橘先生と魔王の犯罪6
「部活だと?」
「はい。そろそろ顧問として復帰してもいいんじゃないかと思いまして」
放課後、魔王が胡桃から提案されたのは部活の顧問として現場に戻ることだった。
「霊剣部は魔法学園にとって重要な部活ですよ。魔法学園は地域にひとつしかないわけですから、最初からみんなの期待を背負ってるんですからね」
「なんだその霊剣部というのは」
「その名の通り、魔力で作った剣で戦う競技です。正式には霊剣道部ですね」
胡桃はそういって剣を振る真似をしたが、それでなにがわかるというわけでもない。
「学校で殺し合いをするのか?」
「しませんよ。競技と言ったじゃないですか」
魔法士はそれぞれ武器、というものを持っている。
それは魔法によって顕現する心の武器だ。
人によって形が変わるもので、人によって剣だったり槍だったりする。霊剣部ではその霊剣を使い、試合形式で相手を倒す。
「面倒だな。他のやつに任せてくれ」
「そんなこと言わずに。どうせ暇なんですよね」
「誤解をしているようだな」
魔王はまだまだこの国で知らないことが多々ある。
そこで学校が終わったあとには情報収集の一環で町を見回ったり、読書で知識を増やそうとしている。
他人から見たら暇潰しみたいなものかもしれないが、魔王はあくまでも真剣だった。
「そもそも、魔術しか使えないわたしに魔法の部活を担当しろというのが無理がある。胡桃、貴様はそうは思わないのか」
「でも、本来の橘先輩も一般人だったんですよ」
「なら、そもそも学園が力を入れてはいないということだろう。誰も担当しなくても、大した問題ではないということだ」
「霊剣部は魔法学園の花形ですよ。学園の対抗戦ではもっとも盛り上がる競技ですから」
一年に一度、全国の学園が一同に会して魔法の腕前を競う大会がある。
学園の生徒なら誰でも出れる資格はあるが、本格的な練習をはじめた三年生が主となる。
競技は様々で総合力が問われる内容となっていて、その学園の指導力が試される大会でもある。
「橘先生は剣術が得意だったみたいです。それで選ばれたんでしょうね。霊剣は剣を振るう技術も必要ですから」
胡桃がそこまで言ったところでかわいらしいメロディが鳴った。胡桃の携帯だった。
「あ、栗沢さんからですね」
胡桃の携帯に届いたのはメール。学園内で通話は難しいが、メールは比較的安定している。
「妊娠について聞きたいことでもあったのか」
「わたしには妊娠の経験はありません。電話の相手は有華さんではなく、お母さんのほうです」
「なら用件はなんだ」
「有華さんの様子がおかしいので家に来てほしいといってました」
「具体的にどんな様子だと言ったのだ」
「さあ、とにかく早く来てほしいとだけ言われたので」
「なら。さっさといけ」
「はい」
と胡桃はいって魔王の腕をつかんだ。
「なんのつもりだ?」
「橘先生も一緒に行きましょう。なんだかんだいっても、栗沢さんとの間に繋がりがあるのは事実ですから」
「ついさっき部活の顧問をしろといってたはずだが」
「緊急事態ですよ。教師なら臨機応変に対応しないといけません」
魔王はしぶしぶという感じで立ち上がった。
実を言えば最初からついていくつもりではあった。栗沢有華の身に何が起こったのか見当がついていたからだ。




