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娘として2

二人は指定された警察署にすぐに向かった。

魔王としてはまったく関係のないことなのでなぜ胡桃に同行を強制されたのかはわからなかったが、学園長からもそのように言われたので渋々ついてきた。


来栖麗はさほど落ち込んでいる様子はなかった。警察官に囲まれながらも仏頂面で、反省しているようには見えなかった。


「来栖さん、本当なんですか、万引きをしたというのは」


警察署に駆け付けた胡桃がそう聞いても、麗は答えなかった。


「あの、わたし担任なんですけど、いったい何が起こったんですか」


慌てて駆けつけたのでまだ細かい事情を聞いてはいなかったので、胡桃はその場にいる警察官に質問をした。


今日は平日だったが、魔法学園は休校となっていた。魔王による森林の召喚によって周囲に混乱が生じたからだ。


警察官によると、麗は昼間から買い物に出掛けていたという。大型のスーパーに立ち寄り、そこであるものを盗んだという。


その盗んだものは包丁だ、と警察官は言った。


「ほ、包丁?」


愕然とする胡桃。

理由についてはわからないという。麗が警察署でもなにも話していないからだ。


「どうして包丁なんか盗んだんですか」

「……」


胡桃の問いかけに、麗はやはり答えない。


「お店の方はなんといってたんですか?事情は聞いたんですよね」


警察官によると、店からはすでに今回の件は不問にすると言われたという。


「この国では万引きはそれほど大きな犯罪ではない、ということか」


店の対応を不可解に思った魔王がそう聞く。


「いえ、そういうわけでは」

「なら、どうして罪に問われない?」

「それは、その」

「しかも盗んだのは包丁だ。何かしらの事件に繋がる可能性がある。これを看過するのは大人として許されることではない。そうではないのか」

「……」


胡桃は黙ったまま、何も答えない。

魔王の言っていることは珍しく正論だったが、店や警察の腰がどこか引けている気持ちも理解できた。


「学園の生徒だから特別扱いを受けているのか?もしそうなら問題だな。ただせさえ人とは違う能力を持っている上、法律の枠組みすらも抜け出してしまう。そんな甘やかされた環境では人としてダメになっていくだろう」


それでも胡桃は黙ったままだった。


「もうひとつ、疑問がある。こういう場合は普通、学校ではなく自宅へ連絡をするものだろう。なぜ学校に連絡を寄越した」


魔王がそう聞くと、警察官は「本人の希望」だと答えた。連絡をするなら学校がいいと答え、胡桃と魔王、橘悠太を指名したという。


「最初からわたしに会うのが目的だったということか」


担任の胡桃はともかく、面識もなにもない魔王を呼ぶということは、魔王のほうに用事があるのは明白だった。


「おい、来栖麗といったか。わたしに用があるらしいな」

「……あんた、魔王だって聞いたけど」


麗がそこで初めて口を開いた。魔王を見る目には強い意志が込められている。


「だとしたら、どうだというのだ」

「学園坂に巨大な森が出現した映像を見たけど、あれってあんたがやったんでしょ」

「それは否定しない。貴様が森で遊びたいというのなら、いまここに出現させてやっても構わないが」


「魔王ってなんでもするんだよね。どんなひどいことでもできるんだよね」

「魔王に対する認識はこの際置いておこう。それよりも貴様の言い方だと、わたしにひどいことをしろと言っているようにも聞こえるが、それは一般的に警察官の前では口にしないほうがいいものではないのか?」


しかし、警察官は咎めるような様子はない。

魔王とも麗とも距離を取り、離れた場所から傍観している。魔王を恐れているわけではない。麗のほうへちらちらと視線が向けられているのが魔王にはわかる。


「ふむ、どうやら警察官は貴様に早くこの場を離れてほしいようだ。ここで警察官の素質あれこれを語るつもりはない。さっさと貴様の望みとやらを聞いておこう」

「うちの父親を殺してよ」

「なに?」


さすがの魔王もその発言には驚きを隠せなかった。


「魔王ならそれくらいできるでしょ。ねぇ、できるんしょ」


麗は椅子から立ち上がり、魔王に詰め寄った。

そのとき。


「お嬢!」


スーツを着た強面の男性が部屋に現れ、麗へと近づいた。


「葛西、どうしてここに」

「うちの情報網をなめないでください。それよりも事実なんですか、万引きをしたというのは」

「あんたには関係ない。さっさと帰って」

「そういうわけにはいきませんよ。親父だって心配をしています」


麗はきつい目付きで強面の男を見た。


「心配?あの男がなにをしたのか、あなただって知ってるんでしょ!」

「お嬢がなにを疑ってるのかはわかります。でもおれは正確なことは知りません。おれの仕事はお嬢を守ることですから」


「女子高生に軽く巻かれるくせに、よくボディーガードなんて言えたわね」

「……すいません。とにかく、今日は帰りましょう。どうせいつまでもここにいることはできませんから」


そう言われると麗も返す言葉はない。渋々立ち上がり、部屋から出ていった。


「胡桃。あの二人の関係について聞かせてもらおうか」


胡桃はしばらく間を置いたあと、こう言った。


「来栖麗さんはヤクザの娘なんです」

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