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すべて丸く収まら……なかった。

ある日の夜。

私は王都にあるマーカス公爵邸で、山積みの書類に埋もれていた。


「自由が…………ない!!」


とうとう限界がきて机に突っ伏して文句を言うが、誰かが私の代わりに仕事を片付けてくれるわけでもなく、状況は変わらない。


ここはお兄様の書斎。王都を揺るがす大事件(?)が発生してから早くも三か月が経過している。


「なんでこうなったの!?婚約解消して自由になる予定だったのに……!」


髪をぐしゃぐしゃっとかき乱して、私は心のままに叫んだ。


ヴィアラ・エメリ・マーカス。

結局私は、この邸に出戻ってきてしまった。




あの後、大けがをしたシドは彼のお母さんによって無事に右腕を癒してもらい、私たちは事情聴取を受けた。


王城に賓客として迎えられて一週間が経った頃、ノア様が息を引き取ったことを教えられた。


本来であれば大罪人として裁かれるのだが、事件を公にすることはできず、彼の死は病死扱いで公表。


呪われた神具が壊れたことで、王族や教会の人たちは操られている状態から解放された。


ノア様の遺体は、我が家が持っている墓地の一部に埋葬してある。血縁者ではないけれど、彼を苦しませたあの侯爵家の墓にいれるなどしたくなかったから。


お兄様は墓の前で、マカロンタワーならぬ胃薬タワーを作って涙ながらに祈っていた。今度生まれてくるときは、愛情ある家庭に……と切に願う。



私とバロック殿下の婚約はつつがなく(?)解消され、国外追放もなければ殴ったことを咎められることもなく穏便に平和的な解決がなされた。


バロック殿下は謹慎、のちに王都から離れた地で蟄居となり、王弟殿下の長男・グランバルム様が新国王として即位。

陛下と王妃様から、私は直々に謝罪を受けた。


宰相からは「ぜひグランバルム様の正妃に」と打診されたけれど、もう王族とはかかわりたくないので丁重にお断りした。


それに私には最愛の人がいる。「シド以外と添う意志はない」と伝えたけど、しつこくて……

シドが宰相ごと城を燃やしそうになってどうにか引いてくれた。


色々あったけれど、新国王が立って以来お兄様たちの計略通りに進んでいる。




ではなぜ私が邸でこんな状態になっているかというと、お兄様がグランバルム様を支える側近として重用され、忙しすぎて城からほとんど帰ってこられないからだ。


マーカス公爵家のことは私が担わねばいけない状態になってしまった……。


違う。


私が求めていたのはコレじゃない……!!


「こんなことならわき目もふらずにニースを目指して、あっちでシドと結婚しておけばよかった」


いくら嘆いても誰も助けてはくれない。

仕方なく、再びペンを握って仕事に向かう。


しばらくまじめに仕事をしていると、コンコンとノックする音がした。

返事をすると、ティーセットを持ったシドが入ってくる。


「どうですか~?進み具合は」


黒の正装に青いローブを纏い、見た目だけは貴公子になってしまった彼は、お兄様ほどではないけれど忙しくしている。


私と過ごす時間もあまりなく、今日は三日ぶりにその顔を見ることができた。


「進んだ分だけ、また新しいものがくるの。書類を全部燃やしたい」


半泣きでそう言うと、彼は苦笑いでお茶の準備を始める。


「イーサン様は国政で忙しいですからね。マーカス公爵家はヴィー様にかかってます」


「言わないで!ちょっと手伝うくらいがちょうどよかったの!こんなに本気で領地運営に取り組むなんて、自由がなさすぎる!」


シドが来てくれたことで、感情の起伏がおかしくなった私は、椅子から立ち上がって彼に抱きついた。

茶器をトレイに戻した彼は、優しく私を抱き締めて背中を撫でてくれる。


「城の方もそろそろ落ち着いて来るでしょうし、イーサン様が帰ってくるまでの辛抱ですよ~」


「帰ってこないわよ。帰ってきても闇堕ちしていて使いものになるかどうか」


「いっそすべて捨てて、一緒に逃げますか?」


「それもいいかもね」


そう言って彼の顔を見上げると、どうやら本気みたいだった。いつでもご一緒します、と目が言っている。


「逃げるって、魔導士協会の方はどうするの?」


「んー?何とかなるでしょう、俺がいなくても。それに、混乱は収まってきましたよ」


新王になられたグランバルム様との取引で、シドは魔導士協会に引っ張られてしまった。この三か月、彼は魔導士と教会の橋渡しをすべく奔走している。


彼の役職はなんと副会長。

引退すると言ったグラート師匠も、シドが強引に引っ張って会長職に就いている。


「私の護衛から魔導士協会副会長だなんて、大出世よね」


ふっと笑ってそう言うと、シドは露骨に嫌そうな顔をした。


「できれば断りたかったです。俺の平穏が……」


本人は、三年契約でまた私の護衛に戻ると宣言している。

いいのだろうか、そんなことで。


「あぁ~、早くヴィー様を妻にしたい……!教会で花嫁衣装を着たヴィー様に誓うんです。『病める時も、病める時も、健やかなる時も永遠に愛し続けます』と」


「あなた二回病んだわね」


そんなに魔導士協会がつらいんだろうか。

哀れみの目を向けると、熱っぽい目を向けられた。


「ヴィー様のおそばにいられないことがつらいんですよ」


「っ……!!」


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