第二十二話 レイン・クロイン
バリアを通過できたことが決め手となり、レインの滞在を許可してくれた。スタンリーは確認のために、
「カールトン、鑑定頼む?」
「はい」
『鑑定!………………レイン・クロイン―海の王者、海竜、
レベル・魔力・体力・能力・魔法・スキル鑑定不能』
「叔父上、レイン・クロイン、海の王者、海竜、
これだけしか鑑定できませんでした!!」
「「「「「エェ――ェ――!!!」」」」」
「うそォ――!!」
「レイン・クロイン――――!!」
「ほんとかよ!!」
皆口々に声を出して叫び続けた!
クリスタルは、何のことか解らずレインの顔を見つめるだけだった。
「お父様、レインを知っているのですか?」
「今朝、討伐隊を組むか思案していた案件だ」
「レインを討伐?」
レインはセレストブルーの髪にヒヤシンス色の瞳で顔はとても整っており儚い感じの…この少年が…討伐対象? なんて信じられない!?
「お父様、レインはこんなに大人しくて、私と契約しています!」
「そうだな、そうだよな。……だが、海で暴れている怪物は何だ!?」
レインが、
「エイスパインです。エイスパインはとても優しい種で、イルナを目の前で殺された時だけ暴れるかな」
クリスタルが、
「イルナが誰かに殺されたのでしょうか?」
スタンリーが、
「調べてみるか。アダム、アドルフ、ブルーノ、エイドリアン、アルバート、行け!」
「「ハッ」」
大公騎士が動き出した。
「お父様、イルナを見つけたら私が蘇生します」
「クリスタルできるのか?」
「最近習得しました。魔法の発動が出来るので、できると思います」
オーウェン、クリスチャン殿下、カールトン殿下は相槌を打ちながらスタンリーを見た。「そうか、遂にそこまでたどり着いたか!」
オーウェンは、
「父上、クリスタルに任せておけば大丈夫でしょう。クリスタルの成長は目を見張るものがあります」
「そうか。さすがクリスタルだ! 父も誇らしいぞ」
穏やかな顔でクリスタルの頭を撫でた。
「アダム達が返ってくるまで休憩とする」
「「「はい」」」
クリスタルは、
「レインこっちに来て、紹介するわ。お兄様のオーウェン、ミスティーナ国の第一王子クリスチャン殿下、第二王子カールトン殿下よ」
「こんにちは、レインと言います。クリスタル名前つけて!」
「名前? レインじゃないの?」
「レイン・クロインは固有名だから」
「あっ! そっか、うーん……何がいいかなぁ? 瞳の色がヒヤシンス色だから明るい青って意味のシアン! シアンはどうかなぁ?」
「シアンかぁ………響きがいい、シアンで!」
シアンが席を立ちクリスタルの両手を握った。
「どうするの?」
「両手を握って僕の目を見て「名前はシアンとする」と言って」
「分かった。「名前はシアンとする」」
契約の時よりも、もっと、光輝いた。
「シアン、イルナを蘇生するとして、どうすればエイスパインに伝わるかしら?」
「僕に任せて! エイスパインを呼び出して、その前でイルナを生き返らせてくれたら落ち着くよ」
「わかったわ! お父様、イルナの死骸を…」
「わかっている」
アダム達が返ってくる前にシアンの部屋を案内することにする。
「お父様、私の隣の部屋、シアンに使ってもらっていいですか?」
「危なくないか?」
クリスタルは、
「でも、とても強い護衛になりますよ。ねっ、シアン!」
「うん、僕強いよ! クリスタルを守る」
カールトン殿下は、
「駄目だよ! レインは男の子だよ。まだ婚約もしていないのに男の子を近くに置くなんて駄目に決まっているじゃないか」
スタンリーは、何やら考え込むように腕を組んでシアンを見つめている。カールトン殿下は困惑した様子が窺える。
クリスタルが、
「向かいの部屋はお父様、その両側がクリスチャン殿下とカールトン殿下、右隣りにお兄様がいるではないですか? そこにとても強いシアンが使ってくれるならクリスチャン殿下とカールトン殿下も心強いと思います。シアン皆を守ってね!」
「うん、任せて!」
スタンリーは、
「それもそうだな。クリスタルは婚約前だからクリスタルを守ってくれるか?」
「うん、頼まれた!」
シアンの言葉に皆で大笑いした。カールトン殿下だけは不機嫌そうだったが、最終的には諦めたようだ。
クリスタルはシアンを二階に連れて行き部屋に案内した。
「ここが私の部屋、この隣の部屋がシアンの部屋 」
クリスタルの左隣の部屋にシアンを連れて入る。
「この部屋を使って」
「うん」
「どうする? 部屋でゆっくりする? 私は一階に行くけど…」
「僕も行く」
「じゃ、一緒にお父様の所に行きましょう」
大食堂は皆が集まって席が塞がって見える。騎士達がお茶を飲みながら、ゆったりと午後の時間を楽しむように、色々な声が混ざり合っている。お父様とお兄様とクリスチャン殿下とカールトン殿下が談笑している場所を目指す。
「シアン、私達もお茶を飲みましょう」
「うん」
「この大食堂は騎士たちや執事たちやメイドたちなど、コールマン城で仕事をしている人たちの為に創った食堂なのよ。だから、私達も皆が並んでいるところで順番を待つの。順番が来たら自分で好きな食べ物を選んでトレイに乗せて運ぶのよ。甘いお菓子もあるから並ぶ?」
「やってみたい!」
「じゃ、一緒に並びましょう」
クリスタルとシアンは一番後ろに並んだ。
執事とメイドが来て、
「クリスタル様お手が穢れます。私どもが用意しますので坐って待っていてください」
「良いのよ。シアンに大食堂の使い方を教えるだけだから今だけよ」
「いけません。フローレス様にお叱りを受けてしまいます。お願いです。坐って待っていてください」
「シアンは来たばかりで知り合いがいないわ。今だけ教えさせて」
執事とメイドはスタンリーの許可を求めるようにスタンリーを見た。スタンリーが首を縦に振り許可が出たようだ。
周りの人たちも気を遣っていたが、今回は学ぶことを優先した。
「大食堂で食事したい時は順番を守るのよ」
「うん、わかった」
順番が回ってきて、シアンはチーズケーキ五つとキッシュ風を五つ取りクリスタルに嬉しそうに微笑んだ。クリスタルは紅茶を二つ取り席に着いた。執事とメイドが張り付いてやりにくさはあったが、何とかシアンに教えることが出来た。
「シアン、今まで海の中で暮らしていたの?」
「海の中にもいたけど、海の中にはお金が沢山落ちているから、姿を変えて街で買い食いしていた」
「よく気付いたわ。お金の使い方知っているのね」
「これだけ長く生きていると……ね」
「そう」
「最初は知らなかったけど、人間を観察していたら海に落ちている物と食べ物と交換していたから覚えたかな」
「シアンは何年一人でいたの?」
「三百年くらいかな? もっとかも?」
「そっ、そっ、そんなに――――! そんなに生きていたら色々なことを知っていて生辞引きだね」
「アハハ、そうかな」
「今度シアンと海に行って一緒に泳ぎたいね」
「クリスタルをバリアで包めば海に一緒に行けそうだね」
「うん、バリアだね」
(重力的にどうなんだろう? 海仕様を創らないとダメかもね)
「クリスタルもう一度並んでくるよ」
「あっ、そう、いってらっしゃい」
「クリスタル並んでくるよ」
「えっ、ええ、もう食べたの? いってらっしゃい」
執事を呼び、
「料理残っている?」
「調べてきます」
「クリスタルここの料理美味しいね。並んでくるよ」
「え――、もう食べちゃったの!? はぁー」




