第173話「サバイバルゲーム」
ポン吉……遊んでばっかです……でもでも子供だからいいでしょう。
保健の先生……マッドサイエンティストですよね。
花屋の娘……グータラです。
帽子男……なんだかんだで、ヒットマンですよ。
コンちゃん……なんにもせんねん女王・ぐーたら女キツネ。
今、わたしは、学校に配達に来て、そのまま居残っているの。
となりではレッド画伯がわたしを描いている最中。
そしてお隣には、吉田先生が何故か座っています。
吉田先生の座っている席はポン吉の席。
問題のポン吉は、今、居眠りの罪で廊下に立たされています。
レッドはお絵かきに集中しているので、ちょっと吉田先生に、
「教壇に立たなくていいんですか?」
「今はテスト中だからいいの」
「テスト?」
漢字のテストなんですが……前の席の千代ちゃん見たら終ってます。
問題のテスト、10問なの。
すぐに終っちゃってるみたい。
「吉田先生、これって『小テスト』ってヤツですよね」
「なに、ポンちゃん、何かあるの?」
「小テストって5分とか10分でやっちゃうんじゃないんです?」
わたし、黒板見ます。
テストは1時間だそうです。
「漢字の書き取りテスト10問で1時間なんですか?」
「なに、ポンちゃん、文句ある?」
「5分とか10分じゃないんです?」
吉田先生、嫌そうな顔で、
「千代のテストは10問だけど、他のヤツのは別のテストなんだよ」
わたし、言われて他の生徒のを見回します。
たくさんの学年を同じ教室で教えてるから、テストもさまざま。
でもでも、どれも、簡単そうな10問のテスト。
「ぜったい10分ものですよね?」
「俺が先生だから、俺が決めるから」
「村長さんに言いますよ」
「チクったらミコちゃんにある事ない事言ってやる」
「こ、こわ……」
「ミコちゃんのお尻ペンペンすげーらしいじゃねーか」
「あれはきっと昭和なんですよ、昭和のお尻ペンペン」
「おお、昭和、それはこわそう」
吉田先生、一度教壇に戻ると、
「タヌキのポンちゃんがテストは長すぎると言います」
「え? わたしのせい?」
「なので、テストはもう回収します」
吉田先生が目で合図すると、後ろの席から前の席にテストが回されていくの。
集った小テストを揃えながら吉田先生はムスっとした顔で、
「先生、授業妨害されて機嫌悪くなりました」
「え? わたし、授業妨害なの!」
「俺が先生なんだろ、ポンちゃん横から口ばしつっこむなよ、代わりに授業やるか?」
「保健体育でいいなら」
みんなクスクス笑ってます。
吉田先生すごい嫌そう。
「先生、機嫌そこねたから、今日は映像講習な」
ってテレビでDVD再生しはじめました。
この間、夜やっていたN●K特集です、大きなイカのヤツ。
「今日は映像講習、いいな~」
吉田先生言うだけ言うと、隣の席に戻って来ちゃいました。
「ほら、ちゃんと授業やってるだろ、ちゃんと、みんなちゃんと見てるし」
「ビデオ流してるだけですよね」
「うるさいなぁ、今日は授業って気分じゃねーんだよ」
「いつもじゃないですか」
「コンちゃんがいけないんだぜ、コンちゃんが」
「え? コンちゃん? なんで?」
「昨日麻雀で面倒くさかったんだぜ」
「昨日? マージャン? 面倒くさい?」
そういえば、昨日、夜いませんでしたね。
今日はお店のいつもの席で、ポヤンとしていました。
「面子は?」
「俺と長崎ちゃん(保健医)と花屋と用務員と長老」
「あとコンちゃんですね」
「そう」
「多くないですか?」
「俺、なんだか途中で気分じゃないから脱落」
「でも多くないです?」
「長老は朝飯の支度があるから、脱落したんじゃないかな?」
「でも、先生、面倒くさいって知ったふうじゃないですか」
「長老が抜ける辺りで、最初はポンちゃん呼ぼうとしてたんだよ」
「嫌ですよ、面倒くさそうだし」
「で、結局長崎ちゃんを呼んだんだよ」
「うわ、呼びますか、保健の先生、あの人一番呼んじゃダメなタイプです」
「だって面子足りねーじゃねーか」
「いや、首、絞めるでしょ」
「ポンちゃんも言うなぁ、だから俺は降りたんだよ」
「どうしてコンちゃんも花屋の娘も帽子男(用務員)もOKしちゃうかなぁ」
「長崎ちゃん、酒入ってたんだよ」
「あやしいもんでしょ」
「コンちゃん達、グルになってやっつけようって思ったんじゃねーのか」
「で、返り討ちですか」
「多分な~」
そう言えば、今日のコンちゃん、魂が抜けている感じでしたね。
あの保健の先生、普段から面倒くさいオーラ背負ってるんだから、かかわったらダメです。
わたしならマージャン、村長さん辺りを呼んだらって思うんだけどなぁ。
吉田先生、隣の席で舟を漕ぎ始めました。
教室のみんなはビデオをじっと見ているみたい。
隣ではレッドが黙々とわたしを描いている最中。
わたしも退屈になっちゃいました。
窓の外を見れば、運動場には誰もいなくて、小鳥のさえずりが聞こえるの。
のんびりした時間が流れています。
レッドが絵を描き終わるまで、わたしも「ぽやん」とした時間を過ごしますか。
「ぽやん」とした時間を……
なんだか騒がしくなってきました。
運動場の端っこ、倉庫の方から声がするんです。
花屋の娘と……
帽子男かな……
ま、まさか……
あの二人、出来ていたとか!
痴話ケンカとか!
二人の争っている声が聞こえるの。
よ~く、耳を澄ませてみましょう。
『私の事、信じられないの!』
『いや、そーじゃなくてだな』
『ひどい、私より、保健の先生信じるのね!』
『だーかーらー!』
って、帽子男が倉庫から飛び出してきました。
追って花屋の娘です。
うわ、花屋の娘、手に銃、持ってます。
「死ねっ! 裏切り者っ! 浮気者っ!」
花屋の娘、発砲です。
あ、でも、エアガンが何かですね。
本物の銃じゃないですよ。
帽子男も抜いて反撃です。
帽子男の銃も本物じゃないみたい。
「死ねっ! 裏切り者っ! 浮気者っ!」
花屋の娘、BAN! BAN!
「浮気者ってなんだよっ!」
帽子男、BAN! BAN!
「私じゃなくて保健の先生に味方したからよっ!」
「だから、たまたま振り込んだだけで」
「私に回すのが仲間でしょー!」
「いや、だから、そのつもりで」
「男が言い訳か、女々しい!」
って、コンちゃんがフヨフヨ飛んでやってきました。
「そうなのじゃ、用務員が裏切り者なのじゃ、浮気者なのじゃ」
コンちゃん銃撃に参加です。
でも、コンちゃんどこからエアガン持って来たんでしょうね。
むう、きっとシロちゃんのを持ち出したんですよ。
帽子男VS花屋の娘&コンちゃんのバトルです。
ちょっと面白くなってきました。
教室のみんなも、ビデオそっちのけで窓側に集ってくるの。
「死ねっ! 用務員!」
花屋の娘、BAN! BAN!
「裏切り者は死ぬのじゃ!」
コンちゃん、BAN! BAN!
「お前らだって打つ手なしだったろーが!」
帽子男、BAN! BAN!
たまに流れ弾が教室に飛び込んで来ますが、みんなワクワク顔で見ているの。
そんな3人のバトルに、新たな参戦者、登場です。
「何よ、仲間割れ?」
笑いながら、保健の先生登場です。
「そんなチームワークで私に勝てる訳ないでしょ」
保健の先生、白衣をなびかせながら、
「所詮あんた達は私には勝てな……」
言った時です。
それまで仲間割れしていたコンちゃん・花屋の娘・帽子男の動きが変わったの。
「ふふふ、待っておったのじゃ」
コンちゃん、撃ちまくり。
「出てきたな、保健の先生」
花屋の娘、撃ちまくりです。
「よーし、3人いれば勝てるぞー」
帽子男も撃ちまくりなの。
保健の先生、校庭のオブジェに隠れて、
「ちょ、なんで私を撃つのよっ!」
まぁ、きっと昨日の麻雀の仕返しかなにかでしょうね。
わたし、吉田先生を揺すります。
「うーん、俺もよく知らないんだけどなぁ」
吉田先生、視線を泳がせてから、
「多分長崎ちゃんが3人相手に勝っちゃったからだろ」
「わたし、さっきから様子見てると……保健の先生相手に3人グルでかかったみたいですよね」
「だろうな~、長崎ちゃん、強いんだよ」
「麻雀で強いってなんなんです? だってどんな牌が来るかわか……」
「イカサマだよ、イカサマ、長崎ちゃん何でもするよ」
「え、そうなんだ、知らなかった!」
「まぁ、長崎ちゃんにとってはポンちゃんみたいな素人や、レッドやみどりみたいな子供が苦手なんじゃねーの」
「うーん、たまに一緒するけど、知らなかった」
「まぁ、西部劇、見ようぜ」
「ですね」
エアガン持っているコンちゃん達に対して、保健の先生は……白衣の下からポワワ銃を抜きます。
保健の先生の眼鏡が「キラリ」輝くの。
「何、3人掛りでヤロウっての?」
ポワワ銃を構える保健の先生。
「死ねばよいのじゃ、このインチキ保健医!」
コンちゃん、BAN! BAN!
「どんだけイカサマすんのよ、この詐欺師!」
花屋の娘、BAN! BAN!
「ツバメ返しとかするか、普通!」
帽子男、BAN! BAN!
「甘い、甘すぎる! 返り討ちよ!」
保健の先生、ポワワ! ポワワ!
「ねぇねぇ、吉田先生!」
「なんだよ、ポンちゃん」
「面白くなってきましたよ」
「ポンちゃんも好きだなぁ、でも長崎ちゃんが勝つんじゃねーの?」
「吉田先生は保健の先生が好きなんですか?」
「好き……とかじゃなくてさ、長崎ちゃん強いだろ」
「花屋の娘も強いですよ」
「用務員じゃないんだ」
「帽子男(用務員)も強いかもしれないけど、やっぱり3人なら……コンちゃんもゴット・シールドあるから無敵かも」
「じゃ、俺、長崎ちゃんに給食のムース」
「あ、ずるい、わたしも保健の先生に賭ける」
「ポンちゃんだって長崎ちゃんじゃねーかよ」
「でしょ、普通」
って流れ弾が教室に飛び込んで来るようになりました。
ぽわわ光線はあちこち反射して危ないです。
子供達は大はしゃぎ。
って、村長さんもやってきました。
「ちょっと、吉田先生、あの4人は何やってんの!」
「村長、俺に聞かないであいつらに聞けよ」
「だって危ないじゃない」
「エアガンだから死なねーよ」
「あの輪っかの光線はしびれそうよ」
って、村長さんの言葉に吉田先生もわたしも頷くの。
刹那、吉田先生、額に被弾、倒れます。
「くっ! 当たった、むかつくっ!」
起き上がる吉田先生、わたしと村長さんは真顔ですが……子供達は笑ってます。
吉田先生、そんな子供達を見て、身をかがめたまま、先生の机の方に向かうの。
棚のダンボールを引きずって戻って来ると、子供達の前で開いて、
「お前ら、今から得物を配る、あの4人を殺してこいっ!」
「はーい!」
みんな大喜びです。お絵かきしていたレッドもいつのまにか獣耳で跳ねているの。
ダンボールの中は大小さまざまな水鉄砲です。
吉田先生、大きなタンク付きのを手にして、
「これ、強いから、容赦なくあびせていいから」
「はーい」
「エアガン人に向けて撃ったらダメだけど、水鉄砲はいいから、喜ばれるから」
「はーい」
『あのあの、村長さん村長さん』
『何、ポンちゃん、小声で?』
『あのタンクが付いたの、当たったら痛いですよ』
『いいのよ、バカな大人相手だから』
って、いつの間にかポン吉がいます。
目を輝かせて、
「髭、どーなってんだ、面白そう」
「おお、遊びの名人いつ廊下から戻っていいって言ったか」
「だって面白そうだし」
ポン吉、目がランラン。
吉田先生、ポン吉には小さい水鉄砲を渡しながら、
「はい、お前の」
「髭~、オレにコレかよ~」
小さい水鉄砲を見ていたポン吉、千代ちゃんやみどりのタンク付を見てうらやましそう。
吉田先生ニヤリとして、
「ポン吉先生はすばらしい得物をお持ちかと思いますが?」
「!」
そんな吉田先生の目に応えるように、ポン吉に目も光るの。
「ポン吉先生は、タンク付なんかよりも、ずっとすばらしい得物をお持ちですよね?」
吉田先生、いつにない口調で言います。
その都度ポン吉の目の輝きが増すような気がするんですけど……
「いいのかよ、オレ、全部出しちゃってっも」
「いいぞー、長ちゃん殺してこいー」
「保健の先生殺すなら全力出すしかな~」
二人はなんだか物騒な事、話しています。
『村長さん、いいんですか、ポン吉、ホースから、水風船から、普通の風船も出してますよ』
『もう、どうでも、いいわ』
教室は、得物に水を満たした子供達がそわそわしているの。
吉田先生、ポン吉を見て、
「ポン吉がぶっ放したら、みんなで突撃な」
「はーい」
「長ちゃんを殺せ、長ちゃん、保健の先生」
って、みどりがちょっと青い顔で、
「保健の先生を撃ってもいいの? いいの? ねぇ!」
びびってますね。
吉田先生、ゆっくり頷いて、
「いいから、長ちゃんも、子供相手にいきなりは撃てないから」
千代ちゃんがニコニコで、
「吉田先生がヤレっていったからやるんだよね」
そんな千代ちゃんの言葉に急にみどりもニコニコ。
「先生の命令だから、やってあげるんだからねっ!」
「そうだよ、みどりちゃん、全部吉田先生のせいにすればいいから、私達のせいじゃなんだよ」
「しょうがないから、やってあげるんだからっ!」
生徒全員、やる気満々ですよ。
『ちょっとちょっと、吉田先生、いいんですか、後で保健の先生、怒りますよ』
『どっちにしても長ちゃん怒るだろうな……そうだ!』
吉田先生、改めて言います。
「花屋も用務員も、コンちゃんも殺していいから」
って、よろよろしながらタンク付を持っていたレッドが、
「コン姉ころしてもいいゆえ?」
レッドはコンちゃんスキーですからね。
って、吉田先生、ポン吉に渡していた小さい水鉄砲を奪い返すと、容赦なくレッドにシュート。
「ひやっ!」
レッド、水を浴びて踊ってます。
吉田先生撃つのをやめて、
「レッドよー、楽しくないかー」
「!!」
途端にショボンとしていたレッドの獣耳としっぽがビンビンに!
目が☆になってますよ。
「楽しいゆえ!」
「だろー、だから、水を当てまくると喜ばれるぞー」
「らじゃー!」
吉田先生、ポン吉に目で合図。
ポン吉……だけじゃなくて男子とか千代ちゃんが、ポイポイ水風船を投げました。
「死ねーっ!」
ポン吉のホース放水開始。
生徒全員が得物を手に駆け出すの。
外からは「きゃー」とか「なんじゃこりゃ」とか「何事なのじゃ」大人達の声がしますよ。
誰が最後まで生き残っていたか……は、みなさんの想像におまかせです!
お昼、お客さんはまばらです。
わたしはレジに立って、とりあえずはトングを磨いているところなの。
コンちゃんは定位置でテレビを見てポヤンとしていますね。
奥ではミコちゃんが夕ゴハンの支度をしている音が聞こえてきます。
今回、わたし、家出します! ええ、家出するんだからモウ!