橘先生と魔王の犯罪2
そして翌日の放課後。
学園長室に五人が集まっていた。
魔王と胡桃と晴樹の学園側と、警察の二人組が向き合ってソファーに座っていた。
「犯罪組織?」
警察から説明をされたのは橘悠太の淫行ではなかった。最近問題になっている犯罪組織への警告だった。
「ええ。この学園の生徒が狙われている可能性があるので、注意をしておこうかと」
魔法師の勧誘、警察はそれを懸念していた。
全国では最近、謎のグループによる事件が相次いでいる。
傷害や特殊詐欺など多様な犯罪が増加傾向にあった。暴力団などではなく、警察も把握していない不良グループによる犯行と見られている。
なかなか尻尾がつかめないため、警察では魔法師の関与を疑っていた。監視カメラが不可解な方法で破壊されたり、魔法らしき現象で追跡をまいたりしたからだ。
一般的に警察では魔法師の犯罪を取り扱わない。
魔法師の事件は軍の直轄である特務部隊が担うことになっている。そのため、魔法がらみの事件はあまり得意ではないのだ。
「それってガイストの仕業ですか?」
ガイストというのは日本の代表的なテロ組織で、魔王もニュースでその名前は聞いていた。
「いえ、違うと思います。明らかに金を稼ぐことが目的なので、ガイストのような主義主張はなさそうですから」
「つまり、一般人の不良グループ?」
胡桃の問いかけに、警察官のひとりはうなずいた。
「魔法士を犯罪の手先に使おうとする動きは昔からありました。ただ最近は携帯の普及でどんどん勧誘の手口が巧妙になっているので、定期的に学園を訪問をしようということになりまして」
魔法師も学生なので、様々な誘惑に負けたりする場合がある。拉致されるような事件も起きていると警察官は説明をした。
「ら、拉致?」
「ええ。正式な魔法師とは違って、学生の場合は警戒心は薄いですし、能力を十分に使うこともできない。若いうちに洗脳してしまえば大きな戦力になりますからね」
魔法学園とはいえ、多くは能力を見いだされたばかりの少年少女。つけ入れられる隙はかなりある。
「特に気をつけてほしいのは地元出身の生徒ですね。幼い頃からの繋がりがありますから、強引に連れ去るまでもなく、連絡を取り合うことができるわけです」
学園には全国から集められた男女が通っているが、その比率は各地域によって異なる。
ここは大都市に設置された学園なので、地元の生徒が多くなっている。
魔法師ですらなかった時代の友人が悪い連中と繋がっていれば、よからぬことを考えていてもおかしくはない。
あ、と胡桃が声をあげ、視線を一気に集めたがすぐに顔の前で手を振り、
「いえ、なんでもないです」
「それでは、わたしたちはこれで」
警察官が出ていくと、魔王は隣に座る胡桃を見た。
「何か言うことはないのか」
「なんですか?」
「謝罪をする気はないのかと聞いている」
「あ、もしかして栗沢さんのことですか」
「これでわたしの無実が証明されたわけだからな」
「まだわかりませんけど、ただ、他に気になることはありますね」
「なんのことだ」
「その栗沢さんのことです。警察の人は地元の生徒が危ないと言ってましたよね。実は栗沢さん、この町の出身なんです」
他の地域から引っ越してきた生徒は学園内にある寮に住むこととなるが、ここが地元の場合は実家から通うことも許されている。
栗沢有華もそのひとりだった。
「栗沢さんが心配だとは思いませんか。橘先生にポイ捨てされて傷心のところを悪い連中に誘われたら、簡単についていってしまうかもしれません」
「貴様はどうしてもわたしを悪者にしたいようだな」
魔王はもはや呆れていた。もしかしたら胡桃に弄ばれているだけかもしれないと思うようになった。
「しかも栗沢さん、今日は学校を休んでるんです。体調が悪いと今朝、本人から電話があったんですけど、お昼に本人にかけたら全然出なくて」
「どうせ寝てるんだろう」
「そうかもしれませんけど、なにか嫌な予感がするんです」
「なら、直接確認するべきだな」
そう言って魔王は立ち上がった。
「行くぞ、わたしのはじめての家庭訪問に」