第二十九話 コールランド病院
離島の中心に着陸後スタンリーが、
「この島は、シアンが言っていた通り誰も住んでいない。それに未着手のようだ」
アダムも周りを見渡しながら、
「こんな島があったのですね」
「クリスタル、大規模に更地にしてくれないか! 隔離病棟の患者が抜け出しても捕まえ易いように茂みを無くして欲しい。」
「解りました。背の高い木は残して更地にしてみます。お父様、船着場と門はどの辺りにしますか?」
「そうだな。飛んできた方向のこの辺りにしよう! ホワイトダリアから一直線だ」
「はい、では」
背の高い木以外はかなり大規模に更地にして島全体を塀で囲み門を創り塀に固定した。船着場は小さい港のようにした。門から一番奥に寮を創りその前に病院を建てた。今回、建物の中に支配薬で精神を侵された罪人を隔離する病室? 牢屋? が必要になり牢屋には見えないが転生前の精神病棟を参考にして少しだけ豪華にした。隔離病棟・入院病棟・通院病棟を完全隔離して創り、身寄りのない者はここの火葬場で火葬して、コールランド島の大きな墓標の下に埋葬できるようにした。
「お父様中を見て助言をください」
「解毒薬は何処に置くのだ?」
「各病棟の診察室の隣です。もう創って用意しています」
「そうか悪いな。クリスタルばかりに負担をかけるな!」
「大丈夫です。お父様の娘ですよ!」
「ありがたいなぁ。クリスタルが我の元に生まれたことに感謝しないと!」
「私も感謝しています。優しい家族にお友達、幸せ過ぎて困っています」
「本当か?」
「とても幸せです」
「クリスタル幸せになるのだぞ」
「お父様ありがとう……え―と………………他にすることありますか?」
「うむ、今日やることは終わったな! 帰ってゆっくりするか」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」「はい!」
其々帰り支度を終えてシアンの背に乗ってコールマンパラダイス領に向かって飛んでいる時に……
「あっ、船置いて来ちゃった!」
「なにぃ―――――」
「お父様取りに行ってきます。ついでに畑も創っておきますので…先に帰ってください」
「船も創っていたのか?」
「はい! お父様あの島の名前コールランド島にしませんか?」
「それいいな!」
「ついでに門に刻んできます。船はどうします?」
「コールマンパラダイスかクリスタル!」
「うーん、コールマンパラダイス号にしますね。では、行ってきます!」
転移魔法で消えて行った。残された者は、
「…畑…船…」
「クリスタル様だから…」
「そうだな」
「クリスタル様ですし…」
シアンは真面目に、
「クリスタルは強い! だから大丈夫だよ。僕でも勝てない」
「「「「「「解っておるわ!!!」」」」」」
「強い強いとクリスタルに言うのではないぞ! 傷ついたらどうする?」
「ハッ、わかっております! 決してそのようなことは言いません!」
「わかっておればいいのだ。シアンも言うなよ!」
「うん、わかった」
竜にとったら強いとは誉め言葉だったが、人間は違うのかとシアンは勉強した。
昨日は転移魔法で部屋まで帰ったクリスタルは朝食を食べていた。
カールトン殿下が現れ、
「クリスタル、シアンおはよう」
「おはよう」「おはよう」
「昨日四人確保したの、知っている?」
「知っています」
「その中の一人が、支配薬を飲めなくなったせいなのか? 禁断症状なのか? わからないが亡くなったようだ」
「亡くなった……」
世に無名の死が一つ増えた。
「兄上と叔父上は午前中従事者を集めて説明会を行い、その説明会で残った者をコールランド島で従事する資格を与えるそうだ。午後から資格従事者と捕まえた男女三人をコールマンパラダイス号に乗せてコールランド病院に行くみたい」
「もう、従事者が決まっていたとは、仕事が早いですね」
「僕は捕まえた人の鑑定頼まれたよ」
「私も、手伝います」
(さすがに、死体の鑑定は頼めないよ。クリスタル、ごめん)
「大丈夫人数少ないから」
「そうですか?」
「だから、少し遅くなるけど心配しないで…」
死体の身元は誰なのか?
手枷を嵌められた三人の男女は人殺しなのか?
エイブラハムが犯人なのか?
子供達も殺されたのだろうか?
ホワイトダリアまで三人は顔を晒して運んでいるが誰も声をかけない。
どこの誰なのだろう?
この街に彼らを知っている者はいないのか?
相変わらず獣のような叫びは、もはや男女の区別もつかない叫喚だ。
街の人々は露骨に眉をしかめて三人を見ていた。
皆口々に、
「ああなるとおしまいだな」
「人ではなく別物だよ」
「ヨダレたれ流しだ、汚い」
「気持ち悪い」
「ああはなりたくないな」
嫌悪感を露にした。
やはり、この地に知り合いはいなかったか…
誰も話しかけることもなくホワイトダリアの横階段まで来てしまった。
皆、順序よく階段を下り船に乗ってコールランド島に行った。
カールトン殿下は別荘に行って学生以外の死体の鑑定を始めた。
子供は名前もなくステイタスも鑑定できなかった。ミスティーナ国民だけでなく他国の者もいた。フリットウィック王国民が一番多かった。死体は腐敗している者が多く火葬にして鑑定書類に事件の詳細を書いて一緒にそれぞれの国に送ることになった。子供の死体も火葬にしてコールランド島に埋葬する。アラバスター学院の学生も腐敗が進んでおり火葬して遺族のもとに鑑定書類と遺品と事件の詳細を記して返すつもりだ。
コーランド島に着いたスタンリーたちは昨日の風景と変わっていることに驚いていた。港は小さい漁港のように船着場と釣りができるように創られていた。隔離病院と言うより公園のように見える。背の高い木は患者が逃げ出しても見えやすいように植えられ、背の低い花々をその周りに植えて畑や鳥小屋、イチコを栽培できるようにしていた。
「これは? 叔父上庭園のようですね」
「ああ、一人で昨日ここまで創ってくれたのか」
「野菜や果物・卵・鶏肉・魚があれば嵐が来ても命は繋がるようにしている」
「そうだ。我々はとにかく隔離室のことばかり考えていたが、クリスタルは全体像を見ているのだな」
「はい叔父上恐れ入ります」
「とにかく隔離病棟に入れるか?」
「そうですね。後でゆっくり見学させてもらいましょう」
地下は最も症状が重い患者の隔離病棟になる。連れて来た三人は地下の隔離病棟に入れられた。三人は人間のように食事もトイレもお風呂に入ることはないだろう。この病棟患者の看護する従事者は生活魔法『クリン』が使える者が看護する。カールトン殿下の鑑定で名前とステイタスが記されたボードを病室の前に付けた。
「この患者魔法使いですよ。危なくないですか?」
「患者に接触しなければ心配ない。中にバリアを張り巡らしている。食事は扉の小さい小窓から入れここを閉じれば問題ない。生活魔法も小窓から発動させるように設計している」
「誰の案ですか?」
「クリスタルだよ。転生前の文化のお陰だな」
「王城の牢屋もここのように変えたいですね。魔物の檻と同じですから」
「そうだな。我々も見直しが必要な時期に入ったのかもしれない」
「はい、叔父上」
「さあ、庭園に戻るか?」
「そうしましょう」
最初にイチコ栽培の場所に行きイチコを食べてみる。
「甘酸っぱくて美味しいー!」
「はい、叔父上」
「取ったところからイチコが実ってきたぞ!」
「これは……売りに出せますよ。畑の使用人を増やすと病院の資金源になります」
「本当クリスタルには頭が下がる思いだよ」
「僕のお嫁に来ないかな?」
「クリスチャンはクリスタルを妹として見ているだろう。我はクリスタルを想い愛してくれる人を好むな」
「手厳しい。妹と思っていましたが最近は少し違います。何の感情なのかわからないのです」
「そうか、早く気付くといいね。……畑を見ようか」
「あっ、はい」
「小麦と野菜が色々育っているな。取ってみるか?」
「ここもすぐに実ります」
「植えている作物はこの島の財産になるな」
「はい、素晴らしいです。コールマン領も農作物創ってくれませんか? 天候や魔物の被害で食糧不足の心配がなくなりそうです」
「また、クリスタルにお願いすることになるがな。クリスタル城でも創っているのだろう」
「創っています。「何かあった時の為です」って、言っていましたね。そういう事ですか?」
「そういう事だろう。……釣りしてみるか?」
「はい」
≪クリスタル。今いいか?≫
≪はーい≫
≪釣り道具は何処にある?≫
≪畑の道具小屋にあります≫
≪ありがとう。カールトンはどうしている≫
≪一緒じゃないのですか? 捕まえた三人の鑑定を頼まれていると言っていましたよ。今日は遅くなるとも言っていました≫
≪そうか。釣りして帰るよ≫
≪お気をつけて≫
「カールトンは死体の鑑定しているんだったな」
「別荘にいると思います」
「釣り道具は道具小屋にあるそうだ」




