gyakutenn 逆転
其れは突然だった
誰も居ない道
誰も居ない公園
そんな場所を、一人で歩くのが好きな私は
いつものように、休日を使って
廃墟に登園していた
その場所は、好景気時に、作られたが
その後に、見込みが甘く
客が余りこなくなると
従業員の雇用不足による、過度な仕事
それでも間に合まない接客の不満が重なり
最後は、社長が、従業員を、撲殺した事による
他の従業員が、社長を、殺すという
殺人事件により、閉鎖を余儀なくされた
其れが、山奥だったこともあり
壊されることなく
その存在ばかりが、そこにたたずんでいる
そこに、足を踏み入れたとき
私の背後で、何か音がした
その一室は、どう言うわけか、電気が通っていた
たぶん発電器の類が、近くにあるのだろう
たまに、過度に電気を使うと
モーター音のような
うなり声を上げるような音が、隣の部屋から
かすかに聞こえた
夏であろうと、冬であろうと
この部屋の温度は、一定であり
暑くもなく寒くもなく
そして、ここを訪れる人間もまた
その温度と、寸分狂わないように
同じ人間だった
其れは、男であり
私という存在を、その部屋に縛り付ける
其れが、その男だった
何時もスーツを着ており
めがね越しに見える目は
何時も私を透かして別の人間をとらえているように感じられた
彼は、部屋に、厳重な、逃避防止の設備を、備え付けており
窓は、外側から防弾ガラスが、張り付けられ
部屋の至る所に、鉄板が仕込まれ
扉は、蹴ったところで、傷一つ付かないほどに
重厚であった
私は、その部屋に閉じこめられ
寸分狂わず、同じ服が、何時も同じ場所に存在していた
私はただその部屋で、犬か人形か何かのように
毎日、外の景色を眺めながら存在していた
男は、私にとって、何なのだろうか
男は、私を、ダッチワイフとでも考えているのか
しかし、一度も肉体関係が、発生したわけでもない
その男は、せいぜい私を抱きしめて
小鳥よりも小さなかよわな心音をならす程度で眠りに付き
私が気が付かない内に、部屋の外に出ていた
私はただ、そこで、何かをえんじていた
食事についても同じである
毎週同じ料理が、繰り返し繰り返し
食卓を彩った
其れは、料理の種類だけではなく
そこに添えられる市販品まで全てが同じであった
まるで、映画のセットのような
その場所で、彼は、同じプレゼントを、私に渡す
其れを受け取ったとき
私の中で、何かが、ぷちりと壊れる音を聞いた
その日、私は、電気を、ある一定の間隔で
付けることを繰り返すことにした
この場所は、廃墟探索として、有名だが
男が来てからと言うもの、フェンスが作られ
勝手にはいることが、めんどくさくなり
なおかつ、廃墟マニアにしても
其れが、市に、よるものだと、考えているのか
おかしいと、思う人は、居ないのだろう
しかし、私は、点滅を、繰り返す
男の帰ってくる時間は、決まって深夜であった
誰も居ない音の中
遠くで、無視の音色だけが
エンドレスに、響きわたっている
その中で、有るのか無いような
無音に近い音だけが
その場所にある、唯一の人為的な音と言っても良い
部屋には、ラジオやテレビ
携帯端末は、存在せず
キッチンには、冷蔵庫と電子レンジ、電機製のコンロが、あるだけである
私は、日々の暇つぶしを
部屋の中の空想と
空の雲の動きを、観察すること
そして、電気を、赤に変え
救助信号を、流すことだけに、専念していた
食べ物は、冷蔵庫を開ければ、作り置きがされており
其れを、レンジで温め食べれば、事が済んだ
私は、一人、空の雲のように
白く、にごった心を、自由に、変化させて
退屈を凌いだのであった
其れは、昼間だというのに
男以外の足音があった
其れは、窓から見れば、黒い警官の服装に思われた
私は、何度もたたかれる扉に
ただ、何も言わず
人形のように、眺めていたのでした