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~Eve~

今日は楽しい楽しいクリスマス。

窓を開けると、イルミネーションがキラキラと輝いて、空から木の上に落ちてきたお星様は町行く人たちを見守りながら、サンタが来るのを首を長くして待ちわびているようだ。

しかしここは、輝きを失っている。

明かりは何一つない。

楽しいことも一つもない。

何も変わりばえしないこの世の中は過ごし飽きてしまった。

両親はおらず、特に遊ぶ用事もないので楽しいことがない。

サンタクロースが本当にいれば、一寸ピリッとした日常を願おうか。

途端、ガラスがノックされる。

顔をガラスの方に向けると、帽子のファー以外黒に統一されたサンタクロースの格好をした青年が一人、笑顔で此方を見つめていた。


楽しいことみーつけた。


口角が自然に上がった。












「やあ、お嬢さん。こんにちは。」

「こんにちは。ブラックサンタさんですよね。」

「あれれ、君、僕らの事知ってるんだ。」

「ええ、悪い子に悪戯するって言われてる。けれど、本当はいい人なんでしょう?」

「まあ、そう言われてるけど、最悪この袋で連れ去ってしまうのに、どうして"イイ人"何て呼べるんだい?」

「あら、連れ去るのはどれも身寄りもなく一人寂しく過ごしている子じゃなかった?その対象に私は入ってるの?」

「いいや、君はそのリストには含まれてない。ただ、悪戯をするだけになってる。」

「そう。」


そう呟いて、聖歌は少し視線を外す。

そして、手を鳴らしてそうだ!と声を上げる。


「ブラックサンタさん、鬼ごっこしない?今退屈で退屈で仕方ないの。今も、この世の中も。だからね、もしブラックサンタさんがこの遊びに付き合って、もし私が負けたら、素直に罰は受ける。だけど、私が勝ったら、私の願いを叶えてくれない?」

「鬼ごっこって?君、そんな年してないでしょ。戯れ事はよしな」

「はい、スタート!」

「一寸!」


聖歌はハンガーにかかったコートをひっぺがし玄関に一直線に駆ける。

扉を開けると、もう一人のブラックサンタが立ち塞がっていた。


「退いて!」

「退くわけない。」

「いいから退いて!」


聖歌がそう言うと、反射的に目の前のサンタが退き障害物がなくなる。

それを横目に駆け抜けた。

後ろで二人が口論しているが気にせず、階段を下りていく。

雪がはらはらと舞い散るなか今宵の楽しい楽しいクリスマスが幕を開けた。












自分が荒々しく息をする音が聞こえる。

綺麗に町を彩っていた積もった雪を無惨にも踏み壊していく音も、周りの騒がしい音も。

・・・・あれ。


「聞こえない。」


夢中で走っていて気が付かなかったが、さっきから人っ子一人見ていない。

これもあの人の粋な計らいだろうか?

ますます楽しくなってくる。

ああ、何だろうこの感じ。

昔、それも遥か昔に無くしたこの感じ。

狂ってる?

そうかもね。でも、


「うふふふ・・・楽しい。」


今このときが楽しくて仕方がない。




その余韻を邪魔しに来た人が一人。


「そろそろ降参してくれない?」

「嫌です。」


満面の笑みでそう返す。

この時間を崩したくはない。

終わらせたくない。

そう心から思うのです。

サンタさんも心なしか楽しそう?


「嫌って言われてもねー。」


後ろから物音がして玄関の前にいた人がツリーの影から出てくる。

いつの間にか腕も捕まれてた。

あらあら、これって絶体絶命だったり?


「その状況でどうするつもり?」

「どうした方がいいですか?」

「んー、僕たちとしては捕まって欲しいんだけど、今捕まってもいいことないと思うな、きっと。」

「え、何でです?」

「君があの場から離れた時点で"逃亡した"と見なされて、一回こっちに来てもらわなくちゃならなくなった。まあ、当然だよね。」

「へぇ、後もう一つ捕まる前に質問したいんですけど。」

「何?見逃してくださいって言うのは無しね。」

「この人に腕掴まれてから身動き取れないし、この空間は一体?」

「あれ、一個じゃなかったの?まぁいいや。ここはね、君が望んだ世界。身動き取れないのは君が何かしらの重圧を感じてるから。そこのサンタ、名前をユールね。君、サンタは一人ずつ奇跡を起こせる事は知ってる?ユールの場合は『具現』。自分や相手の感じてる事や思ってることを実体化することが出来る。便利な能力でしょ?」

「ノエル、喋りすぎだ。」

「はいはい、御免ねー。でも、この子をあっちに連れていかなきゃだし、どうせ話さなきゃならない。それがここだっただけの話でしょ?それに」

「あの、お二人さん。貴方方は、捕まる前提で話してますが私、捕まる気、更々無いんですよね。」

「え、今更何言ってんの?もう逃げ場なんか」

「あー、サンタさんだ!」


突然上がった声に二人は声のする方向に顔を向けた。

そこには小さい男の子と。


「何だよ・・・これ。」


クリスマスを楽しむカップルや家族の姿が。

子供が囃し立てている声を聞いて、すみませんとその子供を回収し終わった所で、余裕綽々だった顔が一変苛立ちと焦りを含んだ顔に。


「これは・・・どう言うことかな?」

「どうもこうも貴方がさっき言ってたじゃないですか、"自分や相手の感じてる事や思ってることを実体化することが出来る。便利な能力"ってと言うことは当然思ってることがここ一体家族やカップルが溢れかえってる事を想像すれば当然この世界が書き変わる。単純じゃないですか?それとも、この事に私が気付かないとでも?」

「はぁ、だから喋りすぎだって言っただろ。お前、馬鹿なのか?いや、馬鹿だったな。すまんすまん。」

「うわーすっごい腹立つんだけど。・・・まあ、やっちゃったことは仕方無いよね。でも、この状況は変わらないんだよ。」

「お話は纏まった見たいですね。それでは!」

「え、一寸、どうやって!」


ユールさんの手が緩んだ隙に自由になった私をノエルさんが再度腕を掴もうとしたがこれまた綺麗にすり抜ける。

良かったー、ついでに一時的にすり抜ける物もやっといて。

笑顔で人混みをすり抜ける。

あの人達も追い掛けてくるが人混みが邪魔で波に流されている。


走りながらもやもやした感情が混入している事について少し考えてみた。

一人で居るときはなにも違和感は無かった。

けど、ユールさんに腕を掴まれた時、少しだけほんの少しむず痒さが襲ってきたんだ。

何だろう、この違和感。

気持ち悪いな。












何れ位走ったのかな?

あの二人は追ってこない。と言うか。


「ここどこ?」


いつの間にか薄暗い入り組んだ路地裏が目の前に広がっていた。

ここはまだあの人たちの言う"私の作った世界"の中なのか?

でも、こんな路地裏知らないし、そもそもそこに入った事もない。

こんな所早く出ようと振り向くと、そこに道はなく、"そのまま進んで"とご丁寧に落書きされた高い壁がたたずんでいた。


「何処でこんな所入っちゃったんだろ?此処ってあの人たちの罠だったりする?だとしたら進みたくないなー。」


まあでも進まないと何も進みそうにないので、手のひらで転がされてると分っていながらも進むしか選択肢がなさそうだった。












何度も行き止まりに遭遇しながら進んでいく。


段々右も左も分からなくなり、もう気力も喪失しかけ、近くの木箱に腰かけ、半分呆れ気味に今の思いを呟いた。


「さて、どうしたもんかな。同じ景色の中進んでも到着できる自信無いんだけど。もしかして、あの人達の目的って私の気力を削ぐ事だったのかもねー。それなら、私はまんまと作戦に嵌まった訳だ。本当、どうしよう・・・。」


少しの間、打開策を考えていたがいいと思える案は何一つ思い浮かばなかった。

進まないと仕方無いので、立ち上り進む。

ずっと真っ直ぐ進むとまた別れ道が。


「もう嫌になるんだけど。さて、神様も宛にならないし・・・んー、こっちかな?」


左を選んで、道なりに進んでいく。

しかし、ここも袋小路で行き止まり。

とうとう勘も宛にならなくなったようで、天を仰いで、溜め息を吐いた。

取り敢えず戻るために振り向くとさっきはいなかった女の子が笑顔で此方を見つめていた。

髪は白く腰ぐらいまであり、目は赤に近いピンク色。

一体何処から来たのか問おうとした時、女の子が先に声に出す。


「お姉さん、みーつけた。」


その言葉で全てを理解するのにそう時間はかからなかった。












「君、ノエルさん?」

「お姉ちゃん、何言ってるの?"今日の"お姉ちゃん何か変。」

「今日の?いや、今日あったばかりなのに"今日の"って。」

「え、お姉ちゃんもしかしてアイのこと忘れてる?」

「え、アイ?」


よく聞く言葉の筈なのに、その言葉が心の中で引っ掛かった。

アイ、アイ?

何度繰り返してもその理由は見つからない。

でも引っ掛かりがあるのは確かだった。


「アイちゃん御免なさい。貴方の事、記憶にないの。でも、貴方の名前に何か引っ掛かるの。でも何かは分からないんだけど。」


そっか。とその子は明らかに顔を曇らせた。

普通この年なら泣いても可笑しくないのに泣きもせず、少し汚れた白いワンピースのポケットから何かを取り出して私の手に乗せる。


それは黄色く光る星形の物だった。


「昔お姉ちゃんがね、"もし私に会った時にアイの事覚えてなかったらこれを渡して"って言ってた。お姉ちゃんが近くにいたらこの宝石が光るっても。」


その話を聞いて、再度それに目を向ける。

よく見ると、それの中央が鈍く光って少しシルエットの様なものも見えた。

透かしたら分かるかと思い、唯一の光源である月にそれを向ける。

すると、その鈍く光っている物がそれから落ちる。


「え、何か目に入った!」

「え、大丈夫?!」

「痛くないし大丈夫だと思うけ」

「どうしたの?」


言葉を繋ごうとした時、何かの走馬灯が目の前を横切っていく。

動きが止まった私を心配そうに見つめるアイ。

あぁ、そう言うことだったんだ。


「んー、何だろ。大体の事は思い出せたよ。有り難う、"アイ"。」


その言葉を聞いて、曇った顔が明るくなる。

少し泣きそうな顔をしたアイの頭を撫でて言う。


「アイ、一寸お姉ちゃんやらないと行けない事が出来たんだよね。それにかたが着いたら、迎えに来るからそれまで待ってて。」


アイが元気に頷いた後、後ろには壁はなく外に出るとまた人が一人もいない殺風景な町へと戻って来た。


「まだ来てないのかな?まあ、どこへ逃げてもノエル達には見つかるだろうし・・・取り敢えず、やらないと行けない事はしようかな?」


回りを見渡して目的が果たせそうな所を探す。

建物の間から一際高い高層ビルが、顔を覗かせて、此方を見ていた。


「彼処でいいかな。時間は・・・10:30。間に合いそうかな?」


まあ、間に合わないとこっちもヤバイんだけどね。

約束は果たせるかな。













「お嬢さん、もう諦めた?」

「うん、もう飽きちゃった。もうくたくた、疲れたよ。」

「そうですか。それではギリギリ回収するのに間に合いそうですね。」

「そうだね、それより最後に聞いておきたいことがあるんだけど、そこで"止まって"聞いてくれない?」

「・・・何でしょう。」

「もうあの日の事"思い出しても"いい頃じゃない?」

「はぁ、あの事って」


ノエルの言葉が途中で止まる。

その後、表情が段々焦りに変わる。

それはユールも同じの様で無表情だった顔にうっすらと焦りの色を浮かべていた。


「その顔だと解けたみたい?」

「そんなはずない。だって元々。」

「着いて行けないかも知れないけど、それが事実。と言っても、さっき私も思い出したばかりでまだ着いていけないしまだ信じられてないけど、でもそれなら私の両親との記憶がないのも高校に入る以前の記憶が曖昧なのも頷けるんだよね。そりゃそうだよ、この世に私の両親も存在しないし、学校にも通ったこと無かったんだから。」

「・・・でも、さっき見たのが僕達の本当の記憶だとして、貴方は一体どうするんです?このままだと」

「人間のまま、あっちに行くことになる。それに思い出したって事をあの人達に知られれば、どうなるかは大体想像できるよね?」

「だけど、"人間からサンタの世界に戻る方法"何て何処にも。」

「いや、ある。」

「ユールそれどう言うこと?」

「一回だけ大図書館でこっそり見たことがある。でもあれは。」

「失敗すればもう存在がなくなる。存在消滅、よくて地獄に回される。」

「それってつまり」

「無理ゲーって奴だよな。」

「まあ、そうだとしてもやってみなきゃ分かんないじゃない?」

「そんな無茶苦茶な!いっつもそう言うことしてるから。」

「貴方の心配性も昔からだったよね。・・・もう時間みたい、行かなきゃ。それじゃあ、メリークリスマス、よい夜を。」


ノエル達は止めようとするが体が動かせなかった。

それを見て少し悲しそうな笑みを浮かべて、それから、空に。












「・・い。・・ろ」

「キャロル!」

「なに!」

「なにじゃねえよ。成功だ。」

「ほえ?」


そう促され聖歌が目をやると、さっきまでコートに高校の制服だった格好が、ファー付の黒いポンチョに黒いトレンチコート。コートの下から少し見えた膝上のブリーツスカート。

昔来ていたサンタの制服そのものだった。


「たくなぁ、お前は!」

「あはは、御免。」

「御免じゃねえよ・・・で、何処まで思い出せた。」

「私が、とある班のリーダーだったって事と自分の持ってる奇跡、後はアイとあの子達との関係性かな?思い出みたいなのは何も。」

「そうか。そこまで思い出せたら上等だ。よくやった。」

「何であんたが偉そうに。」

「だって今、お前よりも偉いからな。」

「はあ!それどう言うこと!」

「お前がいなくなった翌年、正式にここ一体の管理長、大司教に任命されましたぁー。」

「うわ、抜かされた。あんただけには抜かされたかなかったのに!」

「お前がちんたらしてるからだろ。"準備が整ったら帰ってくるからそれまであの子達を宜しくね"って格好つけた台詞言ったきり戻ってこなかった馬鹿は何処のどいつだよ!」

「馬鹿って何よ馬鹿って!」

「馬鹿はお前しか居ねえよ。あの戻り方も一歩間違えれば死んでたんだぞ、お前!」

「大丈夫だよ、あれは死なないように出来てたから。」

「はあ?どう言うことだよ。」

「サンタ服来てないからいいか、話しても。」

「サンタ服で来るなって言ったのはこのためだったのか?」

「うん、あの人に聞かれたらまずいし。それじゃあ、説明するね。あの禁忌には二つ条件があって、一つはこの世から存在が無くなること。もう一つは大切な人が近くにいること。でも、その二つには大きな穴があった。前者の場合は、皆『存在がなくなる=死』だと思っているけれど別に死ななくてもいい。言ってみればここの戸籍を消しただけでも存在がなくなったことになり条件一つは成立する。実際これは試した人も居るらしい。だけど、それだと後者が成立しなくなる。」

「どう言うことだよ。二つ目は『大切な人が近くにいること』だろ。だったら成立するだろ。」

「それじゃあ駄目だったみたい。あの禁忌、続きがあったの。」

「でも前俺らが見に行ったときにはそんなの。」

「私が夜、こっそり図書館に忍び込んだときにね。サーマルインク、知ってるでしょ?」

「ああ、それでか。それで、その続きは何て書いてあったんだ?」

「『その瞬間にアイはあるか?』って」

「アイ?アイって愛情ってことか?」

「皆そうだと思うでしょ?違うの。哀。哀愁の哀。その瞬間に、"胸を痛めるような悲しさ"はあるか?って事。だから、この二つを達成するには『死んだふりをする』ってこと。

さて問題、一番工作をしやすい自害の仕方は?」

「高い所から飛び降りる。」

「正解。これでこの一連の真相は大体理解できたかな、大司教さん?」

「お前、馬鹿にしてるだろ?」

「してないけど?それより、外の状況は?」

「ほらよ。」


エデンが自分の見ていた外の景色をスライドさせてキャロルに見せた。

そこには、エデンと同じ赤いサンタ服やノエルの様な黒いサンタ服を来た人たちが群がっていた。

そりも空中に何隻か浮かんでいる。


「多分、さっきの奴見られてたんだろうな。」

「皆のつけてる校章はあの人の目と耳の代わりだからね。あれないとサンタ服も着れないようになってるからねー。」

「・・・おい、あれ。」

「ん、何処?」

「あれだよ、あの赤サンタの隣の眼鏡かけたあいつ。俺らに気づいてねえか?」

「いや、気のせいじゃない。あ、でも。」

「でも?」


地響きと共に大きく上下にこの空間が揺れる。

少ししたら止まったが、まだ二人は動かない。

一拍置き、顔を見合わせた後、二人が吠えた。


「何で気づかれてんの?!」

「ほら見てみろ!気付かれてるって言ったじゃねえか!」

「でもあんたのは『永遠』時間が止まってるこの空間は気付かれないんじゃなかったの?!」

「俺も分かんねえよ!中から招かないと気づくはずがねぇんだけど。・・・お前、ノエルには会わなかったよな、なぁ?!」

「へ、あの子に会ったけど?え、あの子に会っちゃ駄目だったの?」

「駄目に決まってんだろ!・・・あぁ、そうだったな、お前あいつの使える奴知らなかったんだよな!覚えてねえんだよな!」

「何よ、勿体ぶらずに教えな・・・さいって!」

「あぁ、これ完全に気付かれてるな。いいか、時間無いから一回で聞けよ!」

「ッチ・・・何?!」

「あいつは『奇縁』。会った奴何でも間でも結びつけちまう。プラス、その縁のある奴に能力等の共有ができる!」

「能力等のってことは真逆。」

「そうだ!繋がってる奴の位置情報もだ。だから、あいつとは会って欲しくなかったんだよ!お前らには悪いけどな!」

「あー、もうどうするの?これ完全にばれてるし。・・・間隔も短くなってきた!」


「おお、ええタイミングちゃう?」

「それはないかな、それよりもこれはむしろ・・・」


聞き覚えのある声に、喧嘩を直ぐ様止め、後ろを振り向く。

ピンク色のセミロングにキャロルとは色違いの赤い制服。ポンチョの代わりにの赤ベースのチェック柄のマフラーが巻かれていた。

関西弁訛の男は、黒い制服にポケットチェーンが少し顔を出している。

二人は、すっかり落ち着き、エデンの方は「おせぇよ。」と聞こえるトーンで呟いた。


「すまんすまん、合間見てあそこ抜けるの大変やったんや。なあ、りーちゃん。」

「そうだよー。私達監督任されちゃってるし。ルクが二人分の光人形作ってくれて、その間にこっち来たんだよねー。」

「うぉ、よぅゆれるなぁ。んで、どうするん?ルーちゃんここに居たら、あの人達に捕まるで?」


そう言って、ルクスは上を指す。

この揺れ具合だと結構な人数が攻撃している事が分かる。

エデンも少し苦い顔を浮かべていた。


「そうなんだよな、こいつが言ってしまえば最後の砦。ここで捕まって貰う訳にも行かねぇんだよな。」

「と言うか、お二人さん、サンタ服来てるって事はこの会話、あの人に・・・」

「ああ、その事は心配要らんで。これはりーちゃんと俺が作った偽物の校章やから。本当の校章は人形に着けとるから。でも、逃がす方法見つからんよな。このままエデンくんがこれを解いたとこで下に居る部隊に捕まったら、ぱーや、ぱぁ。」

「・・・待って、キャロル。貴方、前使い魔持ってなかったっけ?あれの力使って逃げたらいいんじゃないの?」

「・・・あぁー!あの子使えるじゃん!」

「あの子ってどの子だ?」

「ルーちゃんに使い魔なんかおったっけ?」

「ルク、忘れたの?昔、遊びで八咫烏召喚して、それがキャロルに懐いたから、その子、使い魔にしたじゃない!」

「あぁ!思い出した!クッキーやったら懐いた子や!名前を確か・・・」

「ログ」


キャロルがボソッと呟いた後、辺り一体に羽が吹き出てくる。

辺りは騒然としていたが、それがやんだ後、キャロルの肩に一羽の烏が止まっており、首を右に捻った後、カァと一鳴きした。

その足は通常は二本のはずなのだが。


「三本足、と言う事は。」

「うわー、ログだぁ!」

「お前らこんなことしてたのかよ。」


ログはキャロルの方を見た後、肩から頭に飛び移り、嘴で頭を突き回していた。


「痛い、ログ!止めて、ちょっ、いたっ。」

「再開を喜んでる見たいやで?良かったなぁ。」

「いや、痛かったんだけど。」

「多分、半分怒ってんだろ。放って置かれたから。」

「エデン、正解や。」

「あぁ、それは。本当御免ねー、ログ。」

「まあ、そんな茶番は置いといてもう少しで来るぞ!」


遠くでガラスの割れる音が聞こえる。

多分空間の一部が外部から破られたのだろう。

三人はキャロルの前に立ち塞がる形で並ぶ。


「取り合えず、こっちの方何とかせなあかんな。」

「せっかく、キャロルと会えたのにー。」

「仕方ないだろ、こいつ、一点に強い負荷がかかると壊れやすくなるんだからよ。ほら、行けよ、キャロル」

「心強い味方をここで置いて行くのは不甲斐ないんだけど行かなきゃね。でも、一言だけ、言わせて。"また、会おう!"」


それを合図に、エデンの作った空間が割れる。

皆、下に落ちていく中、烏が一羽空に舞った。












「この子がブラックリストの子?とてもそんな風には見えないけど・・・」

.「・・・そういう風には見えないが、ブラックリストに乗っている以上は回収しなきゃ駄目だろ。」


怯えた表情の小さな女の子に青年二人は手を伸ばす。

一人がその子に触れようとしたとき、その子の周りから黒い羽が吹き出て、二人は手で顔を庇う。

その羽が、はらはらと落ちてくるようになり、安心して視界から手を退けた時にはもうその子の姿はなかった。

落ちてきた一枚を手の上にのせる。


「烏の羽?」

「悪いけどこの子は貰っていくよ。」


その声に、青年達は声のする方向へ向く。

そこにはドミノマスクをした女性が立っていた。


「こんにちは、お二人さん。」

「その声もしかして。」

「気付くのが早いね、ノエル。」


即座に、ドミノマスクを外す。

そこには、キャロルこと、聖歌の姿が。

手の中には、さっき捕まえようとした女の子が静かに眠っていた。


「・・・その子を返して。」

「ブラックリストに乗ってるから?」


ぐっと口を結ぶ。

その意味を判断したキャロルは話を続ける。


「そこに乗っている事が全てじゃない。もし疑問に感じるんだったらその意味や意義を模索してみれば?多分そこに正解がある。」

「それってどういう・・・」

「じゃあね、また会おう。・・・貴方が私の敵でも貴方を見捨てたりはしないから。」


はずしたドミノマスクを地面に落とす。

触れた所から烏の羽が吹き上がった。

ノエルは不意を突かれた言葉に遅れて理解し、結んだ口を解き、言葉を振り絞ろうとするが、そこにはもうあの二人の姿はなく、ただ、烏の羽だけが存在証明として降り積もっていた。











「その子がアイちゃん?」


帰ってきたキャロルの腕を指差し、質問する。

キャロルは浮かない表情で小さく頷く。


「どうしたんだ、いつも元気有り余って馬鹿騒ぎしてるくせに。どじでも踏んだか?」

「ノエル達が居たんだよね。」

「うわー、あの人も意地悪いなぁ。それで、どうしたんや?」

「取り合えず、挨拶だけしてきた。」

「伝えたい事は伝えられた?」

「まあね。でも、あの子に今さら味方宣言してもね。あの子は許してくれないよ、絶対。」

「・・・絶対とは、限らんのんちゃう?」

「え?」

「いや、心の中で恨んどっても縁は切れる訳じゃないし、恨んどったらあんな悲しそうな顔、せんのんちゃう?」

「・・・見てたの。」

「まあな、気になったんよ。ルーちゃん、何だかんだブラコンやし。それに弟の成長ぶりも見たかったしな。」

「えっちょっと待って、初めて聞いたんだけど。」

「ユールくんってルクの弟だったんだー。初めて知った!」

「似てねぇな。」

「一寸、皆してー。そんな以外?俺とユール全然似てない?」

「全く」

「うーん、言われたら何となくそうかもー位?」

「分からん。」

「一寸皆酷い!」


「んー、あれ、お姉ちゃん?」


いきなり聞こえた声に驚いて腕の中に視線を送る。

そこには目を擦っ寝ぼけ眼でじっと見つめているアイの姿が。

それを見た途端、今度はルクスに冷たい視線が送られる。


「ちょ、俺の性?」

「どう見ても、お前が大声出したからだろ。」

「まあ、いいよ。どうせ起こすつもりだったし。御免ね、アイ。お姉さんが結界取っちゃったから危険な目に遭わせちゃって。」


ふるふると首を振るアイ。

それを見た後、呆れ顔でキャロルに問いかける。


「と言うか、何処をどのようにしたら、俺の張った空間壊せんだよ!」

「あのときは記憶もなかったし、急いでたから。仕方ないでしょ。」

「たく、お前は。」

「まあまあ、それよりもちゃっちゃと終わらせちゃおう。ええっと、アイちゃんって言うんだっけ?私の名前は、リース。アイちゃんに質問があるんだけどいい?」

「なあに?」

「アイちゃんはサンタさんになりたい?」

「え、サンタさん?」

「そう。サンタさん。」

「アイになれる?」

「うん。どうする?」


アイはキャロルの顔をじっと見つめる。

その意思を汲み取ったのか、自分で選んでいいよ。と諭した。


「なりたい、サンタさん!」

「よぉし、分かった。じゃあ目を瞑って十数えて。」


アイは指示に従って目を擦って十から数え始める。

その間に、リースは手の中から赤いリボンのついたピンク色の箱を出し、アイの頭の上に置き、リボンをスルスルと引っ張る。

赤いリボンが完全に解けた後、ピンクの箱が白い煙に変化しつつ、アイの周りを取り囲む。

仕上げに赤いリボンを蝶々結び。

胸辺りにリボンを煙の中に沈めた。

最後の数字をアイが言ったとき、周りの煙が風で取り払われ、赤いサンタ帽子に裾にファーのついたポンチョ、フワッとした裾フリルスカート白いハイソックス、黒いローファーを履いたアイが居た。


「うわー、かわええな。」

「可愛いな。」

「可愛い!」

「似合ってるよ、良かったね、アイ。」

「前々から思ってたんやけど、ルーちゃん、おかんみたいやな。」

「あー、それ分かるな。まあ、昔から気にかけてたもんねー。」

「まあな。それでキャロル、アイちゃんはリースに任せるってことでいいんだよな?」

「え、お姉ちゃんと一緒じゃないの?」

「お姉ちゃん、お仕事行かなきゃなんないんだよね。」

「嫌だ、お姉ちゃんといる!お姉ちゃん前に約束したもん。アイとまた会えたら今度こそずっと居るから、それまでここで大人しくしててね。って!だから、嫌だ!」


大人しかったアイが急に泣きながら言った言葉に途端、胸が苦しくなる。

どうしようかと悩んでいると、リースがある提案をする。


「サンタは本当は14才以上にならないとなれないんだよね。それ以下の子はサンタの卵。アイちゃんは見立て7才ぐらい。サンタになるまでの期間はまだ充分ある。サンタになると責任者は私になるけど、サンタの卵は基本誰が育ててもいい。だからさ、それまでキャロルが育ててみたら?」

「え、私?」

「おお、それええな。約束も守れるし!どうせルーちゃんの事やから、こっそり様子見に来るつもりだったんやろ?」

「うぐっ!」

「部署が違うのにこっち来られても迷惑だからな。いいだろ、それで。」

「・・・アイは?それでいい?」


それを聞いて、鼻を啜って、涙を拭き、笑顔で、うん!と頷いた。


「それで決定やな。」

「私達も直々来て様子見に来るけどいいよね?」

「断る理由はない。いいよ、全然!」

「あの家、使えたか?」

「あー、使えるんじゃない?分かんないけど。」

「じゃあ一先ず、行くか。」


そりに乗り込んだ後、そりが浮かび、ミルキーウェイに沿って、進めていく。


星が往来するなか、そりの鐘の音が空に響き渡り、音が雪に変化して町に降り注いでいく。


そりの鐘が鳴る頃に、見知らぬ歯車(とき)が動き出す。

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