表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

第178話「レッドの世話係」

『先生、どうしてわたしを呼んだんです?』

『今日はレッドの当番なのよ~』

『レッドの当番?』

『そう、午前中は私がレッドの世話役』

『で、面倒くさいから、わたしを呼んで、わたしに世話を?』


「はい、ポンちゃん、配達よろしくね」

「む~」

 ミコちゃんから受け取ったバスケット。

 中にはドラ焼きが入っているの。

 問題は入っている数です。

 3つ……3つです。

「ミコちゃん、この配達は?」

「うん、保健の先生からよ」

「あー!」

 なんだか嫌な予感ひしひしなの。

「ねぇ、わたしじゃなくて、コンちゃんじゃダメ?」

「コンちゃん逃げちゃうじゃない」

「逃げてもいいよ、わたし、なんだか嫌な予感しかしないし」

「どうして?」

「だって3つですよ~ 行かなくてもよくないですか?」

「そう言わずに行ってきてよ」

「ミコちゃんが行けば?」

「お昼ごはんはどうするの?」

「むー!」

 しょうがない……

 でも、行きたくない……

 どうしたものだか……

「ぐずぐずしてないで、早く行く!」

 ミコちゃん、包丁を手に髪がうねりまくりです。

「早く行け」オーラが攻撃に変わる前に、配達に行きましょう。

 気が進みませんが。


 保健室。

 カーテンが風に揺れて、保健の先生はベットの上でうつぶせです。

 そして保健の先生の背中にレッドが乗っているの。

「てんてー、あそぶゆえ」

「……」

 レッド、先生の背中の上でピョンピョン跳ねたりするの。

「てんてー!」

「……」

 保健の先生、めんどうくさそうな目で黙っています。

 わたし、先生の気持ち、超わかります。

 レッド、面倒くさいですね。

「てんてーってばー!」

「……」

「チュウ」

「……」

「チュウチュウ」

 もう、レッド、先生にキスしまくり。

 さすがに黙っていた先生もムクリと体を起こして、

「この仔はキスが好きねぇ」

「あいさつゆえ」

「一度でいいわよ~」

「てれずとも!」

「むう」

「ほけんのてんてーすき! めがねゆえ!」

「眼鏡っ娘スキーか」

 保健の先生、ムスっとした目でわたしに視線をくれると、

「ポンちゃん、遅かったじゃない」

「すみませーん、はい、ドラ焼き」

「ありがと」

「さようなら」

「待たんか!」

 ダッシュで行こうとしたら、しっぽを捕まれました。

 保健の先生、ドラ焼き一個をレッドに渡して、もう一つをわたしにくれます。

「ちょっとお茶していきなさいよ」

「いや、レッドがいて面倒くさそうだから」

「だから呼んだのよ」

「やっぱり、そうか~」

 レッドはドラ焼きを食べてニコニコしているの。

 食べている間は、とりあえず面倒くさくないですね。

『先生、どうしてわたしを呼んだんです?』

『今日はレッドの当番なのよ~』

『レッドの当番?』

『そう、午前中は私がレッドの世話役』

『で、面倒くさいから、わたしを呼んで、わたしに世話を?』

『押し付けたいけど、村長にばれると面倒だから、せてめ一緒に』

『わたし、損じゃないですか』

『そう言わずに~』

 わたし、ドラ焼き食べる。

 保健の先生、半分こにして、半分はレッドに。

『ポンちゃん、何かいい手、知らない?』

『お絵かきがいいですね、鉛筆とスケッチブックで』

『それ、この間やった、別のが知りたい』

『ほかのですか~』

 レッド、ドラ焼き食べちゃいました。

 また「かまって」が始まる前に、なにか手を打たないといけないですね。

 って、わたしの頭上に裸電球点灯なの。

「保健の先生はマッドサイエンティストですよね」

「マッドサイエンティスト……言うわね」

「だってポワワ銃持ってるし」

「撃つわよ」

「ほら、こわーい」

「で、裸電球灯ったんだから、言いなさいよ」

「では、科学者の先生に、『恐竜図鑑』ないですか」

「恐竜図鑑?」

 保健の先生、腕を組んで、天井を向いて視線が泳いだり。

 黙って立ち上がると、一度保健室を出て行きました。

 すぐに戻って来て、

「こんなのでいいかしら?」

「恐竜図鑑」です。

 それも、いい感じでくたびれた図鑑なの。

 わたし、早速受け取ってパラパラめくると、

「あ、いいですね、これですよコレ」

 わたし、レッドに図鑑を見せます。

「ほら、レッド、恐竜ですよ、お店の図鑑とちょっと違います」

「おお、みたいゆえ」

「どーぞ」

 レッド、恐竜図鑑を膝の上に広げてニコニコなの。

『こんなのでいいのかしら?』

『え? どうしてです?』

『この恐竜図鑑、古いわよ』

『古いとダメなんです?』

『こう、ティラノの背筋が立っていたり……』

『はぁ』

『イグアノドンの親指がとんがっていたり……』

『それが古いんですか……てっきりそんなもんだと思っていました』

 保健の先生、スマホを出して、

『今はこんな感じなのよ』

 って、今の「ティラノ」を見せてくれました。

『むー、わたしもお家でレッドと一緒に恐竜図鑑見てるけど、ティラノは姿勢がいい方が絶対カッコいいです、堂々としています』

『ポンちゃん、言うわね』

『わたし、老人ホームで「ゴヅラ」って映画を見た事あるんです』

『あー!』

『こう、背筋を正しく、堂々と、ノシノシ歩くのがいいんですよ』

『昭和ねぇ~』

『昭和ですか?』

 ともあれ、レッドが恐竜図鑑に夢中になってくれたの、よかったです。

 わたしと保健の先生、こっそり脱出……しようとしたら、レッドが、

「ねぇねぇ、きょうりゅう、どこかにいないゆえ?」

 レッド、図鑑を手放さず、もう一方の手で保健の先生を捕まえてゆするの。

「ねぇねぇ、てんてーってばー! きょうりゅうみたいゆえ!」

 保健の先生、どんどん「面倒くさい」顔になっていきます。

 その気持ち、わたしも「よーく」わかるんだから。

 でもでも、保健の先生、すぐに頭上に裸電球光るんです。

 すぐさまテレビをつけて、

「ほら、レッド、テレビ見よう、テレビ」

「えー! きょうりゅうがみたいゆえ!」

「ほら~」

 保健の先生、リモコンを操作して「ゴヅラ」を再生するの。

「ゴヅラ」の吠える声にレッド、テレビに張り付きます。

『先生、やりましたね、ビデオ、グッドです』

『老人ホームでもなつかしの映画をやると、みんな大人しくなるからね』

『ああ、なんだかわかりますよ、紋次郎とか老公も人気ですよね』

『ともかく、これでレッドを相手しないでいいわ』

『わたしも参考になりました』

 レッドはテレビに夢中でいい感じです。

「じゃあ、帰りますね」

「待たんか」

「またですか~」

「だってレッドが飽きちゃったら困るじゃない」

「ゴヅラ、2時間ですよね、ちょうどお昼になるんじゃないでしょうか」

 って、保健の先生、マジな、真剣な顔でわたしをじっと見ているの。

「ポンちゃん、今度はポンちゃんが私の相手をすんのよ」

「はぁ?」

「私、暇じゃない、つきあいなさいよ!」

「えー!」

 面倒くさい事になりました。

 保健の先生の相手、するしかないみたいです。

「先生、ちょっといいですか?」

 そう、こーゆー時は先制攻撃です。

 先生の相手をするんじゃなくて、こっちから積極的に攻めちゃうの。

 ちょうどさっき、スマホも出たからですね。

「スマホ、さっきの画面を見せてください」

「これ?」

 前かがみのティラノ。

 わたし、これ、テレビで見た事あるの。

 画面をなぞってみたら、案の定、別のティラノの画像があります。

 毛がフサフサだったり、カラフルだったり。

「うわ」

「ポンちゃんも恐竜好きなの?」

「いいえ、レッドを寝かせる時に絵本読んでて、最近はコレです」

「へぇ、お姉さんしてるんだ」

「ティラノの進化形がゴヅラですよね?」

「違う」

「えー! ゴヅラはどこに載ってるんでしょ?」

「ゴヅラ、恐竜の仲間じゃないわよ、これは怪獣」

「そっくりじゃないですか」

「似てないわよ」

「だってほらー」

 わたし、恐竜図鑑の姿勢のいいティラノを指差すの。

 保健の先生はスマホを見せて、

「いや、こっちだから、それは間違った想像図」

「ないわ、フサフサティラノ」

「まぁ、フサフサは微妙だけど、姿勢はこっちが正しいのよ」

「ないわ、こんな前かがみ」

「こっちの方がバランスがいいのよ」

「背筋立ってるほうがぜったい強そうですってば」

「う……私もどっちかというと、昔の方が好きなのよね」

「でしょ」

「私もフサフサティラノ見た時は『ぶち壊しやがって』って思ったものよ」

「誰ですか、こんなの描いたのは」

「恐竜博士が描いたんだから、今はこれが正解なのよ」

「どうして?」

「骨格とか」

「骨格って骨ですよね、なんでフサフサなのがわかるんです」

「たまに化石が出るのよ」

「色は、こんなカラフルなの絶対ないです」

「まぁ、色は想像かしらね」

「ほら、やっぱりティラノはこっちがいいです」

 わたし、さっきまでレッドが見ていた図鑑を指差すの。

 そして、わたしの頭上にまた裸電球光ります。

「保健の先生! タイムマシーンはないんですか?」

「いきなり言うわね」

「ティラノ、捕まえてきましょう」

「うわー」

「大人じゃなくて、子供ティラノですよ、小さいトカゲくらいの、捕まえてくるんです」

 って、保健の先生の表情も明るくなって、

「あ、それで、レッドの相手、させるのね」

「わかってるじゃないですか」

「でも、タイムマシンは持ってないわ、作ってないわ」

「チッ、使えないマッドサイエンティストですね」

「タヌキ汁にするわよ」

 ポワワ銃を抜かないでください。

 それ、当たるとしびれるんですからモウ。

 って、雑談していたんですけど……

 わたしと保健の先生が見ている前で、レッドが「パタン」と倒れました。

「「おお?」」

 テレビの前に体操座りしていたレッドが横に「パタン」。

 見れば青くなって「ガクブル」。

 テレビを見ればゴヅラが人を食べまくっているシーン。

 ああ、電車を食べてます。太巻寿司状態ですね。

「うわー、レッドには刺激が強すぎましたかね」

「レッド弱いわね、子供は残酷なものなのよ」

「先生言いますね、レッドは痛そうなのを見るとすぐにダウンです」

「そうなの?」

「この間、夜にやっていた『ファラ王とわたし』(161話)でも死にました」

「え、あれ、コメディでしょ、なんで気絶するの」

「痛そうですよね」

「痛そうだけど、誰も死なないわよ」

「痛そうな映画はダメなんです」

 わたし、レッドを抱き上げて背中をポンポン。

 ダランとしていたレッドですが、だんだん目に魂が戻ってきましたよ。

 完全復旧すると、わたしにしがみついて、

「わーん、ポン姉がいじわるゆえー」

「わたし、なにもしてないですよね、ゴヅラがこわいだけですよね」

「ポン姉のばかー」

 って、レッドが叫んだ時です、保健室に光球が現れるの。

 その光球から、おたまを手にしたミコちゃん登場です。

 いやな予感ひしひし。

 ミコちゃん、わたしと保健の先生をにらむと、

「大の大人が子供を泣かせて!」

「い、いや、DVD見せたら泣いたんですよ」

「何を見せたの」

「ゴヅラ」

 ミコちゃん、テレビを見ます。

 ちょうど殺戮のシーンですが……そんなにこわい事はないです。

 痛そうだけど。

「このおバカ!」

 ミコちゃん、わたしと保健の先生にチョップ。

 ☆が出ました。

「痛い、本気チョップ痛いです」

 わたし、涙がちょちょぎれます。

「おお、痛いわよ、ミコちゃん」

 保健の先生、頭を抱えてプルプル震えるの。

 ミコちゃん、飛び出した☆を拾ってレッドに渡します。

 レッド、お星さまに大満足、ニコニコですね。

「ポンちゃんもこわいの知ってるから、見せたらだめでしょ」

「だって、テレビでやってる時はレッド死なないし」

「テレビとDVDだと内容がちょっと違うのよ」

「ああ! こわさとか違うのか!」

 そう言われれば、そんな気もしますね。

 地上波はそこら辺、マイルドになってるんでしょ。

 レッド、☆をポケットにしまうと、

「ねぇねぇ、きょうりゅう、みたいゆえ」

「恐竜はこわいんですよ、レッドをガブリです」

「でもみたいゆえ」

 って、ミコちゃんニコニコ、お玉をふりふり。

「ポンちゃんと一緒に見たに行ったらいいわよ」

「ふえ! きょうりゅう、みれるゆえ?」

 って、ミコちゃん、チラシを見せてくれるの。

 なになに、「大恐竜展」……磐田屋催し物会場でやってるみたい。

 保健の先生、横から、

「あ、そうそう、今、やってるわよ磐田屋で」

「今時恐竜なんて流行ってるんです?」

「夏休みの宿題の自由研究なんかにするのよ」

「はぁ」

 レッド、チラシを見て瞳が☆になってるの。

「いきたいゆえ!」

 わたしは行きたくない。

「レッド、食べられますよ、ガブリ」

「うう……」

 すぐ青くなります。

 保健の先生がニコニコ顔で「なにかしゃべりそう」になるの。

『保健の先生は黙る』

『あら、ポンちゃん、コワイわね』

『なにしゃべるつもりですか』

『恐竜展っていっても、化石とか模型……』

『黙っててください、わたしは行きたくないんだから』

『え? どうして?』

『磐田屋は街にあるんですよ、街はキケンがいっぱいです、モヒカン頭が跋扈して、七つの傷の男がいるんです』

 保健の先生、床にうずくまって、丸めた背中が震えているの。

 レッド、わたしをゆすります。

 ミコちゃんが、

「ポンちゃんと一緒に行けば大丈夫よ」

「やったゆえ!」

「ミコちゃん、どうしてもわたしを行かせたいみたい」

「いいじゃない」

 ミコちゃん、レッドの頭を撫でながら、

「レッド、いい、ポンちゃんなら、恐竜なんか一発なんだから!」

「!」

 レッドの表情、明るくなって、わたしは「どよーん」って感じなの。

「ミコちゃん、言うね」

「いいから、レッドと一緒に行く」

「おぼえてろ~!」

 レッド、わたしに抱きついて、

「そうゆえ、ポン姉つよいゆえ、あんしんゆえ」

 わたし、レッドのホッペをつまんで左右に「ビヨーン」。

「誰が強いですか、誰が!」

「いたいゆえ~」

「痛くしてるんですよ、まったくモウ」

 わたしがティラノやゴヅラより強いとでも言うんでしょうか?

 失礼なっ!


「ちょっと、ちょっと」

 朝です、声がします。

「ちょっと! ちょっと!」

 むー、朝の訪問者の言えばレッドなんですが、今日の声の主はミコちゃんなの。

 なにかな?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ