第十話 入学式
今日は、入学式。
昨日の夜は、制服に付与魔法を付加する練習でかなり遅くまで起きていた。遅くまで頑張ったおかげで、付与魔法『自動完全修復・自動防汚洗浄・自動温度調整』が付与出来たが、戦闘系は制服に初めから付与されている魔法だけ。初めての付与魔法で良いものが出来たと思っているクリスタル。早速、お兄様の制服にも付与して眠りについた。しかし、朝起きてみるとこれで良かったのか??
………………と思ったが、入学式に向かった。
入学式が始まった。
「新入生代表、クリスタル・ロス・コールマン!」
「はい!」
代表挨拶のため壇上に向かう。
……………
壇上の前で凛とした佇まいで上品に礼をする。
「本日は、このような素晴らしい式を、挙行して頂き、ありがとうございます。私たち新入生は、これから始まる学院生活に期待と希望を持ち、胸を弾ませています。今から、アラバスター学院の一員になりますが、未熟で分からない事が沢山ありご迷惑をお掛けすると思います。お世話になる教職員の方々、先輩方、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。新入生代表クリスタル・ロス・コールマン」
華麗なカーテシーをして壇上から降りるクリスタル。
会場から大きな拍手が巻き起こった。
その先に目線を向けると、お兄様とクリスチャン殿下の姿が目に留まり思わず笑いそうになった。席に戻り隣のカールトン殿下に軽く礼をするとカールトン殿下も同じように軽く礼を返してくれた。
「カールトン殿下お兄様とクリスチャン殿下がいます」
「兄上、オーウェン兄さん何しているんですか?」
「可愛いクリスタルが心配になって来たんだよ」
「兄上、オーウェン兄さんの席は向こうですよ」
「誰も見ていないしいいじゃないか」
「嬉しいです。クリスチャン殿下、お兄様ありがとう」
「クリスタルそういう事じゃないから……もういいですよ。静かにしてくださいよー。兄上、オーウェン兄さん」
入学式が終わるとオーウェンとクリスチャン殿下とは別れ、クリスタルとカールトン殿下はごく自然に二人で教室に移動した。教室に入ると十人しかいない学生が仲の良い者同士で集まっていた。クリスタルとカールトン殿下は空いている席に隣同士で坐った。周りの学生も席に着き始め我先にとカールトン殿下とクリスタルの近くの席を奪い合っている風景を見て、カールトン殿下とクリスタルは優しく微笑み合った。
「皆さん! 自由に席についてください。皆さんの担任のジョゼフ・ツウ・アンダーソンです。よろしく! 先ずは自己紹介ですね。首席のクリスタル・ロス・コールマンさんからお願いします」
クリスタルはその場で立ち、
「初めまして、クリスタル・ロス・コールマンと申します。気軽にクリスタルと呼んでください。宜しくお願いします」
凛とした佇まいで礼をする。
「初めまして、カールトン・ロス・システィーナです。よろしく!」
王族特有の凛々しい礼をした。
クラスメイトの挨拶が終わり学院生活について説明を受けたあと、クリスタルが聞きたかった選択科目の説明が始まった。
「選択科目は、好きなだけ選択して学んでもよい。ただ、選択科目を多くとり過ぎて先輩の中には、二十五歳になっても卒業できない学生がいます。通常通り卒業したい学生は選択科目の内容をしっかり理解して、選択・提出してほしい。選択科目が決まった者は、私のところまで選択科目の申請書類を取りに来て記入・提出しなさい。…何か質問は?」
質問はなさそうだ。
「では、選択科目のパンフレットと学院内の地図を配ります」
魔法科は、Sクラス、Aクラス、Bクラス、Ⅽクラスに分かれており、Sクラスは十名・Aクラスは三十五名・Bクラス四十五名・Ⅽクラスは六十名となっており、魔法科全体で百五十名。クリスタルとカールトン殿下の教室は、魔法科のSクラス! トップ十名に選抜された。
他にも、騎士科・政治科・貴族科・商業科・薬師科・外交科がある。騎士科は、近衛騎士団を目指す者・政治家は、国政を務める者・貴族科は、執事長、メイド長を目指す者・商業科は、商業を目指す者・薬師科は、医師や薬の調合、新薬開発を目指す者・外交科は、他国の語学を学ぶとともに、他国の現状を分析して、他国とのかかわり方を学び、外交官、大使を目指す。学院は、以上基本七学科で構成されている。
選択科目は、所属学科以外の科目から選択するので、他科のパンフレットを見る。(あぁ、こんなにもあるのね、学びたい科目があり過ぎて、二十五歳先輩は抜け出せなくなったのかぁ。なんかわかる気もするわ! あれ、他の基本学科とは、校舎も別なのね。
どれにするかなぁ…………
決めた!!
私は、領地経営と剣術と経済にしよう!)
「クリスタル決まった?」
「私は、領地経営と剣術と経済にします。カールトン殿下は?」
「僕も同じ科にするよ」
「領地経営必要ですか? 殿下は、王城でクリスチャン殿下を支えることが将来の務めであると思いましたが・・・」
「それが一番だけど。でも、先は分からない。学んでおいて損はないよ!」
「そうですね!! それに、精神操作薬での犯罪のこともありますし、一緒がいいですね!」
二人には、仲間意識が芽生えたような・・・クリスタルは、なんだかほのぼのとした胸がときめく感じがした。
「一緒に書類取りに行きましょう!」
「うん! いこう!」
カールトン殿下と席に坐って待っていると、
「はーい、静かにしてください。これで説明会は終わりです。今坐っている席が明日からの席とします。午後から入学パーティーがありますが、参加は自由です。帰りに学院内を見学してから帰ってください。明日からは忘れ物をしないように! 解散!」
カールトン殿下から、
「選択科目の書類、取りに行ってから学院内見学しない?」と、お誘いがあり、
「はい! 先に書類を取りに行きましょう」と答えるクリスタル。
クリスタルは席を立ち、先生に向かって歩きながら、
「先生、今から選択科目の書類、取りに行っていいですか?」と話しかけた。
(くうー、また、やってしまった。ちゃんと立ち止まって話をしないと・・・ )
しかし、先生は「良いですよ」と気にしていない様子。
先生に書類をもらい、領地経営・剣術・経済を書いて、二人は楽しそうに微笑えんだ。
学院内見学は、お兄様にお願いするつもりだったクリスタル。
カールトン殿下に、「あの、お兄様も誘っていいですか?」
カールトン殿下は、「もちろん! では王族室に行こうか?」と答えてくれた。
王族室に向かう廊下から見える景色は、たくさんの木や花が歓迎してくれているようです。
「クリスタル、クリスタル城に何時呼んでくれるの?」
「何時でもいいですよ! 週末はお兄様も来ていますよ」
「週末に行っていいの?」
「はい、何時でもどうぞ。白いダリアが咲いて綺麗ですよ。あっ、そうだ、三階を多目的ホールにする予定でまだ手を付けていないのです。一緒に多目的ホール創りませんか?」
「参加する!」
「そうしましょう! クリスチャン殿下も呼んで四人で創りましょう」
「うん、わかった!」
カールトン殿下は、とても嬉しそうに可愛く笑った。
王族室に向かっていると、入学式会場のほうから煙が上がっていた。
「カールトン殿下」
クリスタルは煙の方を指さした。
「何事ですか」
「火事でしょうか?」
「先生に報告に行きましょう」
「そうだね」
教職員室に急いで向かうと、
「カールトン殿下、クリスタル大公令嬢どうしました?」
「あの、入学式会場のほうから煙が上がっています」
「あれはCクラス同士で決闘しているのです」
「行かなくていいのですか?」
「良いのですよ。私はSクラス担当ですから。Cクラス担当教師が解決します」
「そうなのですね」
カールトン殿下とクリスタルは拍子抜けする。
「クラスクラスで担当が違うのですね。カールトン殿下」
「そうだな」
入学式会場横の広場で魔法科Cクラスと剣術科Cクラスが決闘を繰り広げていた。
「ステラは僕のものだ!」
「お門違いな事を言って! ステラを悲しませるんじゃないよ!」
「そう言うお前は相手にもされていないんじゃないか!」
「ぬかせー! 覚悟しろよー!」
Cクラス魔法科の学生は魔法の杖を翳し魔法を発動させているが発動が遅い。発動する前に剣で攻撃を受け怪我人が出ている。早く辞めさせないと怪我人が増える一方である。やっと、先生が仲介に入り決闘を止めさせたが、根本の問題が解決していない。教師が個別で話を聞くと入学パーティー相手の取り合いで揉めていたことが分かった。その相手はどちらにもいい顔をして相手を決めていなかったようだ。そして、相手をはっきりさせるために教師がステラに聞いてみたが、決闘相手ではなく「他の学生と行く」と言っていたとのこと。そのことを話して聞かせると二人は項垂れていた。とんだ勘違い学生の暴走だった。
王族室に入ると先に来ていたクリスチャン殿下とオーウェンが、
「クリスタル! ほうじ茶出して!」と、
(はぁー)とおもったクリスタル。そこは、表情に出さず、
創造魔法『ほうじ茶4』ほうじ茶四本を出す。
「お兄様先程、決闘がありました」
「今時、決闘?」
「入学パーティー相手の取り合いで」
「それで?」
「取り合いしていた相手は、他の学生と入学パーティーに行くと言ったそうです」
「なんだそれ、何のための決闘だよ」
「ですよね~」
クリスチャンとカールトン殿下は、ほうじ茶をまじまじと見ている。
(ほうじ茶って知らないよね…不安げな顔しているけれど、
どんな反応になるのかな?)
オーウェンは、蓋の開け方から説明しているようだ。私は、知らない顔をして普通に飲む。
…………
…………
「「美味しい!!」」「「ほんとだ!」」
「なっ、冷たくてすっきりするだろう!」
(それは良かった!)
「クリスタル、ほうじ茶はどこの国のお茶なの?」
「その国には美味しいお菓子もありますよ」
王族室での四人のお茶会となってしまった。
(学院内見学は中止だよね…)とひそかにため息のクリスタルだった。