第175話「ドラ焼き級」
しかし、すぐに「カッ」と目を見開いて、
「ちょっ……ちょっと」
「どうしました?」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
「??」
朝の老人ホームのお手伝いです。
配達して、そのままおじいちゃん、おばあちゃん達のお相手。
コンちゃんも一緒で……コンちゃんは椅子に「どっか」と座っておばあちゃんの輪の中で一緒にお茶しています。
わたしは……今、おばあちゃんの手をひいて、保健の先生のところへ連れて行っているところなの。
「先生~、連れて来ました」
「はーい、いらっしゃい」
医務室には保健の先生が聴診器を下げて待っています。
「はい、座ってください」
わたし、おばあちゃんを座らせると、邪魔にならないように背後に回って、保健の先生に目で合図するの。
保健の先生もいつもの事で、わたしが退いたらすぐに診察始めます。
聴診器をおばあちゃんにあてたり、体をトントンしたりするの。
『あの、先生』
『何、ポンちゃん、テレパシーで』
『わたし、知ってるんですよ』
『何を?』
『これって服の上から聴診器あてたり、トントンするもんじゃないですよね』
『あら、ポンちゃん、物知りね』
『ちゃんと仕事やってます?』
『この機材は新型で、服の上からでも大丈夫なのよ』
『本当かなぁ~』
って、保健の先生、ニコニコで、
「はい、異常なしです、今日もよろしくね~」
これで診察終了、わたし、おばあちゃんを連れ出して、また次はおじいちゃんを連れて来ます。
おじいちゃんの診察も、服の上からなの。
『仕事してませんよね』
『信じてないわね』
保健の先生が目で合図するので、わたしは保健の先生の隣に行くの。
『そこのパソコンに画面が出てるでしょ』
『!』
おじいちゃんの写真と、いろんな数字が表示されているの。
『部屋のカメラでほとんどわかっちゃうのよ』
『へぇ! すごーい!』
『バイタルチェックはそこの椅子に座れば自動で終っちゃうの』
『むう、なんで聴診器あてるマネするんです?』
『おじいちゃん達はこれで「診てもらってる」って安心するのよ』
『だから診察ごっこしてるんですね』
『診察ごっこ……言うわね』
わたし、先生の隣でおじいちゃんの顔色を見ていると……その後ろのカーテンから、半分だけ顔を出してこっちを見ているレッド発見。
学校を抜け出して来ちゃったんですね。
「はい、今日で余命です、職員さんの言う事を聞くように」
「先生、言うのう、あばれてやる」
「ふはは、そんだけ元気なら、ゴハン3杯ね」
「3杯は無理じゃ」
そんな会話を聞きながら、わたしはおじいちゃんの手をひいて退場。
カーテンにしがみついたレッドが、じっとわたしとおじいちゃんを見ています。
退場するわたしの背後で、レッドが保健の先生に言うの。
「なにをしてるゆえ? やってほしいゆえ!」
保健の先生も、
「はいはい、レッドの診察するわよ、病気あったら注射するわよ」
「ちゅうしゃはこわいゆえ」
あとでレッドは学校に連れていかないといけませんね。
わたしとコンちゃんで、ぼんやりとお店番です。
今日はお客さんもいなくて、退屈。
そんなお店に近付いてくる足音があるの。
「あー、レッドが帰ってきちゃいました」
「そうじゃのう」
って、コンちゃん、定位置の席からレジに戻ってきます。
レジにいると「仕事やっている」事になって、レッドの相手をしなくてよくなるわけですよ。
さてさて、どうやってレッドを避けますかね。
コンちゃんに押し付けるのがいいんですが、下手するとわたしが押し付けられちゃう。
あ、見えてきました、レッドと千代ちゃんとみどりですね。
3人入って来ると、
「ただいまゆえ」
「おじゃましま~す」
「帰ったわよ!」
「「!!」」
わたしとコンちゃんに衝撃が走ります。
レッド、聴診器を下げているの。
『コンちゃん、レッドを見ましたか!』
『見たのじゃ、聴診器を下げておったのじゃ』
『コンちゃん、わかってますよね』
『おおう、わらわも大人じゃ、わかるのじゃ』
『お医者さんごっこですよね』
『そうなのじゃ』
レッド達は一度奥に手を洗いに行って、戻って来ると子供用のスペースへ。
わたし、コンちゃん、じっと見守るところです。
レッドがすまし顔で、
「はい、きょうはどこがわるいですかな?」
言いながら、まずは千代ちゃんに聴診器をあてます。
千代ちゃん小芝居でゴホゴホいいながら、
「風邪気味です」
「おお、それはそれは」
レッド、千代ちゃんの胸に聴診器を2・3度あてると、最後に胸をトントンして、
「おくすり、おだしします、おだいじに」
言うと、例の「ほれ薬」を千代ちゃんに渡しました。
千代ちゃんの診察が終ると、みどりがレッドの前に座るんです。
『千代ちゃん! 千代ちゃん!』
『何? ポンちゃん?』
『レッド、お医者さんごっこ変じゃないです?』
『?』
『普通、「はい、前を開いて」とかいって、胸をさわるのが!』
『ポンちゃん本当にエロポンなんだね』
『お医者さんゴッコと言えばそうでしょう』
『保健の先生のまねっこだよ』
『むう』
『おやつをみんなに配るためにやってるんだよ』
『ほれ薬じゃないですか』
『●ーグレットだよ』
わたし、コンちゃん、千代ちゃんで「お医者さんゴッコ」を見守ります。
レッド、難しい顔で聴診器をみどりにあてます。
でも、服の上からですよ。
『なんだかつまりませんね』
『レッドは腑抜けじゃのう』
『ポンちゃんもコンちゃんも……』
でも、レッドの様子、千代ちゃんの時とはちょっと違います。
難しい顔をしながら、レッド、聴診器をやめて胸をトントン。
あまりのシリアス顔に、みどりはちょっとびびっています。
千代ちゃんが、
『なんだか様子がおかしくない?』
『ですね……』
『じゃのう……』
レッドがみどりの胸をトントン。
別に「いやらしい」感じはしませんよ。
でもでも、「胸をトントン」だから、やっぱりいやらしいのかな?
レッド、トントンをやめて、すごいシリアスな表情でみどりの胸をモミモミ。
「胸をモミモミ」だから、いやらしいはずなんですが……
いや、すごい、迫真の演技、本気なお医者さんゴッコ。
って、胸を触るのをやめたら、みどりのしっぽを触ってます。
どうしてしっぽにいきますかね?
そして、なぜか、わたしを見つめるんですよ。
なにかな?
レッド、立ち上がるとわたしの方にやってきて、
「ポン姉もしんさつするゆえ」
「は、はぁ……」
レッド、わたしの胸に聴診器をあてて、それから胸をトントン。
「胸をモミモミ」してもいないのに、
「あわわ! みどちゃは! みどちゃは!」
「みどりがどうかしたんですか?」
「みどちゃのむねは、どらやききゅうゆえ!」
「!」
レッド、言うだけ言うと、わたしのしっぽをモフモフしながら、
「しっぽはポン姉がいちばんゆえ、しふくゆえ」
「ちょっと、レッド、いいですか?」
「なにごとですかな?」
「みどりの胸がドラ焼き級とは、どーゆー事ですか?」
「みどちゃ、ポン姉、おなじおおきさゆえ」
「「「!!」」」
わたし、コンちゃん、千代ちゃんに衝撃が走るの。
暗転バックに稲光な瞬間です。
コンちゃんと千代ちゃん、ダッシュでみどりに向かうの。
千代ちゃんがみどりを羽交い絞めにして、コンちゃんが胸を確認。
そして「この世の終わり」みたいな顔でわたしを見るんです。
千代ちゃんもみどりの胸をさわってから、やっぱり同じような顔でわたしを見てます。
「ちょっ! 二人ともなんでそんな顔でっ!」
「ポン、おぬし、みどりにまけておるかもしれん」
「私もびっくりした、確かにみどりちゃん、ちょっと胸大きいかな~とか思ってたけど」
「どれどれ」
わたしもみどりの胸をモミモミ。
「ちょっとアンタっ! なにしてんのよっ!」
「本当にドラ焼き級なんですか?」
「ちょっと! さわんないでよっ!」
「いいから、いいから……」
「やめなさいよっ!」
「たたたたしかに……ドラ焼き級!」
わたし、みどり、視線がぶつかります。
一瞬、火花が散ったかな?
って、みどりが目を細めて、「ふっ」って感じで笑み。
「気にしない事ね!」
「……」
「胸なんて、これから大きくなるわよ!」
「……」
みどり、笑みを浮かべる意味がわかんなかったです。
「でも」
「?」
みどり、邪悪な笑みに変わりました。
「でも、アンタが大きくなったら、ワタシも大きくなってるわね」
「!」
「ワタシがアンタと同じ歳になったら、ワタシの胸はそんなんじゃないわね、コン姉くらいかもしれないわね」
「む~!」
「もしかしたら、アンタもう大きくなんないかもね」
「クソー!」
みどりに言われっぱなしです!
クヤシイです!
誰か、わたしを、助けてくれてもいいと思うのに!
「!」
見れば、コンちゃんしゃがみこんで地面をドンドン叩いて……
見れば、千代ちゃん顔を背けて肩が微かに震えていて……
この二人は笑いを堪えていますね……いや、全然堪えてないでしょ!
「わーん、今に見ていろー!」
わたし、駆け出すの!
逃げてるんじゃないんです!
くやしいだけなんだからモウ!
保健の先生発見です。
わたし、ダッシュした先はココ。
そう、保健の先生は「ポワワ銃」を持っていたり、コンちゃんの腕のパソコンを作ったりして、「なんでもできそう」なの。
「保健の先生っ!」
保健室に入ってみれば、保健の先生と目の細い配達人がお話していたみたい。
二人の顔がこっちに向きます。
「なに? ポンちゃん、どうかしたの?」
「胸の大きくなる薬をくださいっ!」
「は?」
「胸の大きくなる薬ですよ! あるでしょ! 先生すごいんだから!」
「は?」
「わたしっ! みどりに胸で負けたっ!」
「はぁ?」
「まだ一緒だけど、みどりが大きくなったら確実に追い越されますっ!」
「……」
保健の先生、パソコンを操作して黙ってるの。
「そんなはずは……あらら、みどりちゃん、ロリ巨乳?」
保健の先生、改めてわたしに向き直って、メジャーを伸ばしています。
「どれどれ、ポンちゃん測ってみようか」
って、いつの間にか配達人に両腕をつかまれて万歳の姿勢。
保健の先生メジャーを回して、わたしの胸元で数字を読んでいるの。
「たしかに、服の分考えてもおんなじくらいね」
「でしょ! どーして! みどり小学生くらいなのに!」
「そんなの、たまにいるわよ、ロリ巨乳……巨乳ってポンちゃんと一緒じゃない」
「でもでも、小学生にしては大きいんですよね」
「まぁ、そうかなぁ、街には育ちのいい娘ゴロゴロしてるから、どうかなぁ」
「みどりが大きくなったら、胸も大きくなって、追い越されちゃうんですっ!」
って、わたしの視界の隅で、わたしから顔を背ける目の細い配達人。
向けた背中がプルプル震えています。
「ちょっと、配達人、笑ってますね!」
「笑ってないよ……プププ……笑ってないよ」
「笑ってる!」
もう怒った、叩きます!
DV?
わたし、今、タヌキ、人間の法なんて関係ないんだから!
えいえい!
ポカポカ!
どうだー!
「痛いよポンちゃん」
「痛くしてるんですよ、えいえいっ!」
「こ・わーい!」
「なにが『こ・わーい』ですか、えいえいっ!」
えいえい!
ポカポカ!
どうだー!
「い・たーい!」
「なにが『い・たーい』ですか、このっ! このっ!」
って、わたしの服を引っ張ってるのを感じます。
振り向けば、レッドが引っ張っているんですね。
「ポン姉、どうしたゆえ?」
「レッド、邪魔です、今、配達人を殺しているところなんです」
って、目の細い配達人、ニコニコ顔で、
「殺される~!」
「えいっ! えいっ! どうだー!」
「やられた~!」
って、レッド、わたしの服をグイグイ引っ張って、
「はいたつにん、かわいそうゆえ」
「いいんですよ、こんな男はっ!」
「やめるゆえ」
「わたしの傷ついた心を癒すには拳しか……」
「チュウ!」
「むー!」
「チュウチュウ!」
「む、む~!」
なんでレッドはキスしますかね。
引き離してみると……
「人が話している時にキスしないでくだ……」
「……」
レッド、じっとわたしを見つめているの。
いつもだったら「機嫌なおったゆえ?」とか言いそうなところなんですが……
今日はじっとわたしを見つめているだけ。
どうしたんでしょ?
って、いつになく「懐く」というか、「甘える」というか、わたしに抱きついてくるの。
小さな腕で、しっかりとしがみついてきます。
それから、あらためてわたしを見上げて、
「ぽ……ポン姉が……」
「どうしたんです、レッド、いつもと様子が……」
って、それまでわたしを見上げていたのが、保健の先生の方に顔だけ向けて、
「てんてー! ポン姉のむねがひっこんだゆえ!」
「「「!!」」」
わたしが!
保健の先生が!
目の細い配達人が!
衝撃が走るの!
ショック、動けなくなったわたし。
疾風の如く、配達人はレッドを抱き上げ、余った方の手でわたしの手首をつかんでバンザイさせます。
電光石火、保健の先生がわたしの胸にメジャーを回しました。
その一瞬が、とてつもなく長く感じられるの。
保健の先生、眼鏡が微かに震えるのがわかります。
「ポンちゃん……胸が、ドラ焼きから、おせんべいになっちゃってるわよ」
「っ!」
配達人に抱かれたレッドが、
「ぼうりょくするから、しぼんじゃうゆえ」
「っ!」
配達人だけが、真顔でいましたが、
「ポンちゃん、今の、みどりに話していい?」
「コロス……殺してやる!」
わたしの胸は「戦闘」すると減っちゃうみたいです。
くそう!
なんで減っちゃうんですかモウ!
「ちょっとコンちゃん、手伝ったらどうなの!」
「わらわは神ゆえ、ポヤンとしておるのじゃ」
「手伝え~」
「いやじゃ、働きとうないのじゃ」
「なまけもの~」