーウェンが剣で、一太刀で首をはねる。
カールトンも上から振り落としウルフを真っ二つにした。
クリスタルも魔法で応戦する。
氷魔法『アイスニードル』
氷の矢を射出しウルフを貫いていく。氷魔法『アイスニードル』で、弱ったウルフたちをオーウェンとカールトンが次々と切り裂いていった。…………その場のざわめきが、一瞬閉ざされた世界のように静まった。
シアンとセシルが魔石の回収をしている姿はなぜかその場を温かくした。
オーウェンから、
「カル、クリスタル、よくやった! 少しずつ連携が取れ始めたな」
カールトン殿下とクリスタルは、
「「はい!」」
と、嬉しそうに返事をした。
ウルフの死骸をアイテムボックスに入れ歩き始めると……何か、物音が聞こえた。その先にイノシシのような顔が見えた。
私たちは戦闘態勢を取り待ち構えた。三頭のオークが見えてきたときには、オーウェンはすぐさまオークに一撃を与える距離まで迫っていた。クリスタルとカールトンもオーウェンに続いた。
オーウェンが一頭のオークに一撃を与えると、頭から血が噴き出し大きな衝撃音と同時にオークが倒れた。
カールトンも負けじと、オークに切りかかりオークに傷を負わせた。クリスタルもその場で飛び上がりオークの首を切り落とした。
カールトンが倒せなかったオークをオーウェンが倒してくれた。クリスタルとカールトンは一頭を相手にするのに精一杯で、周りに気を配ることもできなかった。
カールトンは、
「兄さんありがとう。クリスタルもすごかったよ」
「剣聖仕込みです。ねっ、お兄様!」
「そうだね。カル、魔石取り出そうか? 死骸も持って行くぞ」
「はい」
次に出てきたのは、スケルトンが出てきた。ここは、クリスタルの出番だ。
クリスタルが前に出ると、
「初級から試してみます」
オーウェンは応援するように、
「がんばれ」
クリスタルは、
浄化魔法『セイアンデット』を放つ。神聖な力で不浄なるものや不死者を消滅させる。
「お兄様、初級で行けました」
「よくやった」
オーウェンにダンジョンの説明を受けていると、黒い二メートルほどの鳥が出てきた。
オーウェンが慌てたように、
「黒鳥だ。羽で風を操り攻撃してくる。グレイウォールを使おう。いいか?」
「「はい」」
カールトンが前に出て、
氷魔法『グレイウォール』を展開した。
クリスタルとオーウェンは飛行で黒鳥に、
火魔法『ファイアボール』の火炎弾をぶつける。
逃げ足が速い。それに、鋭い羽で攻撃してくる。
「お兄様ファイアウォールを改良して、空間に閉じ込めます。向こうから氷魔法『グレイウォール』を展開してくれませんか?」
「わかった」
「いきますよー」
火魔法『ファイアカバー』
黒鳥を火で覆うと、断末魔の声が響いて悶え始めた。
激しい唸り声がいつまでも鋭く耳に残った。
目の前で、黒鳥が焼け尽くされ灰の塊になると魔石がぽとりと落ちた。
魔石の回収を終えて先を急いだ。
「休む暇もありませんね。お兄様」
「あぁ、初級ダンジョンは早い人では一時間以内で攻略する人もいるからね。その位、次から次にモンスターが現れる様になっている」
ズズゥー、ズゥッ、ズッ、ズゥー、ズズゥー、引きずる音がした。
「引きずる音がかすかに聞こえるよ」
シアンが言った。
私たちも耳を澄ますと、確かに引きずる音が聞こえてきた。
「「「聞こえた!」」」
オーウェンは、何が起きても反応できる体制で、
「あの音はポイズンスネークだ。牙からの毒としっぽに気を付けて!」
カールトンとクリスタルは、気を引き締めて身構えた。
クリスタルは剣をぎゅっと握りポイズンスネークを見た。
「大きいー!」
「来るぞ。カル、クリスタル! 皮が硬い。属性を剣に込めろ!」
「「はい!」」
オーウェンは水の魔法を選択、カールトンは火の魔法を選択、クリスタルは雷魔法を選択して剣に込めた。
まず、カールトンが火の魔法剣でポイズンスネークに跳びかかり、ポイズンスネークの皮に食い込んだ。体重をかけ斬り裂く。その斬り口にオーウェンは水の魔法剣で一太刀斬りつけたがまだ動いていた。
今度は、クリスタルが雷の魔法剣で斬りつけ、オーウェンの水とクリスタルの雷が全身に効いたのかぴくぴくと痙攣し始め焼け焦げた匂いが辺り一帯に充満した。
ポイズンスネークの斬り口から炎が出て、ポイズンスネークの身体の中を燃やし尽くした。
私たちは、その炎の激しさを身体に感じ、生々しいポイズンスネークの皮だけ残った焼け焦げた塊に目を背けた。あらゆる感覚が研ぎ澄まされていたことに気付いたクリスタルは、オーウェンとカールトンの顔を見て落ち着きを取り戻し、気持ちを切り替えることができた。




