第十八話 ヘンダーソン領
オーウェン、クリスタル、クリスチャン殿下、カールトン殿下は週末クリスタル城で過ごして、クリスタルとオーウェンは最上級魔法も習得した。タルニア領に行く前に最上級魔法を習得したかったのである。クリスタルは個人的に治癒魔法の習得もしている。クリスチャン殿下、カールトン殿下も訓練の成果で如実に強くなった。
実はこの四人、オーウェンとクリスチャン殿下は、一年生の時に初級ダンジョンに数回行ったきり、クリスタルとカールトン殿下は訓練以外実戦経験がない。実際の戦いに何が必要か経験不足! 去年、オーウェンとクリスチャン殿下の初級ダンジョン攻略のため剣に属性魔法を付与した。そのついでに、クリスタルとカールトン殿下も剣に属性魔法を付与したが……それでよかったのか悩んでいた。
(図書館に行こうかな? 創造神様に相談しようかしら? ……あっ、その前にホワイトダリアに行こう。タルニア領に行く前に商品を見に行きますか)
ホワイトダリアの二階で商品を生産できる私設を創った。液体洗剤の危険な成分に頭を悩ませていたが、カールトン殿下が王宮図書館で調べてくれたお陰で解決できた。店舗の裏には寮も完備して働きやすい職場になった。
(これで、老後も安泰というもの! なんちゃって)
王都のホワイトダリアも殆どコールマン領と同じですが、コールマン領の貴族用建物を貴族街に建てた。平民用店舗も同じように平民街に建て、裏手にはどちらにも寮完備にした。こちらで売る商品は平民用のコールマン領商品とボードゲームと小説。貴族用に追加したのは貴族用に高級にしたボードゲーム・本・ビール・ブランデー・ウイスキー・ワインを商品にした。貴族街で売れたら平民用にもビール・ブランデー・ウイスキー・ワインを商品として出すつもりである。さすがにお酒は二階で作るわけにもいかず、お酒工場を創り生産している。店舗の商品が揃っていることも確認できたし安心して出かけられます。
明日から向かうタルニア領は、すでに正式名称はコールマン領に領地名が変わっている。元タルニア領での店舗はコールマン領と全く同じ建物を建築する予定だ。そして、元タルニア領はコールマン領から五日もかかる。
王弟殿下だったスタンリーは子供の頃から国民に人気があった。今回の旅はスタンリーだけでなくクリスチャン殿下、カールトン殿下まで揃っている。スタンリーとクリスチャン殿下とカールトン殿下だけ人気があると思っているクリスタルだが、実はオーウェンとクリスタルは最も人気があることを本人達は知らない。スタンリーは既婚者である。クリスチャン殿下は第一王子、ゆくゆくは国王になるお方、カールトン殿下は他国と政略結婚される可能性が高い。そのため、オーウェンとクリスタルに望みをかけている人が多いのだ。何の望みかわからないが、陛下が心配して「人だかりができ移動もできなくなるのでは」と、お忍びになった。
本来なら行く先々の領地でお金を使い還元するのが貴族の務めでもある。だが、諦めよう。その他にも護衛の人数である。護衛だけでも二百人、執事十人、従者十人、メイド二十人、料理人二十人、御者十人、大公家から差し遣わすことになった。このメンバーは先日王城で騎士試験をして合格した第二大公騎士団、そして、第一大公騎士団数名が同行している。第二大公騎士団の団長は、第一大公騎士副団長だったエイドリアンが務め、第二大公騎士団の副団長は、第一大公騎士団だったアルバートが務める。第一大公騎士副団長はアドルフが抜擢された。そして、第二大公騎士団や従事者は、元タルニア領にコールマン城を創ったら領地で働いてもらう人達だ。
クリスチャン殿下、カールトン殿下の護衛は離れることはない。
総合計二百七十四人になる。
クリスタルが創り出す簡易家屋は中々の大きさになるだろう。
スタンリーとオーウェン、クリスチャン殿下、カールトン殿下にはアイテムボックスをプレゼントした。そして、クリスタルはサンクチュリアを改良して移動用のバリアを創った。これで明日の準備は大丈夫だろう。クリスタルは甘いお菓子などビールやシャンパン! 贅沢品も用意した。
(遠足みたいだ! 転生前は遠足も修学旅行も行ったことがなかったなぁ……とても贅沢な遠足だ)
明日の準備を終えると眠りについた。
元タルニア領に出発だぁ!
朝食をとっていると、クリスチャン殿下とカールトン殿下がいつもの護衛を連れて大公家に来た。クリスチャン殿下とカールトン殿下も朝食に参加してデザートと紅茶を口に入れた。
クリスチャン殿下が、
「馬車を用意したよ。王家の紋章は外してあるが中は同じ仕様なっているから安心して!」
オーウェンは、
「誤魔化し切れるのか?」
カールトン殿下は、
「馬に乗った騎士は目立つよ」
スタンリーは、
「目立つだろうな。運任せだが…」
クリスタルはバリアの報告をしようと、
「移動バリアを創りました。認識阻害を付与しましょうか?」
「それいいかも!」
カールトン殿下が立ち上がった
「整列したら全体に移動バリアと認識阻害魔法をかけます」
スタンリーは、
「これで解決できたな。クリスタル様様だ。そろそろ行くか!」
一斉に皆で席を立ち玄関に向かった。馬車は五台もあった。アイテムボックスに入れようと思ったが、執事やメイドが乗っていたため諦めました。準備が整ったら出発です!
コールマン大公領の端で一泊して、ヘンダーソン領に入ると田園風景が連なる景色は絶景だ。黄金色の穂が風に揺れる風景は懐かしさを感じた。その穂の先に見えるのは果物の木だ。果物の木が沢山あり色とりどりで果物の楽園のようだ。ヘンダーソン領はシスティーナ国の食料自給率五割を担っている。領地は塀で取り囲みその塀には強化魔法がかけられていた。この広大な景色は宝物である。景色を見る限り簡易家屋の置き場所はありそうだ。
クリスタルは、
「お父様、簡易家屋を設置するのにいい場所ありますか?」
「この先に湖がある。その近くにしよう」
「はい、お父様ヘンダーソン領の先の領地はどのような領地ですか?」
クリスチャン殿下がスタンリーに目配せをしてクリスチャン殿下が話し始める。
「次の領地はジェンキンス領だな。ジェンキンス領も果物や野菜と食用肉を扱っているよ」
クリスタルは、
「食用肉はどのように育てているのか見てみたいですね!」
カールトン殿下が、
「前にも食用肉と食用魚の育成を見学したいと言っていたよね」
スタンリーはクリスタルが何か言おうとしていたが、遮るように、
「今回の日程では無理だよ。ほら着いたよ。ダーソン湖」
クリスタルは、常緑針葉樹に囲まれたエメラルドグリーンのダーソン湖に見とれていた。
「きれいー!」ダーソン湖に手を浸けるとヒンヤリとした感触が伝わり、気持ちよかった。
カールトン殿下が来て、
「場所探そうか?」
針葉林の葉の音が柔らかい音楽のようだ。整備はされていないが開けた場所が見つかった。ダーソン湖は目の前にありバーベキューが出来そうだ。
早速、イメージする。
創造魔法『簡易家屋』
そこに敵をすべて弾き飛ばすバリア、
結界魔法『サンクチュリア』を展開した。
「カールトン殿下釣りしませんか?」
クリスタルは釣竿を出して、付与魔法で『強化』した。
「カールトン殿下餌は何でしょう?」
「僕も知らないからルークに聞いてみるよ」
護衛の一人に聞いている。ルークも知らないようだ。
もう一人の護衛に、
「オリバー知らない?」
「肉で釣れますよ」
クリスタルは驚き、
「お肉を食べるのですか?」
オリバーは、
「食べますよ。魚も大きくて狂暴です。カールトン殿下とクリスタル様は僕が釣るのを見ていてください」
竿を受け取ると針に肉を付け湖に投げた。どんな魚かな? 楽しみである。
「あれは何ですか? こちらに来ていますよ」
「あれはぁ―、竜です! 閣下に知らせてきます!」
とオリバーはその場を離れた。
カールトン殿下は、
「みんな―、竜が来るから簡易家屋に入って――!」
皆が我先にと簡易家屋に入って行く。第二騎士団はカールトン殿下とクリスタルを守るように剣を構えた。そこへスタンリーが来て、
「あー、支障はない! この竜はヘンダーソン領の守り主水竜だ。ここで水浴びをして帰っていく」
「お父様この竜は人間を襲わないのですか?」
「襲わない。ヘンダーソン領の子供たちは竜の背に乗ったこともあるそうだ」
「ほんとですか? 私も乗せてくれないかなぁ。あー、本当に水浴びしていますね。気持ちよさそうです」
「うん、実物初めて見た」
「カールトン殿下も初めてですか? 私も初めてです。こちらに来ますよ」
竜はカールトン殿下とクリスタルの前に来て、二人にキスでもするように大きな顔を近づけた。クリスタルは手を竜の顔に近づけ触ってみた。
「水竜さん。こんにちは。クリスタルと申します」
水竜は優しくクリスタルの手に顔を近づけた。そして、クリスタルを引っ張り背に乗せた。スタンリーは焦り、
「クリスタル大丈夫か?」
「大丈夫です。水竜さんと遊びに行ってきます」
「あああ! え――、クリスタル――!」
スタンリーは動転して訳の分からない行動をしていた。
「叔父上、叔父上、大丈夫ですか?」
「ああ、カールトンか。行ってしまったぁ―」
「叔父上、あの水竜は人間を襲わないのでしょう?」
「そうだ。そうだが・・・」
クリスタルと水竜は風を切って大空を飛んでいた。
クリスタルと水竜は念話で会話している。
≪水竜さんどこ行くのですか?≫
≪私が住んでいるところ≫
≪ダーソン湖には住まないのですか?≫
≪・・・一日一回はあそこに行っている≫
≪では、また会えますね≫
山々に囲まれた湖が見えてきた。沢山の竜が住んでいた。
≪ここには水竜さんのお友達がいるのですね≫
≪そう、だからダーソン湖には住めない≫
≪素敵なところですね≫
クリスタルは沢山の竜と戯れ合った。
≪ここでは、水竜さんと他の竜と見分けがつきません。今だけ名前を付けていいですか?≫
≪うん≫
≪エマと名付けます≫
その時、クリスタルとエマの身体が輝いた。この時エマとテイマー契約が成立していたが、クリスタルは知ることもなくダーソン湖に帰ってきた。エマはクリスタルの傍を離れず、クリスタルはエマに寄りかかってお昼寝をしていた。
クリスタルとエマがお昼寝をしている間に、カールトン殿下とオリバーは釣りをしていた。針に肉をかけ湖に入れると、直ぐに、竿がグイグイと引っ張られる。オリバーは足に力を入れ踏ん張る。その時、オリバーが竿を上げると魚の顔が見えてきた。大きな魚の顔が見えて、オリバーがもう一振り、振り上げると、遥か後方に魚が飛んで行った。
オリバーは釣り慣れているのか、
「はい釣れました」楽しそうに笑っていた。
後ろに振り返ると、ピチピチと飛び跳ねている魚が見えた。
「丸焼きにして食べましょうか。レインボーマスナは美味しいですよ! 準備してきますね」と言って消えた。残されたカールトン殿下は巨体のレインボーマスナを、ずっと、ずっと、見ていた……………
(世界は広い………なんだか、楽しくなってきたな!)と、クリスタルは夢の中で叫んでいた。