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癒しと呪い2

「そうそう、橘先生、お手柄でしたね」


車の運転中、胡桃がなにかを思い出したように言った。

いまも魔王は胡桃の車で学校に行っており、今日も助手席に座って学校へと向かっている途中だった。


「なんだ唐突に」

「昨日のことですよ。通り魔に襲われた女性を救ったんですよね」

「……」


結局、魔王はあれから悲鳴の主を探し続けた。

人間を心配したわけではない。せっかくの散歩を邪魔した無粋な犯人でも捕まえてやろうと思っただけだ。


その途中に道路で倒れていた女性を見つけ、犯人の情報でも聞いてやろうと思ったが気絶していたので病院まで運んだ。


「どうしてわたしだとわかった?」


魔王は病院のドアをどんどんと叩き、人が出てきたのを確認してからその場を立ち去った。名乗ることなど一切してはいなかった。


「空中を歩く人なんて他にはいませんよ。もし自分だとばれたくなかったら地道に地面を歩いていくべきです」

「……」

「あと、被害に遭われた女性はなんともなかったので安心してください。今日にも退院するそうですよ」

「なにもなかった?」

「はい。何かの衝撃を感じて倒れたらしいんですけど、傷は確認できなかったみたいです」


確かに魔王が抱き上げたときも、目立った傷はなかった。そのときは暗くて見えないだけかと思ったが。


「なら、どうして悲鳴を上げたのだ」

「悲鳴を聞いて助けに向かったんですね」

「いいから答えろ」

「わたしに聞かれても困りますよ。橘先生への感謝とともに、病院からそういう連絡があっただけですから」

「病気でもないのだな」

「一応検査はするそうですけど、たぶん違うと思います。似たような件が他にもありますので」

「似たような件?」

「はい」


胡桃によると、ここ最近、夜中に何者かに襲われるという事件が相次いでいるという。


今回と同じように体のどこかに殴られたような痛みを感じ、その場で気を失ってしまう。しかし、その後に調べても怪我をしておらず、なんの問題もなく日常生活を遅れるという。


「理由はまだ判明していないらしいですね。誰も怪我はしていないので、警察も本気で調べようとはしていないみたいです。最初は模倣犯との見方もあったみたいですけど、どうも違うみたいですね」

「模倣犯?」

「はい。橘先生、というか魔王様がこちらへとやって来る前のことなんですけど」


数ヶ月前、この街では連続殺人事件が発生していた。

夜、何者かによって通行人が相次いで刺し殺されたのだ。


被害者が三人ほど出たあと、犯人は逮捕された。

フリーターの男で、動機はいつまでも正社員になれない焦り。会社員風で、反撃できなさそうな女性を狙ったという。


「しかし、タイミングを考えると何らかの関連はあるのではないか」

「そうかもしれませんけど、誰も怪我はしていませんから」


車が学園の門を通り抜けたとき、二人は校内の異変にすぐに気がついた。

なにやら騒がしい。複数の生徒が一ヶ所に集まっていて、みなが空を見上げている。


「どうやら、自殺のようだな」

「え!」


胡桃が慌てて車を降りると、確かに屋上には一人の女子生徒がいた。ギリギリの縁のところに立ち、柵を後ろ手で握っている。

胡桃と魔王は生徒が集まっているところまで行った。


「な、なにをしてるんですか、早く降りてきてください」

「さっさと飛び降りろと言っているようにも聞こえるが」

「違います!」


屋上にいる女子はまだ死ぬことへの躊躇いがあるのか、なかなか飛び降りようとはしなかった。


「それより橘先生、彼女を救ってください!こういうときのための空中散歩ですよね!」

「違う。あの女を救いたいなら貴様らが魔法を使えばいいだけだろう。例えば落ちる直前に下から風を吹かせて衝撃を和らげるとか、な」

「力加減が難しすぎます。助かる保証はありません」

「なら諦めろ。一人死んだところでなんの問題もない」

「橘先生のせいだったらどうするんですか!」

「なに?」

「橘先生が飛び下り自殺なんてしたから、それに感化されてあの子も自殺を考えたんじゃありませんか!」


そのとき、複数の悲鳴が上がった。

屋上にいる女子が柵から手を離し、空中に身を投げたのだ。


「まったく、仕方がない」


魔王はため息をつくと、生徒の間を縫って、まるでここに飛び降りろと言わんばかりに出来ている空白地帯まで進み、地面に手を向けた。


次の瞬間。


ぶわっと柔らかい音がして、飛び下りた女子の体が軽くバウンドした。魔王が召喚した巨大なベットのマットレスに受け止められたからだ。


飛び下りた女子はなにが起きたかわからず、ベッドに横たわったまま呆然としていた。

魔王はそんな彼女を見下ろして言った。


「さっさとどけろ。これはわたしのベッドだ」

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