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魔王の真実

「なに、ストーカーだと?」

「はい」


授業が終わった魔王が職員室に戻って自分のデスクに座ると、戻ってきたばかりの胡桃から相談があると言われた。

とりあえず聞いてみると、胡桃のクラスの女子生徒の一人が最近、ストーカーにあっているらしいとのこと。


「そうか。警察へ行け」

「それは難しいですね。ガイストの仕業かもしれませんから」

「なんだそれは」

「忘れました?ガイストはこの国のテロ組織ですね。主に魔法士をターゲットにしているんです」


そう言えばニュースなどで以前に聞いたな、と魔王は思い出した。


ガイストは魔法士と一般人の混合の組織。魔法士が中心ではあるものの、志に賛同して集まる普通の人間もいる。


ガイストの主張は魔法士の解放。

魔法士は数が少なく貴重な存在ではあるが、それゆえに政治力というものはあまりない。


政治は数がものを言うし、特別な存在である魔法士が一般の事柄を決めるのはよくないという風潮もある。


ガイストはそういった環境を変えるべきだと主張している。魔法士は積極的に政治に参加し、一定程度の議席も与えられるべきだと。


ガイストは過激団体の側面もあり、破壊活動なども行うことがある。

そのため、支持の広がりは限定的ではあるものの、魔法士がメンバーの中心でもあるので警察はなかなか壊滅させることはできないでいる。特務部隊は出動条件が厳しく、機動的な働きは難しい。


「つまり、テロ組織にここの生徒が狙われていると?」

「ガイストは組織を強くするため、魔法士の誘拐も行うとされています。学園の生徒は未熟なので抵抗されにくく、格好のターゲットになってしまうんです」

「誘拐したからといって仲間になるとは限らないだろう。応じなかったら殺すのか」

「いえ、ガイストには洗脳することができる魔法士がいるらしいんです。なので無理やりに仲間にするみたいですね」


洗脳。魔王もそれには心当たりがある。

魔法によって相手の意識を変えることができる存在が人間側にはいる、という情報は持っていた。洗脳にはある程度の時間がかかるようなので、戦場で見たことはなかったが。


「なら全員、寮暮らしにさせればいいだろう」

「無理ですよ。そうすると休日も拘束しないといけなくなりますから」

「ガイストの仕業であると確信しているのか?」

「いえ、そういうわけではありませんが」


もしもガイストの犯罪であるというのなら、魔王も協力しないわけでもなかった。

未熟な生徒を狙うなどという卑怯なやつは許せなかったし、相手がテロリストなら多少の荒事も許されるだろうと思った。


魔王はもっと激しく体を動かしたかった。本物の魔王だったときは毎日のように部下の稽古の相手をしていたので、こちらでの生活は物足りなかったのだ。


「一般人かもしれない相手ならわたしの出番ではないな。弱いものいじめは趣味ではないからな」

「それがその、本人の希望なんです」

「希望?」

「はい。橘先生にこのことを伝え、対応してほしいとのことでした」

「ストーカーされている女子がわたしに助けを求めた、ということか」

「そうです」

「なぜわたしに?」

「魔王だからじゃないですか?テロリスト相手でもしり込みしなさそうですから」

「その女の名前はなんだ」

「成瀬明日美さんです」

「そうか。なら問題ない」

「問題ない?どういうことですか?」

「そのストーカーはわたしだ」

「え?」

「わたしが成瀬明日美をつけていた、ということだ」


胡桃はその場に崩れ落ちそうになり、どうにか机に手をついて姿勢を保った。


「……ロリコンに始まり、ロリコンに終わる」

「おい、貴様、なにか勘違いをしていないか」

「勘違いもなにも、いま自分で認めたじゃないですか!女子生徒を妊娠させたかと思えば、今度はストーカーだなんて、いったいどうなってるんですか!」

「混乱しているようだな。いまの貴様と話すのは危険かもしれない」


魔王は椅子から立ち上がった。

その腕をガシッとつかむ胡桃。


「今日もストーカーするつもりですか」

「成瀬明日美本人に話を聞く。いままでは様子見だったが、相手がわたしを指命したということはなんらかのメッセージかもしれないからな」

「様子見って、ストーカーはそれそのものが犯罪ですよ!」


まったく騒がしい女だ、と魔王はため息をついた。


「わかった。説明してやる。だから落ち着け」


魔王に諭されるように言われ、胡桃は魔王と一緒のタイミングで自分の椅子に座った。


「最初に一つ聞きたい。成瀬明日美とはどんな人物だ?」

「どうって言われても、普通の生徒だと思いますけど。ちょっと表情に乏しい気はしますけど」

「さきほどのガイストではないが、何かしらの組織には所属はしていないのか」

「組織?どういうことですか?」


胡桃の問いかけに、魔王は難しそうな顔をしたまましばらく黙っていた。


「……初日のことは覚えてるな」


「初日?橘先生が飛び降りた日のことですか?」


魔王は頷いた。


「この世界に来て橘悠太として目覚めたとき、わたしは校舎に沿って並べられた生け垣の上に倒れていた。そこではじめて目にした人物が成瀬明日美だった」

「それはおかしいですよ。最初に駆け寄ったのはわたしなんですから」

「そんなことはわかっている。わたしが見ていたのは屋上のほうだ」

「屋上?」

「ああ。屋上にはこちらを見下ろしている一人の女子生徒がいた。それが成瀬明日美だった」


元々の魔王はかなり目が良い。

一つの能力とも言えるくらいに遠くまで見ることができた。


その素質はある程度この世界でも引き継がれていたので、屋上の人物であってもハッキリと顔を確認することができたのだ。


「あのタイミングで屋上にいた、ということはこの体、橘悠太の飛び降りにも関わっている可能性が高い。だからわたしは成瀬明日美をつけていた。しかしなにも不審なところがないため、相手の反応をあえてうかがう目的でこちらの存在に気づけるようにした。その結果の相談、というわけだ」

「成瀬さんが橘先生を突き落としたというんですか?」

「さあな。何度か直接聞こうかとも思ったが、まだこの世界に慣れていない段階では危険だと判断した。しかし、向こうから接触するつもりがあるなら、逃げる理由はない。成瀬明日美はいまどこにいる?」

「昇降口で待ってると思います」

「とりあえず会ってみるしかなさそうだな」


二人はその足で昇降口へと向かったが、そこに明日美の姿はなかった。


「あれ、おかしいですね。今日はわたしが車で送ってあげると言ったんですけど」

「勝手に帰ったのか」

「そうみたいですね」

「……嫌な予感がするな」

「そうですか?ストーカーが橘先生なら危険はないと思いますけど」

「ストーカーはわたしだけではないと言ったらどう思う」

「え?他にもいるということですか」

「ああ」


明日美の様子をうかがう中で、魔王は何度か怪しい人影を目撃したことがある。

チャラついた感じの二人組みの男で、ストーカーというよりは、明日美を監視しているような感じだった。


「そいつらが何者かは知らない。一度あとをつけてみたが、誰に会うわけでもなかった」

「携帯で誰かから指示を受けているんでしょうか」

「のんびり話している場合か。今頃襲われているかもしれないんだぞ」

「でも、まだ明るいですから、大丈夫だと思いますよ」

「成瀬明日美は普通の生徒ではない。わたしの存在だけではなく、もう一方の追跡者も理解していた」


魔王が見る限り、成瀬明日美は単なる魔法士とは言えない。他の生徒とは明らかに違い、ある程度訓練を受けた人物のように思える。

さりげなく周囲を観察し、歩き方や佇まいからもそのように判断ができる。


「だからこそ、危険な相手にも狙われている可能性が高いと言える。もし、成瀬明日美がわたしではなくもう一方の追跡者を警戒して相談をしたのなら、帰り道でも安全とは言えないだろう」


「じゃあ、早く追いかけましょう」

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