「透かす」【ショートショート】
僕は無力だ。どうしようもないガキだ。
力こぶすら浮かばない二の腕をどれだけ振ったって。多神教信者の先生たちが、友達というらしい奴等が、どれだけ僕を嘲笑したって。
何も出来ないことは分かっている。
何も生まれないことは分かっているはずだ。
雨音と自分の心音がダブって聞こえる。自分が今生きているのか、死んでいるのかさえあやふやな毎日なんだ。
飲み慣れたエナジードリンクも、食べ慣れた紙ごみも、他愛もない時の流れだって今も僕のなかを駆け巡っている。
変わらない毎日に華を添え、変わりやすい僕の考えを捨てた。
君は場違いだ。
君には他にも居場所があるだろ。
なぜここにいるのだ。
君にはここはそぐわない。
あなたたちは、僕の何を知っているのだ。帰り道に鼻唄を歌っていたことか?朝焼けの美しさに惹かれてしまったことか?自分の愛する本と共に眠りについたことか?
全て違うだろう。そんなことは分かっている。
あなたたちは、僕を知ったふりをしているだけだろう。
そんなことは、とうに分かっている。
泥で汚れたスニーカーと錆び付いた標識。
さて、少年の目に映ったものは何だったのだろうか。
(終)
※ここから先はエピローグです。
おまけーエピローグー
僕は大人が嫌いだ。社会という多神教を無意識のうちに崇めている大人が嫌いだ。
普段は無宗教ぶっているくせに、社会という有限の輪廻の中では、あたかも最初から信じていたような素振りをする大人が嫌いだ。
僕は、綺麗なままでいたい。
それだけなんだ。
互いに愚痴を言い合う友達よりも、価値の無い知識を反強制的に教えてくる先生よりも、僕は汚い大人になりたくない。
ただ、それだけなんだ。
瞳には何も映らない。映したくはない。
この世の中にある滑稽な偶像なんか。
雨足は強まるばかりだ。僕の意志も強まるばかりだった。