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友情の証6

沢田蓮はその光景を見たとき、唖然とした。あるはずのないものがそこにあったからだ。


登校するために家を出たとき、蓮の気分はまだ重かった。さわやかな朝の空気を吸っても気持ちはどんよりとしていた。


覚悟は決めていた。

担任であり顧問でもある橘にはすべて見透かされているようだったから。

でも、本音としては行きたくなかった。罪悪感がいまだに消えてはいなかったからだ。


そんな蓮の目を一瞬で覚ましたのが、学園坂の光景だった。


学園坂は魔法学園に続く緩やかな上り坂のことを指す言葉で、そこにあるのは当然道路でしかない。


片側二車線であるものの緊急時を想定して道路はかなり幅広に作られており、複数の大型車両が行き交っても詰まるようなことはない。


両側の歩道も同じようにゆったりと歩けるようなスペースがあり、自転車道も設置されている。


とにかく大きくて長い坂として全国的にも有名で、これを見るために観光客が集まることも珍しくはない。


この日も大勢がその学園坂を見上げていたのだが……。


今日は平日、しかも早朝なので観光客がいる時間帯ではない。

そう、学園坂を見上げているのは学園の生徒や地元の住民だった。


学園坂の前は人混みで溢れていた。

普段と違う光景にみなが目を疑っていた。


本来あるべきはずのアスファルトの道路がなく、鬱蒼とした木々が坂を埋め尽くしていた。そこにあったのは森だった。


「な、なんだよ、これ」

「ようやく来たか。もう少し遅れたら迎えに行くところだったぞ」


人混みのなかから蓮に近づいてきたのは魔王だった。


「こ、これはなんなんだよ」

「見ての通りの森林地帯だ」

「いや、だからそれがなんでこんなところにあるんだよ!」

「わたしが召喚した」

「え?」

「わたしが魔術を使って異世界から召喚した。貴様のためにな」

「……まさか、本当に魔王なのか」


蓮は昨日、学園の知人に明日学校に行くことをで携帯で伝えた。


そのとき、相手からは橘には気をつけろよ、という返信が帰ってきた。あいつは魔王らしいからな、と。


どうやら橘は学園で魔王と名乗ったらしい。

ほとんどの生徒はそんなことは信じていなかったし、蓮も冗談でしかないと思っていた。


しかし、現実に坂道はなくなっている。

その代わりに森が出現している。周囲の反応を見ても、これが一晩のうちに現れたのは間違いがなかった。


「これを使え」


魔王は棒状のものを蓮に向かって差し出した。それは木刀だった。


「しばらく霊剣は使ってないんだろ。ならとりあえず武器は持っておいたほうがいいだろう。ゲームの主人公は拳で殴るよりも剣を使った方が様になるからな」

「……ゲーム」

「ゲームが好きなら引き返すことはしない、そうだろ沢田蓮。せっかく貴様のために用意した舞台だ。せいぜい楽しむがいい」

「おれにここを抜けろっていうのか」

「貴様が以外に誰がいる?子供が迷いこんだら大変だ。さっさと行け」


魔王は蓮の背中を押し、森の入り口へと立たせた。


「なぜ武器を渡されたのか、わかるな」

「……この中に、モンスターがいるのか」

「大したモンスターではない。貴様でも十分に倒せるレベルだ。しかし、気を抜けばやられるだろう。生きるか死ぬか、それは貴様の気持ちの問題ということだ」


ーーやはり魔王には全てばれている。


なら、これは罰なのか。

蓮は自分に問いかけた。それならそれでも構わない。


現実離れした光景を見て、蓮の心には先程まであったモヤモヤが消えていた。

橘が、魔王がこれを乗り越えることが自分を認める条件というのなら受け入れるしかない。


蓮はモンスターの待つ森の中に一歩、足を踏み入れた。

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