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ヒルショーという男に取り憑いたクーマというヒゲキの悪魔の記録。現在進行形。

作者: 合沢 時男

 作者はヨシジンシティの住人です。予想を上回る災害に見舞われて、毎日後片付けにおわれています。疲労が蓄積され続けています。この小説に書いたように思わないと、気力がわきません。

 また今日も雨が降っています。雨音が嫌いだ!

 皆さんは、この世の中にヒゲキという悪魔が存在することを知っていますか? 世界中にヒゲキはいます。

 ヒゲキは、リーダーとなる者に取り憑き、そのリーダーが治める所の民衆を不幸にし、人々の悲しみや苦しみ、なげきなどを食料としている悪魔です。

 悲しみや苦しみが食料? と変に思った人もいるかと思いますが、彼らはそういった負の精神エネルギーを食料にしているのです。

 さて、心優しい王様がいるサンブック王国にも多くのヒゲキが住み着いていました。もちろん人間が彼らに気づくことはできません。だって人間の目には彼らが見えないのですから。

 バイアという名前のヒゲキは、サンブック王国の大臣に取り憑いて、サンブック王国の国民に大きな不幸をもたらそうとしていますが、今回はその話ではなくて、サンブック王国の西方にある地方の町、ヨシジンシティのリーダーで、ヒルショーという名の男が、クーマという名のヒゲキに取り憑かれた話をしましょう。

 ヒゲキは時間をかけて不幸を生み出します。人間にとっては、一年間は長い時間ですが、ヒゲキにとっては短い時間です。だって、ヒゲキは人間よりも何千倍、いや何万倍も長く生きられるのですから。

 クーマはヒゲキの中では、力の弱い下級ヒゲキでした。不幸を生み出すために取り憑くリーダーも見つけられず、ちょっと焦っていました。いくら気の長いヒゲキとはいっても、このままでは、食料にありつけませんから。

 そこで、クーマは良いアイデアを思いついたのです。

 自分がリーダーを作り出して、その者に取り憑けばいいと。

 クーマはリーダーになれそうな人間を探しました。

 すると、ヨシジンシティにヒルショーという名の若い男を見つけました。ヒルショーはヨシジンシティの議員の一人でした。

 クーマは、彼を次のヨシジンシティのリーダーにしようと計画しました。


「ヒルショーよ。お前はリーダーとなるために生まれた男だ。リーダーとなるために、次に行われるヨシジンシティのシティ長選挙に立候補するのだ」


 クーマは毎晩、ヒルショーが深い眠りにつくと、そう囁き続けました。

 クーマの計略に、まんまとはまってしまったヒルショーは、ある朝目覚めると、「そうだ、僕は、ヨシジンシティのシティ長にならないといけないんだ」と思ってしまいました。


「でも、若輩の僕がシティ長選挙に立候補して、はたして当選できるのだろか?」


 ヒルショーは、そんな不安を感じました。


 クーマは、そんなヒルショーの弱気な心を見抜いて、次の手を打ちました。


「今計画されているヨシジンシティの新シティ庁舎移転計画を止める、つまり白紙に戻すとアピールするのだ。無駄なお金は使わないとアピールすれば、民衆はヒルショー、そなたについていくだろう」


 クーマはヒルショーの耳元で、そう囁き続けました。

 実は、ヨシジンシティは、シティという名はついていますが、サンブック王国の中では、小さな田舎の町にすぎず、年々人口が減っているのです。

 そんなヨシジンシティですから、新シティ庁舎を作るのに、三万三千サクルという莫大なお金を使うことを、民衆は心の底で反対していたのです。

 新シティ庁舎の建設計画を白紙に戻すことを公約にしてヒルショーをシティ長に当選させる、これはクーマの二重の罠でした。なぜなら、近いうちに、ヨシジンシティを含むモマーク州知事に取り憑いているバシーマという上級ヒゲキが、その絶大な力をもって、モマーク州に大きな不幸をもたらすことを知っていたからです。

 バシーマの作り出す不幸を上手く利用すれば、ヨシジンシティの民衆に不幸をもたらすことができる。

 クーマはそう思ったのでした。


 ヒルショーは、クーマの企みどおりに、新シティ庁舎建設の白紙撤回を公約にして、シティ長選挙に勝利し、ヨシジンシティのシティ長になってしまいました。

 ヒルショーがシティ長になった翌年、バシーマが起こした大地震によって、モマーク州には大きな不幸がもたらされました。

 クーマは、それに乗じて、ヨシジンシティの庁舎を壊しました。

 ヒルショーが、建設しないと公約した新シティ庁舎を、やっぱり作らなければならない状況にしたのです。それも、以前なら三万三千サクルですんだはずの費用が、今度は三千サクルも多い、三万六千サクルかかってしまうのです。

 クーマは、ヨシジンシティの人々が、このことを不幸に思い、なげき悲しむだろうと思っていました。

 しかし、人が良いヨシジンシティの人々は、地震で壊れたのなら仕方ないと、不幸をあまり感じませんてした。

 クーマは当てが外れて、がっかりしました。


「これじぁ、俺様の方が不幸じゃないか! 他のヒゲキの力を頼っていたんじゃダメだ。俺自身の力をもっと強くして不幸を作り出さないと」


 クーマはヨシジンシティの人々に、もっと大きな不幸をもたらすために、自分の力を高めることにしました。それには四年かかりました。

 三年後に、またヨシジンシティのシティ長選挙がありましたが、クーマはヒルショーに、新しい技術を使った防災システムの導入を公約にさせて、ヒルショーを二期目のシティ長に当選させました。

 実は、この防災システムの導入という公約には、クーマが企んでいるヨシジンシティの人々にもたらす大きな不幸と関連していたのです。

 翌年には自分が引き起こす、大きな不幸を暗示させる公約なのでした。


 ヨシジンシティには大きな川が流れています。ヨシジンシティの中央を横切るとても流れの速い川です。キュウリユというこの川を、小さな木造船で下るキュウリユ下りはヨシジンシティの観光の一つとなってい

ました。普段は、流れは速いが、一方で穏やかな面もあるこの川を、ヨシジンシティの人々は誇りに思い、共に生きてきたのでした。

 そのキュウリユ川が、ヒルショーがシティ長に当選した翌年に、ヨシジンシティの人々に、突然牙をむいたのです。

 クーマが作り出した大きな雨雲から降った激しい雨は、あっと言う間にキュウリユ川の水位を高めていったのでした。

 氾濫したキュウリユ川は、ヨシジンシティを襲いました。

 ヒルショーが作った防災システム?

 ええ、勿論役に立ちました。おかげで、多くの人々がすぐに避難して、助かりました。

 これはクーマの計略どおりでした。だって、多くの人々が亡くなってしまったら、食料になる悲しみや苦しみ、なげきなどが手に入らなくなるのですから。

 キュウリユの濁流はヨシジンシティの大部分を覆いつくしました。家々は泥水に浸かり、水が引いた後は、たった数時間前には平和だった日常の生活の風景が、見るも無残な光景に変わっていました。

 家の中の家具は、元あった場所から流されて倒れ、中に入っていた服などは、泥に汚れてもう着ることが出来なくなっていました。食器や食物も同様です。

 床や壁は泥水に覆い尽くされ、木で作られた多くの部分は修繕しない限り、もう住むことが出来なくなりました。


 自分の家で生活できなくなったヨシジンシティの人々は、避難所で寝泊まりして、昼間は悲しんだり、嘆いたりしながらも自分の家の片付けを行なうのでした。

 しかし、あまりにも遅いヨシジンシティの役所の災害支援対応に、人々の不満は徐々に大きくなり、それにともなって、嘆きや苦しみもだんだんと増えていくのでした。

 これもクーマの狙いどおりでした。

 クーマはたくさんの食料にありつけて、大満足でした。

 ここまでが今の話です。


 え? どうして作者は、人間の目には見えないヒゲキのことを知っているのかって?


 実はヒゲキは、見栄っ張りで、自己顕示欲が強いんです。だから、誰かに自分が起こした不幸を自慢したくて仕方ないんです。

 しかし、下級ヒゲキであるクーマが、自分が作り出した不幸を、他のヒゲキに自慢しても鼻で笑われるのがオチです。もっとも、ヒゲキに鼻があればの話ですが。

 だからクーマは、人間に夢の中で自慢することにしたんです。誰かを選んで、自慢する。

 その誰かに、たまたま選ばれたのが、ヨシジンシティに住む私だったのです。

 夢の中で、私はクーマの自慢話を聞かされました。

 でも、彼の自慢話は私にとって、ある意味救いになりました。

 連日、一日中家の片付けで疲労困憊して、避難所に帰るたびに為政者たちを恨んでいました。

 だって、為政者たちはスピード感をもってキュウリユ川の治水対策を行うと言っただけで、これといった対策をやってこなかったのですから。

 もし、治水対策が進んでいたら、今回のような被害はなかったかも知れません。

 でも、治水対策ができなかったのも、ヒゲキの策略だとするならば、仕方がなかったのかも。

 そう思えば、ヒゲキに操られていたかもしれない為政者たちへの恨みも少なくなります。


 もしかすると、夢の中で語られたクーマの自慢話は、本当は私の夢にすぎず、ヒゲキという悪魔はいないのかもしれません。疲れ果てた私の妄想が、夢の中でクーマというヒゲキの悪魔を生み出したのかもしれません。そうすることによって、悲しみや苦しみ、嘆きを和らげようとしたのかもしれません。

 ヨシジンシティの人々は、不幸を感じながらも、毎日復興に向けて頑張っています。


 追記

 最後に、クーマが語った意味深な事を書いておきます。

「どうだ。俺様がどんなに凄いがわかっただろう。でも、俺様が作り出す不幸は、こんなもんじゃない。今から、おまえたちの時間で四年後に、もっと大きな不幸を与えてやる。楽しみにしておくんだな。グガキギエググ」

 最後の方は、クーマの笑い声かも?


 クーマは何をするつもりなんでしょう?

 やっと復興の兆しが見えたヨシジンシティをキュウリユ川を再び氾濫させて、濁流に呑み込ませるつもりなのか?

 え? その頃は、治水対策もできて大丈夫になっているだろうって?

 それは無理だと思います。だって、スピード感をもってキュウリユ川の治水対策をすると言ったのに、何年もやってこなかったのですよ。

 じゃあ、ダムをつくればですって?

 いえ、キュウリユ川の上流には、もう既にダムはあるんです。

 キュウリユ川の支流となる川に、ダムをつくればいいですって?

 もし、ダムができたとして、大雨でダムが満水状態になり、このままじゃダムが決壊するとなったら、ダムは放流を始めます。

 そうなると、キュウリユ川の水位が一気に増してしまいます。

 実際、今回もダムは放流を開始するつもりだったのですよ。

 多くのダムが、一斉に放流をはじめたとしたら。

 考えただけでも、ゾッとします。


 私たちヨシジンシティの人々は、どうすればいいのでしょう?

 四年後までには、誰か教えてください。

 







 

小説の内容は、一部の感情を除いて、全てフィクションです。

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