娘として5
翌日は学校が休みだったが、魔王と胡桃は学園に姿を見せていた。麗の友人から話を聞く約束をしていたからだ。
成田優衣は一年生の時、麗ともっとも親しくしていたと当時の担任から聞いた。
胡桃が確認をすると本人もそうだと認めたので、誰もいない教室で話を聞くことになった。
「麗とは確かに仲がよかったです。わたしは結構遠くから来たので、こちらのことは麗が色々と教えてくれたんです」
縁もゆかりもないこの土地にやってきた優衣は、当初は周囲になかなか馴染めなかった。
地元からの進学組も多く、遠目に楽しそうな同級生の会話を眺めるばかりだった。
そんな彼女に最初に声をかけたのが麗だった。
いつも一人でいる彼女を放っておけなくなったという。それは麗自身がかつて味わった孤独でもあった。
ヤクザの娘として生まれ良かったことなどなにもなかった。
同級生も教師も腫れ物に触るような扱いで、本当の麗を知ろうとする人は一人もいなかった。
才能が認められて学園に入学をしたあとは、麗の家庭を気にする声はあまり聞かれなくなった。
ヤクザよりも魔法士のほうが特殊だったからだ。
実際、優衣もそうだった。麗がヤクザの娘だと知ってもさほど衝撃は受けなかった。
「麗は朗らかな女の子で、とても話やすかったです。学園に入学して吹っ切れたみたいで、ヤクザの娘であることも自虐的に口にしてました」
しかし、二年生になってクラスが別々になってからは疎遠になったという。
「それまでは休日や放課後に街を案内してくれたりしたんですけど、二年生になってからは忙しいといって断られました。理由を聞いても全然教えてくれなくて……」
「新しい友達ができたとか?」
胡桃の言葉に、優衣は首を振った。
「そういうのじゃないんです。たぶん」
「たぶん?」
「彼氏ができたんです」
「彼氏?」
「はい」
春休みに麗と優衣は街の中心部に出掛けという。
そのとき、二人組みの大学生の男性に声をかけられた。
ナンパ目的だったので優衣は嫌がったが、麗は普段からいかつい男を見慣れているせいか、平然と話し込んでいた。
学園では携帯の使用が禁止されている。
他の地域からやってきて寮暮らしの優衣は携帯を持っていなかったが、実家から出てきた麗はそうではなかった。
男性と番号を交換し、その場は別れたという。
その後のことは優衣は知らない。
おそらく麗は携帯であのどちらかと連絡を取り、それで深い仲になったのではないかと優衣は思っていた。その結果、自分に構っている時間がなくなったのだと。
「その男性がどこの誰かはわかる?」
「いえ、名前ももう忘れてしまって。あ、でも大学名なら覚えています」
優衣は近所にある大学名を口にした。
「大学名だけだと特定するのは難しそうですね。その男性から事情が聞ければよかったんですけど」
「意外に簡単かもしれないな」
魔王が呟くように言った。
「どうしてですか?」
「わからないのか。来栖麗はおかしくなった原因はその男の可能性が高いと言っているんだ」
「その男性に何かをされたということですか?」
「逆だ。その男が来栖麗の父親に危害を加えられた可能性が高いだろう」
「え、どういうことですか」
「来栖麗は父親を殺したいほど憎んでいる。それはなぜだ。自分の愛する彼氏に何かがあったからではないのか。そしてそれを主導したのが父親だったからではないのか」
父親に対して殺意を抱いているということは、二人の間を裂くように父親が仕向けた可能性がある。
麗はそれに激怒してあのような発言をしたのではないかと魔王はいった。
「強引に別れさせられたか、暴行を受けて監禁されているか、もしくはすでに殺されているか」
「こ、殺されてる!?」
「否定はできないだろう。相手はヤクザだ。なにをしたって驚きはない」
「で、でも、ヤクザでも娘に恋人ができた程度で人を殺すなんてしないと思います」
確かに、その点は魔王も疑問だった。
ヤクザだからこそ一般人に手を出す危険性は知っているはず。
何か特別なことがなければ事は荒立てない。娘が魔法学園に通っているなら、なおさらだ。
「とりあえず、さきほどの大学に確認をしてみたらどうだ。連絡が取れなくなっている学生がいるかもしれない」
「わかりました」




