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第180話「いろつき・さかり」

 わたしの設定は「中学生くらい」

 はて、コンちゃんとミコちゃんは「ご長寿」ってのはわかってます。

 でもでも、見た目は「若い」んですよ。

 むう!

 コンちゃん・ミコちゃんは何歳なんでしょ?


 ふう、配達完了です。

 今日の配達は老人ホームのおやつのお菓子だったんだけど、お昼ゴハンのお手伝いもあったから早めに行ったんです。

 でもでも帰り道に学校の昼休みにぶつかっちゃって、ドッチのお相手をしなきゃならなかったんですよ。

 老人ホームのゴハンのお手伝いはですね、まずは配膳なの。

 おじいちゃん達の中で歯のない人がいるから、簡単に噛み切れるお豆腐のような料理ばかりの人は、間違って配らないようにしないといけません。

 あとは食べたらダメなものがある人もいるから、専用のゴハンの人も結構います。

 そうそう、食べててゴホゴホ咳き込んじゃう人がいないか見てないといけなかったり。

 でもでも、いちばん嫌なのが、わたしのしっぽをモフモフしようとするおじいちゃん達なの。

 わたしがお茶を汲んでいたり、ゴハンを準備していたらいつの間にかしっぽを触っているんですよ。

 車椅子のおじいちゃん達なんか、一度集ると固まっちゃうから困ったものです。

 そしてドッチのお相手は言うまでもないでしょう。

 小学校の昼休みにドッチをするわけなんですが、本気を出せばブーブー言うし、接待するとブーブー言うしで面倒くさいんです。

 ドッチだけじゃなくてかくれんぼに鬼ゴッゴ、ひまわりに陣取り、色鬼・高鬼・タイヤ陣取り。

 どれも体を動かすのばっかです。

 体力じゃ小学生に負けないって思うけど、数が数だからやられっぱなしなの。

 それに小学生の相手をしたくない吉田先生や保健の先生・帽子男もわたしに押し付けるように仕向けてくるから要注意なんだから。


 お店に戻って来たわけなんですが、お客さんは常連さんが一組。

 お茶をしながらお話しています。

「あ、ポンちゃんおかえり」

「いらっしゃいませ、お茶まだ大丈夫です?」

「ああ、まだ大丈夫だよ」

「なくなったらコンちゃん起こしていいですから」

 わたし、いつものテーブルで舟を漕いでいるコンちゃんを見ながら言うの。

 常連さんニコニコ顔で、

「でも、コンちゃん起こすと機嫌わるいわよ」

「だからいいんじゃないですか、起こすんですよ、不機嫌にするんです」

「でも……コンちゃんは神さまなんでしょ」

「ですよ、一応『お稲荷さま』だけど、『なんにもせんねん女王』が正解ですね」

「女王さまなんだ」

「なにもしないですけどね」

 わたし、手をひらひらさせながら奥に行くの、メイド服ちょっと汚れたみたいだから着替えです。

 って、パン工房にミコちゃんと目の細い配達人を発見。

 二人は箱を手になにかお話の最中ですよ。

 新しい味のプリンかもしれません。

「どうしたんです、新しいプリンとか?」

 って、配達人はニコニコ顔で、

「今日はゼリー持って来たんだ、ポンちゃんも見る?」

「ゼリー」

 わたしはプリンの方がいいんだけど……ゼリーの箱を見れば……

「うわ、抹茶とメロンって色一緒ですよね」

「ロシアンゼリーできるよね、メロンと思って抹茶だと凹むよ」

「うーわー」

 ミコちゃん、持っている箱を見せてくれながら、

「グレープフルーツとパイン・バナナもきっとロシアンよ」

「黄色か~」

 って、配達人とミコちゃんが箱を見ながら話しているのを見ていると……

「なんだか恋人か夫婦みたいだよ」

「「!」」

「結婚したらどうです? 配達人はミコちゃんが好き?」

「うん、ミコちゃん好き、叩かないから」

「ほお、では、わたしは?」

「スキスキー」

「棒読みになってますよ、叩きますよ」

「こ・わーい」

 ミコちゃんを見ればニコニコしているだけで、特になにもないようです。

 でも、この時、配達人が、

「ミコちゃんは俺より若いよね」

「!」

 わたし、配達人をにらんで、

「そんなわけないでしょ!」

「いや、ミコちゃん俺より若いよね、1歳2歳若いよね」

 わたし、今度はミコちゃんをにらみます。

「ミコちゃん、本当ですか!」

「え、えーっと」

「ミコちゃん何歳なんですかっ!」

 ミコちゃん、笑顔が固まっています。

「えっと、私が人柱になったのは……」

「人柱になった時の年齢ですよ」

「ポンちゃんなんだかこわいわよ」

「いいから、何歳!」

「じゅ、じゅうろく……!」

 配達人ニコニコで、

「ほら、俺より若い」

 ってその時コンちゃんがマグカップを手に、

「おかわりなのじゃ、コーヒーなのじゃ」

 入ってきました。

 わたし、今度はコンちゃんを捕まえて、

「ほら、コンちゃんは何歳ですか、当ててみるんですよ」

「えー、コンちゃんー」

 配達人、腕組みしてコンちゃんを見つめます。

 コンちゃんはへの字口で配達人を見返しているの。

「うーん、24くらいかな~」

「まぁ、許すかの」

「えー、コンちゃん24なの、そうなの!」

「わらわ神ゆえ、歳なぞないのじゃ」

 新しいコーヒーを受け取ってお店に消えていきます。

「ミコちゃんが16歳ってのもびっくりだけど、コンちゃんの方が歳上なのか……でも実権はミコちゃんだよね」

 わたしの頭上に裸電球点灯です。

「じゃ、わたしは何歳ですか」

「パス」

「ダメです、何歳ですか」

「えー、中学生くらいって設定だよね、14くらいでよくない、じゅーし」

「むー!」

 わたし、配達人の腕に腕を絡めると、

「ほら、ピチピチ中学生が腕を組んでくれますよ、ドキドキしますか?」

 わたし、配達人が青くなったのを見逃しません。

「なんで青くなるんですか!」

「い、いや、そんな事は」

「青くなりましたよね」

「だ、だって何を言っても叩かれるだろうし」

「叩きますよー!」

 って、もう叩いちゃってます、ポカポカ!

「痛いよ、ポンちゃん」

「青くなるからですよ」

「だ、だって嫌な予感しかしなかったし」

 って、またコンちゃんがマグカップを持ってきました。

 ミコちゃんにおかわりを注いでもらっている間。

「まぁ、ポンはこわかろう」

「コンちゃん言いますね」

「大体おぬしは中学生とは言っても、経験豊かなのじゃ」

「?」

「経験豊かなのじゃ」

「なんの経験ですか、なんの!」

「男」

「?」

「タヌキはケモノなのじゃ、やりまくりなのじゃ」

「~」

 コンちゃんいきなり言い出します。

 って、配達人びっくりした顔で、

「へぇ、俺、ポンちゃん中学生だからそんなの無いと思ってた」

「ありませんよ! コンちゃん今の何ですかっ!」

「タヌキはケモノ、基本やりまくりなのじゃ」

「むー、わたしは本当にないんですよ」

「え、だってエロポンではなかったかの?」

「それは『耳年増』という事です」

「本当かの、信じられんのう」

「コンちゃんとミコちゃんはどうなんですか!」

 わたし、ビシッと指差すの。

 ミコちゃん、愛想笑いで、

「私は処女だから人柱になったわけで……」

 まぁ、ミコちゃんはわかります。

 でも、コンちゃんは……

「わらわっも処女なのじゃ、神ゆえ……本当に経験ないのじゃ」

「うそだー! 綺麗だから男とっかえひっかえっぽいです」

「なんじゃとー!」

「なんにもせんねん女王だし」

「なんじゃとー!」

 コンちゃんはカンカンです。

 ん?

 でもでも、コンちゃん、確かに美人なんですが……

「男をとっかえひっかえ」は、ないですね。

「なにもしない」だけです。

 ぶっちゃげると「ぐーたら」なんですよ。

「これ、ポン、おぬし、わらわの悪口を考えているであろう」

「そんな事ないです」

「いいや、その目は貶める事を考えている目なのじゃ」

「じゃ、言います、ぐーたら」

「!!」

「ぐーたらです、なんにもせんねん女王」

「ぐぐぐ……ポンめ、言いおる」

「いいじゃないですか、『男をとっかえひっかえ』はやめますから」

 コンちゃんが男をとっかえひっかえ……ないと言えばないですが……

「コンちゃんの言っている『男』って『ポン太』とか『ポン吉』ですか?」

「子供ではないかの、仔タヌキなのじゃ」

「いつもポン吉と遊んでいるし、ポン太には絡むし」

「どちらも仔タヌキなのじゃ、子供なのじゃ」

 わたし、ミコちゃんを見て、

「ミコちゃんも、なんだかんだで経験豊富と思ってました」

「どうして?」

「だってお母さんみたいなんだもん」

「それってゴハン作って洗濯してるからよね?」

「だってわたし、ゴハン作れないし、洗濯は干すのと畳むのくらいです」

「洗濯……私も今は洗濯機に入れてボタンを押すだけよ」

 ミコちゃん笑ってます。

「だってミコちゃん子供の扱い慣れてるし、やっぱりお母さんっぽい」

「お母さんのところだけいただいておくわ」

「それにミコちゃんも美人さんだと思う、男とっかえひっかえ」

「ポンちゃんにかかったら、器量よしは男遊びしてる事になりそうね」

「だって、良い男が集って来てチヤホヤされたら気分いいですよ、逆ハーレム、ホストクラブ」

「そうかしら、私はレッドとかみどり、ポン太・ポン吉が好き」

「むう、わたしの直感では、ミコちゃんの隣にはラーメン屋さんで働いているイケメンさんです」

「ああ、あの、花屋さんのお兄さんね」

「ですです、ミコちゃんと結婚したらお似合いですよ、美男美女」

「そうかしら?」

 ミコちゃん考える風ですが、頬染めとかしないから、そんなにイケメンさんの事意識してないみたいですね。

「ミコちゃんの好みは?」

「うーん、生きている時は考えもしなかったし……そう……優しい人かしら?」

「優しい人か~」

「優しい人かの」

 わたし・コンちゃんつぶやきます。

「優しい」かどうかはわかりませんが、「優しそう」なのがいます。

 そう、目の細い配達人は「優しそう」というか「なにをやっても許してくれそう」です。

 わたし、配達人を「チョン」と押してミコちゃんにぶつけます。

「おお!」

「あらあら!」

 抱き合う配達人とミコちゃん。

 むう、配達人、「いい男」ではないけど、ミコちゃんより大きいから、なんとなく絵になります。

 3枚目が美女と引っ付くなんてドラマっではよくある事です。

 抱き合う配達人とミコちゃん。

 でも、意外なのは配達人は表情一つ変えない事。

 一方ミコちゃんは抱きしめられて赤くなってます。

「ミコちゃん本当に男性経験ないんですね、配達人に抱きしめられたらサブイボものですよ」

 って、わたしが言ったからかどうかは知らないけど、今度は急に厳しい顔になるの。

 怒った顔で配達人を押し返すと、ヘビのように髪をうねらせながら、

「配達人さん、もしかしたら、女遊びしまくってませんか?」

「え? 女遊び? 何の事かわかんないけど、多分してないよ」

「……そうよね、仕事でここにいるわけだし」

 ミコちゃん頬染めしながらも考える風。

 で、思い出したように、今度はミコちゃんがわたしを押すの。

 押されて配達人の胸の倒れ込むわたし。

 なんでしょう、配達人に抱きとめられると、ドキドキしちゃうの。

 わたし、配達人の顔を見ます。

「なんでわたしをギュッとすると青くなるんですか!」

 ドキドキ醒めて、なんだかムカムカ。

「だ、だってポンちゃん俺を叩くし」

「叩いてあげますよ! エイ! エイ!」

 わたし、配達人をポカポカ叩くけど、配達人は笑っています。

 って、ミコちゃんわたしの肩をトントン。

「ミコちゃん、なんです?」

「ドキドキしなかった?」

「ドキドキ……しましたけど……よくよく考えたらこの男は「抱き慣れて」るんですよ」

「あ、そうなんだ、私ドキドキして好きなのかと思った」

「この男を好きになる事なんてないんです、残念の極み」

「俺、絶対酷い事言われてるよね」

 配達人、わたしを捕まえてギュッと抱きしめると、

「ポンちゃん好きだ、結婚してくれ」

「嫌ですよ、セクハラで訴えますよ」

 でもでも、抱きしめられると確かに「ポッ」っと熱くなれます。

 本当、配達人でなければ恋愛までに進んじゃいそう。

 わたし、配達人の顔を見て「醒ます」と、肘でコツコツ攻撃です。

「ほら、もっと痛くしますよ、本気出しますよ」

「やっぱり暴力タヌキとは結婚できません、残念、よかった」

「あんだってー! 暴力タヌキとなー!」

「こ・わーい」


 あ、でも!

 ミコちゃんが高校生くらいって設定なのにはびっくりです。

 いつもお母さんみたいにゴハン作ったりしてくれてたから、そんなに若いなんて。

 ミコちゃん……むう……

 やっぱりわたしにとってミコちゃんは「昭和のお母さん」風かな。

 だってレッドやポン吉を折檻している時は本当に「おかん」なんだもん。

 ともかくミコちゃん、意外です!


「うーん、ケーキよね」

「ですです、ミコちゃんなら簡単ですよね?」

「そこなんだけど……『今の人気』を知りたいから……かな」

「なるほど、勉強家ですね」

「たまには他人の作ったのを食べてみないとね」


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