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癒しと呪い8

そういうわけで魔王と胡桃はこの日の夜、通り魔事件が起きた辺りを見回ることにした。


「な、なんでわたしが」


そこにもう一人遅れて加わった人物がいる。

新城綾香だった。


「どうせ一日中部屋にいたんだろ。少しくらい歩け」


綾香を家から連れ出したのは魔王だった。


夜中に突然家に現れた魔王に新城家は混乱した。

魔王は勝手に家に上がり、綾香の部屋まで行った。

抵抗する家族には魔術を使うぞと脅し、騒動を察して部屋から顔を出した綾香の腕を引っ張りそのまま家を出た。


「幽霊退治ならあんたらが勝手にやればいいじゃない。わたしを巻き込まないでよ」

「貴様にとっても悪いことではない。もし幽霊退治に貢献するなら、奉仕活動の対価としてその死霊を開放できる方法を教えてやってもいい。」

「消えるのを待つしかないんじゃないの?」

「他にも方法はある。それを知りたいならせっせと幽霊を探すことだな」

「通り魔事件が発生したのは主にこの通りみたいですね」


先頭を歩く胡桃が立ち止まる。住宅街にある通りで、周辺に店などはない。すでに9時を回っていて、交通量も少なかった。


「橘先生が女性を救ったのもこの辺りですか?」

「そうだ」


胡桃は手にしている懐中電灯で辺りを照らした。


「誰も歩いていませんね。駅も遠いですし、歩くのはバスの利用者くらいかもしれませんね」

「では、さっそく呼び寄せるか」

「呼び寄せる?」

「幽霊が現れるのを待っていても時間の無駄だ。やつらが好むものを使って呼んだほうが効率的だ」

「でも、どうやって」

「いるだろ、ここに」


魔王は綾香の背中を手で押した。


「幽霊は死者だからな。死霊を身にまとった人間は仲間に見えるはずだ」


魔王はそういって綾香に視線を向けた。


「よし、新城綾香、叫べ」

「さ、叫ぶ?」

「ここに自分はいると幽霊に伝えろ。人を認識できるのだから声も届くはずだ」

「近所迷惑なんじゃ」

「文句を言ってくるやからはわたしが対処する。貴様は幽霊に集中しろ」


そんなの嫌だ、と綾香は反論したい気持ちを必死にこらえた。この体を治せるというのなら、一時的な屈辱も受け入れるしかない。


「ゆ、幽霊さーん」

「ふざけてるのか。腹の底から声を出せ!」

「幽霊さん、出てきてください!」


綾香が何度かそう叫ぶと、向こうの道路からぼんやりとした人影が現れた。

幽霊かもしれない、と綾香は思った。


綾香はまだ魔法士として完全に覚醒はしていないので幽霊は見たことがなかったが、全体的な雰囲気が人のそれとは違っていた。


人の形をしていることは間違いがない。手足がしっかりと確認できる。ただ、輪郭はぼんやりとしていて、顔のパーツも曖昧だった。


「ちょっと、あれ幽霊なんじゃ」


そう言いながら振り向いた綾香の目には、真っ暗な道路しか映らなかった。さっきまで後ろを歩いていた教師二人がいない。


「え、ちょっと、どこ行ったのよ!」


再び前に目を戻せば、幽霊がこちらに迫ってくる。綾香は癒し手で、しかもまだ学園に入学したばかりの一年生。攻撃能力などない。


「や、ヤバ、逃げないと」


大して危険なものではないと聞かされていたが、好んで近づきたいようなものでもない。綾香は駆け足でその場を離れようとした。


しかし、いまの綾香は死霊が取り付いた状態。体力などすぐになくなり、数百メートルもいかないうちに息が切れてしまう。


「な、なんなのよ、もう。いい加減にしてよ」


後ろを確認をするとやはり幽霊は追ってくる。


しかもその手にはさきほどまでなかった武器のようなものが握られている。

月の光を反射するそれは鎌のように見える。漫画なんかで死神が持っているような大きな鎌だった。


「なによ、それ、いったいどういうことなのよ!」


そう叫んでも、助けに来るものはいない。

綾香はその場に座り込んだ。もはや逃げるような力は残されてはいなかった。


綾香は目を閉じた。

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