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魔王の真実5

携帯の着信音が鳴ったとき魔王は寝ていたが、以前と同じような過ちは繰り返さなかった。


ゆっくりと目を開け、ベッドの傍らに置いてある携帯に目をやった。

非通知で、画面に表示されている時刻は午前の八時。今日は休日。胡桃が起こしにきたわけでもない。


こちらに来たばかりの頃、魔王は携帯を投げつけて壊してしまった。

それで困ることは何一つなかったのでしばらくそのまま放置していたのだが、胡桃がそれではまずいだろうと新しい機種を買ってくれたのだ。


無視をしても良かったが、なにか胸騒ぎを感じたので魔王は電話に出ることにした。


「誰だ」

「ほっほっほっ、わたくしですよ」


向こうから聞こえてきたのは学園長の一条春樹の声だった。


「貴様か。朝には聞きたくない声だな」

「おやおや、ではいまから歌でも唄ってさしあげましょうか。わたくし、カラオケは得意でして」

「用件を言え。貴様と長話をする気はない」

「わかりました。では率直にこちらの要望を伝えましょう。橘先生……いや魔王。わたくし、あなたの血が欲しいのですよ」

「召喚に使うつもりか」

「いえ、そのぶんはすでに集めましたので」

「なら、なんのために使うつもりだ」

「芹沢先生があなたの血が欲しいとおっしゃってるんですよ」

「胡桃が?」


その名を聞き、魔王の顔が険しくなる。


「ええ。あなたの血が飲みたいとさきほどから繰り返してまして」

「そこに胡桃がいるのか」

「おりますよ。残念ながらまだお休みになっているので、直接答えることは叶いませんが」


胡桃は誘拐されたのだと、魔王は察した。そしておそらく、その目的は自分の血を得るためだということも。


それにしても血が飲みたいとはどういうことなのか、魔王にもよくわからなかった。

魔術を使う際の召喚文字として使用するならわかるが、春樹は胡桃が飲みたいと言っている。


胡桃本人がそんなことを望むわけがない。ということは春樹にとってそれがなにか意味のあること、ということなのだろうか。


でまかせ、ということも考えられる。こちらを翻弄して楽しんでいるだけかもしれない。


しかし、それではなぜ自分にそのことを告げるのか、という疑問も残る。危険を犯してまで連絡をしてくる、ということはそうせざるを得ない理由があるはずだ。


「貴様が何を考えているのか知らないが、わたしが胡桃のために自分の体を傷つけるとでも思ってるのか?」

「芹沢先生を見捨てるのですか?」

「見捨てる、ということは、貴様には胡桃を殺す意思があるということか?」

「さあ、どうでしょうか」

「わたしにはなんのメリットもない。人間がひとり死んだところで心が痛むわけでもない」

「なら、どうして電話を切らないのです?」

「……」

「あなたは芹沢先生に対してこだわりがあるからではないですか?」

「わたしが胡桃に対して恋愛感情を抱いている、とでもいいたいのか」

「ほっほっほっ、わたくしはそのようなことは言っておりませんが、なんにせよあなたは芹沢先生を見捨てることなどできないはずですよ」


はっきりと断言するその物言いが、魔王は気になった。


「貴様、なにかを知っているのか」

「まずは血を。話はそれからです」


春樹は具体的な方法を説明した。

どこを切っても構わないので、人が飲める程度の量を密閉できる容器に入れること。


そしてそれをこの前の廃棄された工場に置いてその場を離れること。周囲は完全に見張られているので、身を隠すようなことはしないこと。


「もうひとつ注意事項を。あなたはにおいを追跡することが得意なようですが、芹沢先生のものはすべて取り除いておりますので、無駄な努力はなさらないほうがよろしいかと」

「無駄かどうかはわたしが決めることだ」

「ほっほっほっ、それでは懸命なご判断を」


そして通話は切れた。

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